●平成23(ワ)9600 意匠権侵害差止等請求事件「携帯用魔法瓶」

 本日は、『平成23(ワ)9600 意匠権侵害差止等請求事件 意匠権「携帯用魔法瓶」平成24年6月21日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120626083131.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康、裁判官 網田圭亮)は、


『1争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について

(1)本件意匠の構成

ア証拠(甲2,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠は,別紙本件意匠公報に記載のとおりであり,意匠に係る物品を「携帯用魔法瓶」とするもので,その構成態様は,次のとおりと認められる(なお,各項目のアルファベットは,上記当事者の主張に対応している。)。

(ア)基本的構成態様

Aキャップと本体とから構成されている。
Bこのキャップは本体の上部にあって,全体の略6分の1の高さで上乗せされている。
F平面の直径と全体の高さとの比率は略1:2.3である。

(イ)具体的構成態様

Cキャップの下端と本体との間には,本体の上端がなだらかに縮径することによって形成される溝部が存在し,その幅はキャップの高さの略5分の1である。
Dキャップの下端には周側面より突出した細帯環状の部分がある。
E本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に底面と平行に周回する細溝を設けてある。

イ原告は,構成態様Eについて,関連意匠2,3には,同構成(本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に横方向に周回する細溝を設けてある)をみることができないため,本件意匠の具体的構成態様に含めるのは相当でないと主張する。


 しかしながら,関連意匠の構成は,本意匠の要部ないし類似する範囲を検討するに当たってしん酌し得るものではあるものの,本意匠の構成態様自体を画するものではないため,当該主張には明らかに理由がない。


(2)被告意匠の構成

 証拠(乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠は,携帯用魔法瓶であって,その構成態様は次のとおりと認められる(なお,各項目のアルファベットは上記当事者の主張に対応している。)。


ア基本的構成態様

aキャップと本体から構成されている。
bこのキャップは本体の上部にあって,全体の略8分の1の高さで上乗せされている。
f平面の直径と全体の高さとの比率は略1:3.6である。

イ具体的構成態様
c被告製品のキャップの下端と本体との間には,両者の接合面が形成される。
d被告製品のキャップの下端には周側面よりさほど突出しない細帯環状の部分がある。
e本体の下部に底面と平行に周回する線状部分がある。
g本体の飲み口の外周面を覆う別部材のキャップが付されている。

(3)本件意匠の要部について

ア要部について

 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。


 したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。


イ需要者,使用態様について

 本件意匠及び被告意匠は,いずれも携帯用魔法瓶に関するものであり,その需要者は一般消費者である。

 同物品は,日常的に持ち運んで使用されることからすれば,需要者は,持ち運びの利便性に影響するその全体的な外観に着目するといえる(なお,これに含まれない本体の飲み口部についても,需要者は,携帯用魔法瓶を使用する際に一応着目するともいえるが,キャップをした際には人目に触れない部分であることからすれば,需要者が,全体的な外観以上に,特に当該部分に着目するとまでは認め難い。)。

ウ公知意匠について

(ア)証拠(乙1,6,11〜16)によれば,携帯用魔法瓶において,全体的に円筒形で,本体とキャップによって構成される意匠は,本件意匠の出願以前に公然と知られていたことが認められる(もっとも,円筒形における底面の直径及び高さの比率,高さのうち本体とキャップの長さの比率は,公知意匠においても一様とはいえない。)。

(イ)本件意匠の出願以前に公開されていた意匠公報(意匠登録651753号。乙11。以下「乙11公報」という。)には,上記(ア)の構成態様を備える携帯用魔法瓶について,キャップの下端と本体との間に環状に切り込み部分のある形状(ただし,その形状は,本件意匠の構成態様Cのように「溝部」を構成するものではない。)が開示されている。また,キャップの下端について,内側部材が周側面よりやや突出して細帯環状に現れる形状(その形状は,本件意匠の構成態様Dとほぼ同様である。)が開示されている。


 また,本件意匠の出願以前に公開されていた乙1号証の6ないし9の写真,乙11公報,意匠公報(意匠登録708969号。乙13。以下「乙13公報」という。)には,上記(ア)の構成態様を備える携帯用魔法瓶について,本体の下端寄りに,底面と平行になるように環状の線が入った形状が開示されている。さらに,乙1号証の7ないし9の写真には,当該環状の線の入った部分が横帯状の丸い膨らみになっている形状(その形状は,本件意匠の構成態様Eとほぼ同様である。)も開示されている。


エ関連意匠について

 本件意匠は構成態様C「キャップの下端と本体との間には,本体の上端がなだらかに縮径することによって形成される溝部が存在し,その幅はキャップの高さの略5分の1である」を備えるところ,関連意匠1ないし3のこれに対応する部分には,若干の切り込み部分(ただし,その幅は,被告意匠の接合面よりは大きいと認められる。)があるにすぎないことが認められる(甲3〜5)。


 また,本件意匠は構成態様E「本体の下端寄りに横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に底面と平行に周回する細溝を設けてある」を備えるところ,関連意匠3のこれに対応する部分には,特段の膨らみや細溝の形状は認められない(甲5)。

オ本件意匠の要部上記認定したところを総合して,本件意匠の要部について検討する。

 携帯用魔法瓶において,需要者は,その全体的な外観に着目するといえるものの,?全体の形状が円筒形で,本体とキャップとから構成された形状は,本件意匠の出願前に公然と知られていたものと認められる。

 そして,上記?の形状を備える携帯用魔法瓶において,?キャップの下端と本体との間に環状に切り込み部分がある形状,?キャップの下端について,内側部材が周側面よりやや突出して細帯環状に現れる形状,?本体の下端寄りに,底面と平行になるように環状の線が入り,当該部分が横帯状の丸い膨らみになっている構造についても,本件意匠の出願前に公然と知られていたと認められる。


 そうすると,本件意匠における上記?ないし?の形状の特徴自体は,本件意匠の要部を構成するものとはいえないというべきである(なお,上記?ないし?の形状は,独立して観察されることからすれば,これらの組み合わせ自体が要部を構成するということもいえない。)。


 したがって,本件意匠の要部は,上記各形状に係るより具体的な形状,すなわち,?円筒形の底面の直径及び高さの割合,高さのうち本体とキャップの比率,?キャップの下端の細帯環状の具体的形状,?キャップの下端と本体との間における環状の切り込み部分(溝部)の具体的形状,?本体の下端寄りの環状の線,横帯状の丸い膨らみの具体的形状にあるというべきである。そして,上記エのとおり本件意匠と関連意匠との対比を考慮すると,これらのうち,関連意匠とも共通する上記?,?を,類否判断に当たってより重視すべきであるといえる。

(4)類否について

ア本件意匠及び被告意匠の共通点及び差異点

(ア)共通点

 本件意匠と被告意匠が,全体の形状が円筒形で,本体とキャップとから構成された形状であることは共通する。

(イ)差異点
a全体の高さに占めるキャップの高さの割合
本件意匠は略6分の1であるのに対し,被告意匠は略8分の1である。

b底面の直径と高さとの比率
本件意匠は1:2.3であるのに対し,被告意匠は1:3.6である。

cキャップと本体との間の形状

 本件意匠は,キャップの高さの略5分の1の幅の溝部があるのに対し,被告意匠に溝部といえるものはなく,キャップと本体の接合面が存在するのみである。

dキャップの下端の形状

 本件意匠は,周側面より突出した細帯環状の部分があるのに対し,被告意匠は周側面よりさほど突出しない細帯環状の部分がある。

e本体のやや底面よりの形状

 本件意匠は,横帯上の丸い膨らみを持たせ,その突出頂上に横方向に周回する細溝を設けてあるのに対し,被告意匠は,底面と平行に周回する線状部分がある。

f本体の飲み口部の形状

 被告意匠は,外周面を覆う別部材のキャップが付されているのに対し,本件意匠にそのような形状はない。

イ類否の判断について

(ア)本件意匠と被告意匠には,上記ア(ア)の共通点があるが,この点が本件意匠の要部とならないことは,上記(3)のとおりである。

 本件意匠と被告意匠には,上記ア(イ)aないしfの各差異点があるところ,このうち,aないしeの差異点は,上記(3)で認定した本件意匠の要部に関する差異点といえる。


 そして,特に,全体の高さに占めるキャップの高さの割合(上記a),底面の直径と高さとの比率(上記b)及び本体のやや底面よりの形状(上記e)の差異によって,本件意匠は,全体的に底面積がより広く,立てて置いたときにより安定感のある印象を与えるのに対し,被告意匠は,全体的に底面積がより狭く,スリムな印象を与えるデザインとなっている。また,キャップと本体との間の形状(上記c),キャップの下端の形状(上記d),本体のやや底面よりの形状(上記e)の差異によって,本件意匠は,高さ方向に沿って,比較的凹凸がある印象を受けるのに対し,被告意匠は,比較的直線的な印象を与えるデザインとなっている。


 したがって,上記差異点は,被告意匠につき,全体として本件意匠とは異なる美感を生じさせるものということができる。


(イ) 原告は,被告意匠のスリム性は関連意匠3からも看取することができると主張するところ,関連意匠3についても,全体の高さに占めるキャップの高さの割合,底面の直径と高さとの比率は,むしろ本件意匠に近いものと認められるのであって(甲5),関連意匠3の存在により,本件意匠の類似範囲が被告意匠にまで及ぶということはできない。

 また,原告は,被告意匠の側面に凹凸部分がほとんどないことは,全体的にみたときに本件意匠と被告意匠とを全く異なるものと把握させるものではないと主張するが,携帯用魔法瓶の全体の外観のうち,全体の形状が円筒形で,本体とキャップとから構成された形状が公知であることからすれば,それ以外の側面の凹凸部分も,需要者の注意を惹くというべきである。


(5)小括

 したがって,本件意匠と被告意匠とは,その美感を異にするものであって,類似しない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。