●平成23(ネ)10060 特許権侵害差止等反訴請求控訴事件

 本日は、『平成23(ネ)10060 特許権侵害差止等反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟「地盤改良機」平成24年6月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120703114851.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等反訴請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、争点1〜3についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 池下朗、裁判官 武宮英子)は、


『当裁判所は,以下のとおり,原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。

1争点1(被告物件は本件発明1−1ないし1−3の技術的範囲に属するか)について

 当裁判所は,被告物件は本件発明1−1ないし1−3の技術的範囲に属しないと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4当裁判所の判断」の「1争点1(被告物件は本件発明1−1ないし1−3の技術的範囲に属するか)について」(原判決28頁12行目から35頁3行目)のとおりであるから,引用する。


 原判決34頁19行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。

「さらに,原告は,?本件発明1は,施工効率の維持を課題とするものではなく,施工管理の客観化と正確化を課題とするものであり,固化材液吐出ノズルがバケットに取り付けられたことは,課題の解決とは関係しない,?本件特許1の出願経過からみても,本件発明1−1の本質的部分は,コントローラやモニターに係る構成部分に存するのであり,『固化材液を吐出する固化材液吐出ノズル』に係る構成部分(構成要件B)に存するものではない旨主張する。

 しかし,原告の主張は,いずれも失当である。

 上記認定に係る本件明細書1の記載によれば,本件発明1は,『施工効率の維持・向上』も,本件発明1の解決課題であるというべきである。


 また,本件特許1の出願過程において,原告が,手続補正書(乙14)とともに提出した意見書(乙15)には,『(明細書に記載の効果)・・・a)改良すべき地盤内の土塊をバケットで粉砕し,かつ撹拌翼で撹拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出すると,土と固化材液とを混練りすることができる。このようにバケットを使うのでブロック状に地盤改良ができ,しかも流動化した状態で地盤改良ができるので,締め固めが不要になり施工効率がよくなる。b)バケットで撹拌混練りした跡のバケット先端位置移動軌跡は位置検出器で検出しモニター上で把握でき,同時にバケット内のミキサーで土と固化材液と混練りされた改良地盤内の電気比抵抗もモニター上で常時監視できる。よって目視できない土中でありながら,改良予定の地盤内の隅々まで混練りができ,かつ固化材液の過不足も生じないようにできる。このため施工途中で地盤検査する必要もなく,施工後に地盤検査する必要もないので,地盤改良工事を効率よく行え時間短縮ができる。』との記載がある。


 この記載によれば,本件発明1は,施工管理の客観化と正確化という解決課題に加え,『撹拌翼で撹拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出すること』により,『流動化した状態で地盤改良ができるので,締め固めが不要になり施工効率がよくなる。』と記載され,これらの課題解決ないし作用効果は,構成要件Bによって発揮するものと解される。そうすると,本件発明1−1の構成要件B『前記バケットに取り付けられた,固化剤液を吐出する固化材液吐出ノズル』との構成が,発明の非本質的部分にあるということはできない。」


2争点2,3(被告方法は本件発明2−1,2−2の技術的範囲に属するか)について

 当裁判所は,被告方法は本件発明2−1,2−2の技術的範囲に属しないと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4当裁判所の判断」の「2争点2,3(被告方法は本件発明2−1,2−2の技術的範囲に属するか)について」(原判決35頁6行目から39頁22行目)のとおりであるから,引用する。


 …省略…


(2)原判決38頁22行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。


「原告は,イ号方法においては,縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2が中間工程として存するが,縦穴形成工程,埋め戻し作業に技術的有意性は存しないこと等から,同工程を付加したイ号方法は,『中間に別個の無用ないし不利な構成(部材,物質,工程)を介在させた』迂回方法であり,イ号方法は本件発明2の技術的範囲に属すると解すべきであると主張する。


 しかし,原告の主張は失当である。被告の行為が原告の有する特許権を侵害するか否かは,当該被告の行為が,専ら,原告の有する特許発明の技術的範囲に属するか否か(すなわち,発明の特許請求の範囲の記載に係る構成のすべてを充足するか否か,又は特許発明の均等の範囲に含まれるか否か)によって判断されるべきであって,発明の特許請求の範囲の記載に係る構成の全てを充足しない場合においてもなお,『迂回』に当たることのみを理由として特許権を侵害するとする原告の主張は,その主張それ自体において失当である(最三小判平成10年2月24日民集52巻1号113頁参照)。


 上記認定のとおり,イ号方法における『上部空所(11)』は支持層までの深さを有するものではなく,『上部空所(11)の下方』は排土されないことから,イ号方法は,構成要件Aの『空所』には当たらない。そうすると,縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2の工程の有無にかかわらず,イ号方法は,構成要件Aを充足しない。」』

 と判示されました。


 なお、本件中で引用している最高裁事件は、●『平成6(オ)1083 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟「ボールスプライン事件」平成10年02月24日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121158050617.pdf)です。