●平成23(行ケ)10319 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10319 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「複数のメディア・オプションを用いた入力通信イベントを管理するシステムおよび方法」平成24年6月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120622163101.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、


『1取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について

(1) 本願発明において,前記第2の2(1)のとおり,「コマンド信号」は,通信イベントのメディア・フォーマットが通信イベントの「発信者」により変更されるべきことを示すものであり,メディア・フォーマットの変更の主体は,「発信者」に限定されていた。


 これに対し,本件補正は,前記第2の2(2)のとおり,本願発明における「通信イベントのメディア・フォーマットが通信イベントの発信者により変更される」との発明特定事項を削除するものである。


 本件補正発明には,「通信イベントの発呼者」と,「前記の情報信号を受信した後のトランシーバユーザの入力に応じて,前記サーバにコマンド信号を送信する手段であって,該コマンド信号は,前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す,手段」との関係を示す発明特定事項は存在しない。


 そこで,本件補正発明において,「コマンド信号」は,メディア・フォーマットの変更の主体について,「発信者」に限定されるもののみならず,発信者以外が変更の主体となる場合を含むことになる。


 そうすると,本願発明において,「通信イベントのメディア・フォーマットが通信イベントの発信者により変更されるべきことを示す」ものであったところ,本件補正発明では,「コマンド信号」は,「前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す」ものとなったことは,特許請求の範囲における文言から明らかであるから,本件補正により,「コマンド信号」における「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体は,「通信イベントの発信者」に限定されず,「サーバ」のように本願発明には記載されていないものも含まれるようになったものというほかない。そのため,本件補正により,通信イベントの受信者のサーバに対する指示であるコマンド信号において,メディア・フォーマットの選択の主体が発信者に限定されるコマンド信号のみならず,発信者に限定されないコマンド信号をも含むものとなるものである。


(2) したがって,本件補正は,本願発明における発明特定事項を削除する補正事項を含み,発明特定事項を限定するものではないから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。


(3) この点について,原告らは,本件補正発明は,「通信イベントの発呼者」と明記されているとおり,通信イベントを発信するのは発呼者であるし,本件明細書【0044】の記載からしても,本件補正発明の「変更」の主体は「発呼者」というべきであるなどと主張する。


 しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲には,「通信イベントの発呼者」と,「前記の情報信号を受信した後のトランシーバユーザの入力に応じて,前記サーバにコマンド信号を送信する手段であって,該コマンド信号は,前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す,手段」との関係を示す発明特定事項は存在しないことは,先に述べたとおりである。そして,「通信イベントを発信する」ことと,「通信イベントのメディア・フォーマットを変更する」こととは,機能や処理内容が異なるから,両者の主体が同一とは限らないことはむしろ当然である。


 そうすると,原告らが指摘するとおり,本件明細書に「発呼者に,…通信イベントをオーディオまたはビジュアル・フォーマットで選択させる」との記載があるとしても,本件補正発明の特許請求の範囲の記載からすると,「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体が,本願発明と同様に,通信イベントを発信する者である「通信イベントの発呼者」に限定されているということはできない。


(4) 以上からすると,本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当しないとして,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはない。


(5)なお,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りがない以上,本件補正発明が独立特許要件を欠くとした判断の誤りに係る原告らの主張は,その前提自体を欠き,失当である。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。