●平成23(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権「フープ材カッター

 本日は、『平成23(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「フープ材カッター」平成24年7月4日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120709093549.pdf)について取り上げます。


 本件は、審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(本件審査及び審判手続の違法)および取消事由2(法17条の2第4項2号に係る判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『3取消事由1(本件審査及び審判手続の違法)について

(2)本件審判手続の違法について

ア法159条2項は,出願人に対する拒絶理由の通知を要しない場合を規定する法50条ただし書について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号(拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき)の場合において法53条1項により当該補正について却下決定する場合を含むものと読み替える旨規定している。また,法159条1項は,拒絶不服審判においては,決定をもって補正を却下すべき事由を規定する法53条1項について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号の場合を含むものと読み替える旨規定しているのであって,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明が特許請求の範囲の減縮(法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)の場合にも当該補正は却下されることとなる(法17条の2第4項)。


 その結果,法文上,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明について,特許請求の範囲の減縮に当たらないものとして当該補正を却下するときには,出願人に対して拒絶理由を通知することは求められていないこととなる。

イ原告は,本件審決は,回答書において原告が意図する発明に対する適切な補正の機会を与えることなく,本件補正を却下した違法があるなどとるる主張するが,後記2のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮に当たらないものである以上,更なる補正の機会を付与することなくこれを却下した本件審決の審判手続に原告主張の違法はない。


(3)小括

 よって,取消事由1は理由がない。


4取消事由2(法17条の2第4項2号に係る判断の誤り)について

(1)本件補正事項1について

本件補正事項1は,本件補正前の「前記スペーサ部1aの端部1bと前記ラム3の粗加工面とを同一平面に同時仕上げ加工する」を,「前記スペーサ部1aと前記ラム3の粗加工面とを同一平面に同時加工する」と補正するものであって,「スペーサ部1aの端部1b」から「の端部1b」を,「同時仕上げ加工する」から「仕上げ」を,それぞれ削除するものである。


 本件補正の結果,本件補正発明においては,ラム部の粗加工面と同一平面に同時加工される部位が,スペーサ部「の端部1b」だけでなく,端部以外のスペーサ部も含まれることとなる。また,「仕上げ」が削除されることにより,スペーサ部とラム部の粗加工面とを同一平面に同時加工する形態として,「仕上げ」だけでなく,それ以外の加工も含まれることとなる。


 したがって,本件補正事項1が特許請求の範囲の減縮に当たらないことは明らかである。

イこれに対し,原告は,本件補正事項1は単なる誤記にすぎず,意図的なものではないと主張する。


 しかし,本件補正後の請求項1の記載に技術的矛盾点や誤記はなく,発明として明確に把握できるものであり,また,本件補正明細書の記載とも矛盾するものではないから,本件補正事項1が単なる誤記であることが明らかであるということはできず,そうである以上,本件補正事項1が特許請求の範囲の減縮に当たらないと判断した本件審決に誤りはなく,原告の主張は採用できない。


(2)本件補正事項2について

 本件補正事項2は,「前記ラムの面のみをベースフレームとサブフレームとの間に円滑に摺動するために必要な隙間分だけ削除して前記ベースフレーム,サブフレーム及びラムを形成し前記動刃を前記フープ材入口側におけるラムの端面に埋め込み,ボルトにて固定するとともに前記固定刃をフープ材の排出口側におけるベースフレームの開口端に埋め込み,ボルトにより固定する」との事項を付加するものであるが,前記1(5)及び(6)で示した本件補正明細書の記載(【0006】【0013】)に照らすと,本件補正事項2によって付加された事項は,フープ材の切断時に動刃を安定化するという利点を有するものであるから,動刃を安定化するという課題を解決するものであるということができる。


 他方,前記2(2)のとおり,本願発明の課題は,従来の技術は,部品点数が多くなること,加工により鋼材に歪みが生じて各部品を均等な精度に加工することが困難となる結果,ラムの摺動が円滑でなくなること,加工歪みのない互換性のある部品を得ようとすれば多大な加工時間を要する厳しい精度管理をしなければならないことなどというものであって,本願発明は,これらの課題を,「ベースフレームとサブフレームとの間にラムが摺動し得る間隔を保つ高さがラムの厚さより僅かに高くなるようにスペーサ部をベースフレーム側に鋳造にて一体形成」し,「スペーサ部の端部とラム部の粗加工面とを同一平面に同時仕上げ加工する」という手段によって解決するというものである。


 そうすると,本件補正事項2は,原告の意図はともかく,結果的にみて,本願発明の課題に追加して,新たな課題を解決しようとするものであるといわざるを得ず,本件補正事項2が法17条の2第4項2号の要件に該当しないとした本件審決の判断に誤りがあるということはできない。

(3)小括

 よって,取消事由2も理由がない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。