●平成23(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ストロ

 本日は、『平成23(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置」平成24年7月17日』( http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120718145216.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由4(刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術,刊行物3記載の技術との組合せ阻害要因の看過)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、裁判官 武宮英子)は、


『2 取消事由4(刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術,刊行物3記載の技術との組合せ阻害要因の看過)について


(1) 刊行物2記載の技術

ア 刊行物2(甲2)から前記第2の3(2)エの刊行物2記載の技術が本願の優先日において既に公知であったと認定できることは,当事者間に争いがない。

イ 刊行物2には,以下の記載がある。
「ところで,手の仕草を認識するに利用可能な別の技術として,レンジファインダと呼ばれる,距離画像を入力する装置の応用が考えられる。このレジンジファインダ(判決注・原文ママ)の代表的な原理は,スポット光あるいはスリット光を対象物体に照射し,その反射光の受光位置から三角測量の原理で求めるといったものである。」(段落【0020】)
「そして,2次元的な距離情報を求めるために,スポット光あるいはスリット光を機械的に走査している。この装置は非常に高精度な距離画像を生成することができるが,その反面,装置の構成が大掛かりになり,高コストになる。……また,手や身体の一部に色マーカーや発光部を取り付け,画像によりそれらを検出し,手・身体の形,動きなどを捉える装置もあり,一部実用化されている。しかし使用者の利便性を考えると,操作の度に装置を装着しなくてはならないというのは大きなデメリットであり,応用範囲を非常に制約する。また,データグローブの例に見られるように,装置を手などの可動部に装着して使用する装置は耐久性が問題になりやすい。」(段落【0021】)
「【発明が解決しようとする課題】このように従来では,特殊な装置を装着することなく,簡易にジェスチャや動きを入力できる直接指示型の入カデバイスが存在しなかった。特に,3次元空間でのポインティングや視点の変更を容易に行える簡易なデバイスは存在しなかった。また,ユーザのジェスチャや動きをそのまま使って,アニメーションのキャラクタなどに自然な動きをつけたりすることができなかった。……」(段落【0024】)


ウ 以上の記載から,刊行物2記載の技術は,対象物体となる手や身体の一部に色マーカーや発光部を取り付けることなく,簡易にジェスチャや動きを,入力できる直接指示型の入カデバイスが存在しなかったことを課題とするものであるから,色マーカーや発光部を取り付けることを想定していない。


(2) 刊行物3記載の技術

 刊行物3記載の技術は,前記第2の3(2)エのとおりであり,入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものである。


(3) 検討

 上記のとおり,刊行物2記載の技術は対象物体に色マーカーや発光部を取り付けることを想定していないものであり,他方,刊行物3記載の技術は入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものであって,両者は,マーカー(再帰反射部材)の取付けについて相反する構成を有するものである。したがって,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載発明と刊行物3記載発明を同時に組み合わせることについては,阻害要因があるというべきである。よって,「本願発明は,刊行物1記載の発明,並びに,刊行物2及び刊行物3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである」(9頁28〜30行)とした本件審決の判断は,誤りである。


(4) 被告の主張について

 被告は,刊行物2の段落【0021】は,使用者の「手や身体の一部に色マーカーや発光部を取り付け,画像によりそれらを検出し,手・身体の形,動き」を認識する場合においては,「操作の度に装置を装着しなくてはならない」こと等が問題であることを説明するもので,手や身体の一部にマーカー等を装着する場合における問題を説明するものにすぎず,手や身体以外の物品等にマーカー等を装着する場合について述べたものではないから,本件審決が,刊行物2記載の技術を適用するとしている刊行物1記載の発明は,「ゴルフボール13とゴルフクラブ34の外形形状」を認識対象とするものであって,上記問題は無関係であり,原告が主張するような組合せ阻害要因はないと主張する。


 しかし,上記(1)のとおり,刊行物2記載の技術は,色マーカーや発光部を取り付けることを想定していないから,被告の主張は採用できない。


3 以上のとおり,原告主張の取消事由1−2及び取消事由4には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。


第5 結論

 よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。