●平成24(ネ)10002 損害賠償 特許権 民事訴訟

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 さて、本日は、『平成24(ネ)10002 損害賠償 特許権 民事訴訟 平成24年6月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120628155146.pdf)について取り上げます。

 
 本件は、損害賠償請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、侵害訴訟において明細書の記載の参酌して特許発明の技術的範囲を判断した点や、争点2(均等侵害の成否)において出願手続における意識的に除外を判断した点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小田真治)は、


『当裁判所は,本件控訴は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加・訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」(原判決18頁14行目ないし27頁3行目)記載のとおりであるから,これを引用する。


1原判決25頁12行目の「左右するものではない。」の後に,改行して,以下のとおり加える。

「また,原告は,本件発明2に係る特許請求の範囲の記載上も,「電話送受信ユニットをスロット内に収納したものを含まない」という否定的構成要件は,何ら記載されていないと主張する。


  しかし,前記のとおり,本件明細書の記載から,「電話送受信ユニット」と「移動体通信端末」とは別個のものであると解される以上,本件発明2に係る特許請求の範囲に「電話送受信ユニットをスロット内に収納したものを含まない」と記載されていないからといって,本件発明2における移動体通信端末は電話送受信ユニットを装着したものを含むと解することはできない。」


2原判決25頁22行目の「左右するものではない。」の後に,改行して,以下のとおり加える。


「さらに,原告は,本件発明2の構成要件Gにアンテナの入出力について記載がない以上,アンテナが移動体通信端末本体側にあることは必須ではなく,アンテナを持つ電話送受信ユニットがスロット内に収納されるものを含むと主張する。


  しかし,前記のとおり,構成要件Aの記載から,移動体通信端末にアンテナを備えることが規定されていること,本件明細書の記載から,「電話送受信ユニット」と「移動体通信端末」とは別個のものであると解されることに照らすならば,構成要件Gの記載から,アンテナを持つ電話送受信ユニットがスロット内に収納されていれば移動体通信端末がアンテナを備えていることになると解することはできない。


 また,原告は,本件発明2における移動体通信端末が移動体通信も行うことができないものに限定されるとの解釈を前提とすると,本件発明の目的,効果を奏しないこととなるので,採用できないと主張する。しかし,本件発明2における移動体通信端末は,それ自体では移動体通信を行うことができないとしても,電話送受信ユニットを収納することにより移動体通信を行うことができるのであるから,本件発明の目的,効果を奏しないものではない。」


3原判決26頁9行目の「技術的範囲に属しない。」の後に,改行して,以下のとおり加える。

「2争点2(均等侵害の成否)について

 原告は,被告端末本体が構成要件Aにおけるアンテナを備えていないとしても,被告製品は本件発明2の移動体通信端末と均等であると主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。

 被告製品は,以下のとおり,出願手続において,本件発明2の移動体通信端末から意識的に除外されたものに当たるというべきである。


 すなわち,本件特許権の出願手続において,原告は,特許庁から,特許出願時の特許請求の範囲の請求項1及び2が,引用文献である特開平9−149109号公報(乙7)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの拒絶理由通知を受けたのに対し,本件意見書において,上記引用文献には,携帯電話機の無線通信機能部品を内蔵する基本部と,携帯電話機の電話機能部品を内蔵する周辺部とが,分離可能に接続するように構成された携帯電話機ユニットが開示されているが,基本部にはアンテナが設けられているため,周辺部へ装着した際,基本部全体が収納されず,その一部(アンテナ)を外部に露出する必要があるが,上記請求項に係る発明では,移動体通信端末のスロットに電話送受信ユニット全体が装着されるような形状に形成されており,これにより,移動体通信端末が有しているデザインへの影響を最小限に止めることができ,このような技術思想は,引用文献には開示も示唆もされていないとの意見を述べた(乙9)。上記出願手続過程に照らすならば,電話送受信ユニットにアンテナを設けるという構成は,意識的に除外されていたと解するのが相当である。

 したがって,被告製品が本件発明2の移動体通信端末と均等であるとは認められない。』

 と判示されました。


  なお、同日に出された『平成24(ネ)10001 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟 平成24年6月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120628154037.pdf)の事件もほぼ同じ判断がされていました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。