●平成22(ワ)5719不正競争行為差止等請求事件不正競争民事訴訟

 本日は、『平成22(ワ)5719 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成24年5月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120621161242.pdf)について取り上げます。


  本件は、不正競争行為差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、不正競争防止法2条1項14号についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、裁判官 石神有吾)は、


『(イ) 原告は,被告が行った本件告知行為?は,●(省略)●これは,原告が本件特許権侵害の原因を作っているとの事実の告知にほかならないから,原告の「営業上の信用を害する事実の告知」に当たる旨主張する。


 そこで検討するに,不正競争防止法2条1項14号は,競争関係にある者が,客観的真実に反する虚偽の事実を告知し,又は,流布して,競業者にとって重要な資産である営業上の信用を害することにより,競業者を不利な立場に置き,自ら競争上有利な地位に立とうとする行為が,不公正な競争行為の典型というべきものであることから,これを不正競争行為と定めて禁止したものであるから,「営業上の信用」とは,「他人」(競業者)が被告知者等の第三者から受ける営業上の信用であり,これが害されるか否かがここでの問題である。


 そうすると,特許権を侵害しているとの告知がされた場合において,告知内容が,直接的には被告知者の行為のみを対象とするものであり,「他人」について言及されることがなかったとしても,被告知者が告知を受けた原因を「他人」に求めることが合理的といえる場合には,当該告知行為によって,「他人」は事実上の不利益を受けるに止まらず,被告知者から受ける信用が害されたというべきであるから,当該告知行為は「他人の営業上の信用を害する」告知に当たるといえる。


 これを本件についてみるに,原告,被告及びSDI社間の取引の経緯に照らし,被告は,本件告知行為?をした際,SDI社が正孔輸送材料を自社生産しておらず,SDI社製の有機ELディスプレイの(燐光発光)有機EL素子に正孔輸送材料として原告製品が使用されていることを十分認識し,SDI社においても,特に被告から正孔輸送材料の供給元を特定する告知がなくても,同様の認識をしていたことが認められる。このことは,SDI社が,平成19年8月中には,原告に対し,被告から本件特許に基づく告知行為を受けたことを伝え(前記(1)イ(ア)c),その後も原告とSDI社は,平成19年10月24日,平成20年1月22日,同年2月29日,同年6月3日,同年7月11日,同年9月18日,同月30日と,無効審判請求について頻繁に連絡を取っていたこと(甲17の別紙?,?,?ないし?,甲18の別紙?)からも裏付けられる。


 したがって,被告のSDI社に対する本件告知行為?は,●(省略)●原告の供給する原告製品が本件特許権侵害の原因となっているとの事実の告知であると認められるから,原告との関係において「営業上の信用を害する事実の告知」に該当するというべきである。


イ本件告知行為?について

 原告は,本件告知行為?として,●(省略)●
 この点に関し,甲17の別紙?ないし?,甲18の別紙?及び?には,原告の上記主張に沿う記載部分があるが,いずれもSDI社の従業員からの伝聞にすぎず,直ちに信用できるものとはいい難い。また,SDI社が被告の製品の採用を検討したことは認められるものの(乙11),結果的には採用されていないのみならず,被告がSDI社とのライセンス交渉において,被告から原告の製品の代替品として被告の製品の採用を積極的に求めたことまで認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告の上記主張は,理由がない。


・・・省略・・・


キ小括

 以上のとおり,原告主張の被告の本件各告知行為については,被告がSDI社又はSMD社に対して本件告知行為?,?及び?を行ったことが認められるが,その余については認められない。

 そして,被告のSDI社(SMD社を含む。以下,同様に,特に断りのない限りSMD社を含めて「SDI社」という。)に対する本件告知行為?,?及び?は,●(省略)●原告との関係において「営業上の信用を害する事実の告知」に該当するものである。


(3)「虚偽の事実」該当性

 原告は,原告製品を正孔輸送材料として使用したSDI社製の燐光発光有機EL素子は,本件発明1の構成要件Dを充足しないので,本件発明1及び5の技術的範囲に属さず,かつ,本件特許は,別件無効審決の確定により初めから存在しなかったものとみなされ,無効であるので,上記有機EL素子は本件特許権の侵害品に当たらないから,被告がSDI社に対して本件告知行為?,?及び?により告知した事実は,「虚偽の事実」(不正競争行為法2条1項14号)に該当する旨主張する。


・・・省略・・・


(ウ)小括

 以上によれば,原告製品を正孔輸送材料として使用したSDI社製の燐光発光有機EL素子は,本件発明1及び5の技術的範囲に属するから,この点に関しては,本件告知行為?,?及び?により告知した事実が「虚偽の事実」であるとする原告の主張は理由がない。


イ本件特許の無効について

 本件特許は,別件無効審決を維持する別件判決1が確定したことに伴う別件無効審決の確定により初めから存在しなかったものとみなされ(特許法125条本文),無効である。


 したがって,原告製品を正孔輸送材料として使用したSDI社製の燐光発光有機EL素子は,本件特許権を侵害するものではないから,被告がSDI社に対して本件告知行為?,?及び?により告知した事実は,この点において真実に反するものであり,不正競争防止法2条1項14号の「虚偽の事実」に該当する。


ウ小括

以上によれば,被告がSDI社に対して本件告知行為?,?及び?により告知した事実は,本件特許が無効であるので,「虚偽の事実」に該当し,また,前記(2)キのとおり,上記告知した事実が原告の営業上の信用を害する事実に当たるから,被告の本件告知行為?,?及び?は,原告との関係において「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」の「告知」の不正競争行為(不正競争防止法2条1項14号)に該当するものと認められる。』

 と判示されました。