●平成8(ワ)12109 特許権 民事訴訟 「製パン器事件」間接侵害

  昨日行われた今年の弁理士論文必須試験の特許・実用新案法では、別冊ジュリストの「特許判例百選[第三版]」のP166に、「80 間接侵害の成否(2)−製パン器事件」という題で掲載されている『平成8(ワ)12109  特許権 民事訴訟「製パン器事件」平成12年10月24日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D3E9D8C99CBE33E249256A77000EC3B6.pdf)に絡んだ問題が出題されたようですので、再度、「製パン器事件」を取り上げます。


 本件では、権利2に係る製パン方法の特許権について間接侵害が認められると共に、間接侵害品に係る対象被告物品を日本国内で製造し国外の者に販売・輸出する輸出等行為(外国譲渡)および対象被告物件を外国で購入し直接外国へ販売する行為(日本不介在譲渡)は侵害にならないと判断されました。


 なお、権利2の特許発明は、

イースト菌と水との接触を避ける様に、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをパン容器内にこの順に入れ、そのまま放置し、その後、タイマーにより混捏、発酵、焼き上げなどの製パン工程に移行することを特徴とする製パン方法。』

であります。


 争点は、

「1 権利2の対象被告物件は、発明2の実施にのみ使用する物か(間接侵害性)。
2 被告が、権利2の対象被告物件のうち米国への販売に係る物を製造、販売する行為は、権利2を侵害するか(外国譲渡)。
3 被告が、権利2の対象被告物件を中国で購入し、直接米国へ販売することは、権利2を侵害するか(日本不介在譲渡)。」

ありました。


 争点に関する当事者の主張は、

『1 争点1(間接侵害性)について
(原告の主張)
(1) 権利2の対象被告物件は、いずれも、パンケース8内にイースト、各種材料及び水を入れ、これらに対する混練及び発酵等の工程を自動化してあり、パンケース8をイースト、各種材料及び水のすべてを収納する一つだけとし、前記工程の開始時刻をタイマーで制御できるようにしてある製パン器である。そして、同物件の取扱説明書の指示から明らかなように、同物件をタイマー制御により使用する場合、使用者は、(i)水、(ii)小麦粉、油脂等のパン材料、(iii)イースト菌を、この順序でパン容器内に入れるから、同物件は、発明2の実施にのみ使用される製パン器である。

(2) タイマー付きの製パン器として、社会通念上、商業的ないしは実用的であると認められる用途は、タイマーを使用した製パンのみである。

(3) ある消費者が権利2の対象被告物件を購入し、1回あるいは数回の使用で、発明2の方法を実施しない(タイマーを使わない)ことがあったとしても、権利2の対象被告物件に他の用途があることにはならない。権利2の対象被告物件の使用者が、一度の使用においてタイマーを使わないことがあるとしても、その使用者が一度もタイマー機能を使わないということはありえない。なぜなら、もし使用者がタイマー付製パン器固有の機能・特徴に着目せず、タイマーを使う気がないのであれば、タイマーなしの製パン器を買うのであり、タイマー機能の付加価値分を支払ってまで権利2の対象被告物件を買うことはないからである。

(4) 被告が権利2の対象被告物件の他の用途であると主張するタイマーを使用しない使用方法は、発明2の技術的思想の中心であり発明2の重要な構成部分であるタイマー部分が使用されない(遊んでしまう)極めて変則的な使用方法である。

 このような使用方法では他の用途があるとはいうことはできない。

(5) タイマー付製パン器はタイマーのない製パン器の上位機種であり、権利2の対象被告物件において、タイマーを使用しない使用方法は、タイマーを使った使用方法の一部、又は、技術的、質的に下位の使用方法である。

(6) 発明2は、タイマーを用いる製パン方法であるから、間接侵害品たるべき製パン器はタイマー付きのものとなるが、タイマー付きの製パン器であっても物理的にタイマーを用いないで製パンを行うことは常に可能であるから、もしこの点を捉えて「のみ」の要件を欠くというのであれば、およそ権利2を侵害する行為といえるものはなくなり、権利2は特許として成立はしていても実際には何ら保護を与えられることがないという不当な結論に至ることになる。一方、被告としては、タイマーを外しさえすれば、間接侵害となることはなくなるから、権利2の対象被告物件が「のみ」の要件を充足すると考えても、何ら不当な結果を招くものではない。


(被告の主張)
(1) 権利2は、タイマー制御を前提とした製パン方法に関する発明であるが、権利2の対象被告物件において、タイマー制御は一つの機能にすぎず、同物件は、(i)タイマー制御することなく直ちに製パンすることや、(ii)クロワッサン等の生地のみの作成にも使用することができ、そのことは同物件の取扱説明書にも記載されている。

 したがって、権利2の対象被告物件は、発明2の実施にのみ使用される物ではない。

(2) 原告の主張について
 権利2の対象被告物件の上記(i)、(ii)の使用方法は、商業的実用的な用途であり、特に(i)は、同物件の基本的な使用形態である。他方、同物件のタイマー制御による製パン方法は、付随的使用形態にすぎない。
 したがって、原告の主張(2)ないし(5)は、いずれも失当である。


2 争点2(外国譲渡)について

(原告の主張)

 間接侵害は、本来の特許権の効力から付加されて与えられた効力であり、直接侵害を前提としていない。

 また、被告は、日本から米国市場へ向けて販売するという原告の経済的効用を奪っているのであるから、原告の独占は補償されるべきである。

 したがって、被告が権利2の対象被告物件を、米国所在の者に販売している行為も、権利2を侵害するものとみなされる。


(被告の主張)
 権利2の対象被告物件が、米国に販売される場合、この方法が実施されるのは日本ではなく米国であり、直接侵害を構成しないから、直接侵害を前提とする間接侵害も構成しない。


3 争点3(日本不介在譲渡)について
(原告の主張)
 特許権侵害の非難を受けるのは、人であり、物ではないから、侵害者が日本の裁判所の管轄に属する以上は、特許法の適用を制限する必要はない。


 特許法は、国内の特許権者による実施(生産からのその後の流通に至るすべての経済的効用)を特許権者に帰属させて、その引き換えに発明を公開している。


 したがって、そのような特許権者の経済的独占に影響を及ぼすものは、すべて「実施」としなければならない。近時、生産拠点が、徐々に海外へシフトする動きが出ていること、日本の製造業では主力が海外市場というものが多くあることを考慮すれば、海外で生産された物を海外に販売する行為を、「実施」でないとすれば、日本における特許権の価値が大きく減殺されてしまい、日本の特許権者が本来得るべき経済的効用の独占を奪い、特許権者に不当に不利益を課すことになる。


 したがって、被告が、権利2の対象被告物件を、中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売している行為についても、権利2を侵害するとみなすべきである。

(被告の主張)
 特許権属地主義からすれば、対象物件が日本の領土内に存在しない限り、我国の特許権を侵害するものではないというべきである。

 したがって、特許法第2条3項の「実施」についても、対象たる物が日本の領土内に存在すること(あるいは、対象たる方法が日本の領土内で使用されること)を前提とするものである。

 したがって、権利2の対象被告物件を、中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売する行為は、日本の特許権の侵害が問題となることはないというべきである。  』

と主張されました。



 そして、大阪地裁は、【争点に対する判断】として、まず、

『1 争点1(間接侵害性)について

(1) 被告は、権利2の対象被告物件には、タイマーを使用しない使用方法や、生地作りのみに使用する用途があるから、発明2の実施にのみ使用されるものではないと主張するので、以下この点について検討する。


 本来特許権は、業として特許発明の実施をすることを専有する権利であり(特許法68条)、方法の発明においては、当該方法を使用することによって初めて当該発明の価値が発現するものであるから、方法の発明において本来特許権侵害とされるべきものは、当該方法を使用して当該特許発明を実施する行為(特許法2条3項2号)であるのが原則である。


 しかしながら、方法の発明の実施を特許権者が捕捉することは困難であることが多いことから、単に方法の発明の実施行為のみを規制の対象とするのでは、特許権の効力の実効性を確保するのに十分とはいえない。そしてこの場合、方法の発明の実施に当たっては何らかの物を用いることが通常であることから、方法の発明の実施に用いられる物の製造、販売等を規制することとすれば、特許権の効力の実効性を確保するために寄与するところが大きいと考えられる。


 しかし他方、方法の発明の実施に用いられる物は多種多様であり、それらの生産、販売等を一律に規制の対象としたのでは、本来特許権の効力が及ばないはずの、当該発明方法以外の方法の実施をも規制することにつながり、特許権の効力が不当に拡張されることになるおそれもある。


 特許法101条2号が、特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を、その発明の実施「にのみ」使用する物を生産、譲渡等する行為のみに限定したのは、以上のような考慮に基づくものであって、そのような性質を有する物であれば、それが生産、譲渡等される場合には侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高いことから、その生産、譲渡等を規制しても特許権の効力の不当な拡張とならないとの趣旨に出るものであると解される。


 そして、このような観点から考えれば、その発明の実施「にのみ」使用する物とは、当該物に経済的、商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。なぜなら、業として製造、譲渡等される物が当該発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高いといえるか否かは、その物の経済的、商業的又は実用的な用途の有無という観点から判断すべきものだからである。


(2) そこで以下、権利2の対象被告物件が発明2の実施にのみ使用する物といえるか否かを検討する。


ア 権利2の対象被告物件は、別紙物件目録1、2−(1)、3−(1)、4ないし7−(1)及び8の各三1及び4記載のとおり、パンケース8内にイースト、各種材料及び水を入れて使用する物であり、これらに対する混練(混ねつ)、発酵及び焼成の工程が自動化されており、ケーシング1内にタイマー機能を有するマイクロコンピュータを備え、これにより混練、発酵及び焼成の工程の時間制御が行われる製パン器である。


 そして、証拠(甲18、21ないし24[枝番のすべてを含む])によれば、権利2の対象被告物件の取扱説明書においては、機種ごとに若干表現は異なるものの、各物件で山形パン(食パン)の焼成まで行う場合には、発明2と同じく、イースト菌と水との接触を避けるように、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをパン容器内にこの順序に入れる方法のみが記載されていると認められるから、山形パンを焼く場合に関する限り、権利2の被告対象物件を使用する一般消費者がそれ以外の順序でパン材料を投入することは、それら被告対象物件の実用的用途としては予定されていないと認められる。


 したがって、権利2の対象被告物件を使って山形パンを焼く場合において、さらにタイマー機能も使用する場合には、発明2を実施することになり、その他の経済的、商業的又は実用的用途はないものというべきである。


 なお、証拠(乙37、38)と弁論の全趣旨によれば、被告は、最近、2種類の製パン器(トータス株式会社にOEM供給していると思われるTYP800−10という型番とリーガルジャパン株式会社にOEM供給していると思われるK6745という型番のもの)の取扱説明書において、上記方法のうちパンケース8内に水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌を投入する順番を、(i)小麦粉、油脂などのパン材料、(ii)水、(iii)イースト菌とする(ただし、パン材料を容器の中央又は片側に寄せて、その余の部分に水を入れ、パン材料の上部にくぼみを作ってそこへイースト菌を入れることにより、イースト菌と水が接触しないようにしている。)ように記載していることが認められる。


 しかしながら、仮に、上記2種類の製パン器が、権利2の実施にのみ使用する物と評価できないとしても、上記2種類の製品の型番は別紙物件目録に記載されている権利2の対象被告物件の各型番とは異なるものであるから、上記製パン器が、権利2の対象被告物件に該当するのかどうかを認めるに足る証拠はない。したがって、乙37、38によって前記認定が左右されるものではない。


イ もっとも、証拠(甲18、21ないし24[枝番のすべてを含む])によれば、権利2の対象被告物件は、(i)タイマー機能を用いないで山形パンを焼く方法や、(ii)焼成機能を用いないでパン生地のみを作る方法(焼成は別のオーブンで行う)に使用することもできるものと認められる。そして、これらの方法で各被告物件を使用する場合には、(i)ではタイマーを使用しておらず、(ii)では焼き上げを自動で行っていないから、発明2の方法を実施するものとはいえない。


 しかしながら、特許法101条2号の「その発明の実施にのみ使用する物」という要件は、前記のとおり、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡される場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨に基づくものである。


 この趣旨からすれば、ある物が、当該特許発明を実施する機能と実施しない機能の複数の機能を切り替えて使用することが可能な構造になっており、当該発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても、当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら、当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が、当該物件の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認められない限り、当該物件を製造、販売等することによって侵害行為(実施行為)が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから、なお「その発明の実施にのみ使用する物」に当たると解するのが相当である。


 しかるところ、これまで述べたとおり、権利2の対象被告物件の使用方法には、(i)山形パンを焼くものと、(ii)生地づくりまでを行うものがあり、(i)にはタイマーを使用する方法と使用しない方法があり、使用者はいずれかの使用方法をその都度適宜選択して使用することができるものである。そして、証拠(甲18、21ないし24[枝番のすべてを含む])によれば、被告は、権利2の対象被告物件において、タイマー機能及び焼成機能を重要な機能の一つと位置づけていると認められ、また、使用者たる一般消費者から見ても、製パン器という物の性質上、タイマー機能や焼成機能がある製パン器を、タイマー機能がない製パン器や焼成機能のない製パン器(生地作り専用の機器)と比較した場合、それらの機能の存在が需要者の商品選択上の重要な考慮要素となり、顧客吸引力の重要な源となっていることは容易に想像がつくことである。


 そうすると、そのようなタイマー機能及び焼成機能が付加されている権利2の対象被告物件をわざわざ購入した使用者が、同物件を、タイマー機能を用いない使用や焼成機能を用いない使用方法にのみ用い続けることは、実用的な使用方法であるとはいえず、その使用者がタイマー機能を使用して山形パンを焼成する機能を利用することにより、発明2を実施する高度の蓋然性が存在するものと認められる。


 したがって、権利2の対象被告物件に発明2との関係で経済的、商業的又は実用的な他の用途はないというべきであり、同物件は、権利2の実施にのみ使用する物であると認められる。   』

と判示され、権利2の方法特許に基づく間接侵害を認容しました。


 次に、争点2(外国譲渡)について、

『(1) 被告は、権利2の対象被告物件のうち外国に販売されるものについては、発明2の実施にのみ使用する物に当たらないと主張する。この被告の主張は、特許法101条2号の「その発明の実施にのみ使用する物」との要件における「実施」は、日本国内におけるものに限られるとの趣旨であると解される。


 先に述べたとおり、特許法101条2号の「その発明の実施にのみ使用する物」という要件は、前記のとおり、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡等される場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨に基づくものである。


 そうすると、「その発明の実施にのみ使用する物」という要件が予定する「実施」がどのようなものでなければならないかを検討するに当たっては、当該特許発明の直接侵害行為(実施行為)を規制することとは別に、間接侵害行為をどの程度まで規制することが、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲で特許権の効力の実効性を確保するものといえるかという観点を抜きにしては考えられないものというべきである。


 しかるところ、本来、日本国外において、日本で特許を受けている発明の技術的範囲に属する方法を使用してその価値を利用しても、日本の特許権を侵害することにはならない。


 それは、日本における特許権が、日本の主権の及ぶ日本国内においてのみ効力を有するにすぎないことに伴う内在的な制約によるものであり、このような見地から、特許法2条3項にいう「実施」は、日本国内におけるもののみを意味すると解すべきである。


 そうすると、外国で使用される物についてまで「その発明の実施にのみ使用する物」であるとして特許権の効力を拡張する場合には、日本の特許権者が、本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの、外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり、不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。

 この点について原告は、外国において使用される物であっても、日本から米国市場に向けて販売するという原告の経済的効用を奪っていると主張するが、米国で発明2を実施することにより得られる市場機会は、日本の特許権者たる原告にはそもそもおよそ保障されていないのであるから、日本から米国市場に向けて販売するという原告の経済的効用も、日本の特許権によって保護されるべきものではないというべきである。


 したがって、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、日本国内におけるものに限られると解するのが相当であり、このように解することは、前記のような特許法2条3項における「実施」の意義にも整合するものというべきである。


(2) 被告は、権利2の対象被告物件を、(i)日本国内で販売しているのみならず、(ii)日本国内で製造の上、米国所在の者に販売・輸出しており、また、(iii)中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売しているが、(ii)及び(iii)は、いずれも、権利2の効力が及ばない米国で発明2の実施が行われることになるので、特許法101条2号の間接侵害を構成しないというべきである。


 なお付言するに、被告が製造、販売する権利2の対象被告物件の中には、日本国内で販売され、使用されるものも存在するが、製パン器という商品の性質からすると、それらの被告物件は主に一般家庭において使用され、その実施行為は特許法68条の「業として」の実施に該当しないものであるから、直接侵害行為を構成することがない。


 しかし、同法が特許権の効力の及ぶ範囲を「業として」行うものに限定したのは、個人的家庭的な実施にすぎないものにまで特許権の効力を及ぼすことは、産業の発達に寄与することという特許法の目的からして不必要に強力な規制であって、社会の実情に照らしてゆきすぎであるという政策的な理由に基づくものであるにすぎず、一般家庭において特許発明が実施されることに伴う市場機会をおよそ特許権者が享受すべきではないという趣旨に出るものではないと解される。


 そうすると、一般家庭において使用される物の製造、譲渡等(もちろんこれは業として行われるものである)に対して特許権の効力を及ぼすことは、特許権の効力の不当な拡張であるとはいえず、かえって、上記のような政策的考慮によって特許権の効力を制限した反面として、特許権の効力の実効性を確保するために強く求められるものともいえる。


 したがって、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、一般家庭におけるものも含まれると解するのが相当であり、このように解することは、特許法2条3項の「実施」自体の意義には一般家庭におけるものも含まれると解されること(一般家庭における方法の発明の使用が特許権の効力に含まれないのは、「実施」に当たらないからではなく「業として」に当たらないからである。)とも整合する。


 よって、権利2の対象被告製品のうち、日本国内で販売されるものの製造、販売は、特許法101条2号によって侵害とみなされる。   』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。