●平成23(ネ)10060 特許権侵害差止等反訴請求控訴事件

 本日も、『平成23(ネ)10060 特許権侵害差止等反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟「地盤改良機」平成24年6月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120703114851.pdf)について取り上げます。


 本件では、当審において追加された当事者の主張(本件発明2−1に関する均等侵害)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 池下朗、裁判官 武宮英子)は、


『3当審において追加された当事者の主張(本件発明2−1に関する均等侵害)について

 当裁判所は,イ号方法における掘削された土壌を排土せずに埋め戻す工程は,本件発明2の構成要件Aとの対比において均等の要件を満たすとはいえないから,イ号方法は,本件発明と均等な方法ではないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

(1)認定事実
本件明細書2(甲2)には,以下の記載が認められる。


 …省略…


(2)判断

ア置換可能性の有無について

 上記(1)認定の事実によれば,本件発明2は,「掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにすること」及び「従来のラップル工法に比して,掘削土壌量を少なくし,掘削土を埋戻し土として有効利用できるようにし,生コンクリート費用を不要にすること等によって全体の地盤改良コストを低下させること」を解決課題(目的)とすることが認められる。そして,本件発明2は,上記目的を達成するため,建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土し,所定開口面積,所定深さの空所を形成し,先に掘削・排土した土壌とセメント等の固化材と水とをそれぞれ所定割合づつ投入して,それらの材料を該空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させ,改良地盤を構築するものである。

 他方,イ号方法は,「空所形成工程a」において,建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積でかつ一定深さの上部空所(11)を形成し,その後,「縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」において,上部空所(11)の下方に,さらに支持層まで到達する所定深さの溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して,支持層の確認を行い,掘削土は排土せずに埋め戻すとの構成を採用している。


 そうすると,本件発明2の構成要件Aをイ号方法の「空所形成工程a,縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」に置換した場合,「先に掘削・排土した土壌とセメント等の固化材と水とをそれぞれ所定割合づつ投入して,それらの材料を該空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させ(る)」という本件発明2の作用効果は得られず,「掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにする」という本件発明2の目的は達成されることはない。


 これに対し,原告は,イ号方法について,?実際には縦穴(12)は下部空所(13)に近い大きさとなり,空所の全面堀削による支持層の確認に限りなく近づく,?地層が同一施工場所で変化していたり,掘削した先に腐植土が現われた場合,地盤改良体の底面の全面を掘り下げないと有効に使える支持層を確認することはできず,本件発明2の空所(2)を堀削することと変わらなくなる,?縦穴(12)に掘削土を埋め戻すが,その土は,他の堀削土と共に撹拌され,固化材と水とで混練りされてスラリーとなるとして,実質的には本件発明2の作用効果と同一の作用効果を奏する旨主張する。


 しかし,原告の主張は,いずれも失当である。上記のとおり,イ号方法の「縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」は,上部空所(11)の下方に,支持層まで到達する溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して,支持層の確認を行い,掘削土は排土せずに埋め戻すのであるから,その溝あるいは縦穴(12)の大きさにかかわらず,イ号方法において,一旦排土した土壌とセメント等の固化材と水とを所定割合ずつ投入して,空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させるという作用効果は得ることはできず,掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにするとは考え難い。


 したがって,本件発明2の構成要件Aをイ号方法の「縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」に置き換えることにより,本件発明2の目的を達することができるとはいえない。



イ異なる構成が本質的部分に存在するか否か

 本件発明2は,構成要件A(「建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積で且つ所定深さの空所(2)を形成し,」)を採用することによって,「掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにすること」及び「従来のラップル工法に比して,掘削土壌量を少なくし,掘削土を埋戻し土として有効利用できるようにし,生コンクリート費用を不要にすること等によって全体の地盤改良コストを低下させること」との課題を解決するものであるから,イ号方法における「上部空所(11)にさらに支持層まで到達する所定深さの溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して支持層の確認を行」った上で,掘削土を排土せずに,当該「溝あるいは溝穴(12)を埋め戻」す工程との異なる構成部分は,その本質的部分に存在するというべきである。


 これに対し,原告は,本件発明2の本質的部分は水量調整することにある旨主張する。


 しかし,原告の主張は失当である。本件明細書2の段落【0006】の記載によれば,本件発明2の従来技術であるソイルセメントコラム工法では,各改良体が円柱状になるので固化材が混入しない非改良体Kaができたり,固化材が粘土質の塊状の土壌内に進入しなくなるなどの問題点があったことが認められる。その記載中に湧き水によるスラリー中の水分割合についての問題点も指摘されているが,上記のとおり,本件発明2は,かかる水分割合の調整を解決課題としたものとはいえないから,本件発明2の目的が水量調整にあることを前提として,この点が発明の本質的部分であるとする原告の主張は,前提を欠き,失当である。


ウしたがって,イ号方法について,本件発明2に関する均等侵害が成立するとの原告の主張は認められない。


4小括

 原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却すべきものであり,これと同旨の原判決は正当である。原告は,その他縷々主張するが,いずれも上記認定判断を左右しない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。