●平成22(ワ)38525 商標権侵害行為差止等請求事件 商標権 民事訴

 本日は、『平成22(ワ)38525 商標権侵害行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟 平成24年5月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120614135543.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権侵害行為差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるか(争点3)及び原告の商標権の行使が権利濫用に当たるか(争点4)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏、裁判官 森川さつき)は、


『3 原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるか(争点3)及び原告の商標権の行使が権利濫用に当たるか(争点4)について


 ・・・省略・・・


(2) 以上に基づいて,まず,原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるか(争点3)について検討する。


ア商標法4条1項10号,15号及び19号について

 被告は,インディアン標章が,旧インディアン社(又はその承継者である現インディアン社)のオートバイを表示するものとして,需要者において広く認識されていた旨,又は米国その他世界各国における需要者の間で広く認識されている旨主張する。


 そこで検討するに,商標法4条1項10号,15号及び19号の判断時点は商標登録の出願時かつ査定時であるところ(同条3項参照),原告商標1〜3に係る出願時(順に平成4年2月6日,平成11年6月21日,平成14年12月28日)及び査定時(順に平成6年1月14日,平成12年7月28日,平成17年10月19日)においては,旧インディアン社がオートバイの製造を中止した1953年(昭和28年)から39年〜52年が経過しており,現インディアン社もオートバイの製造を行っていなかったのであり(前提事実(2)及び(4)ア,上記(1)ア),その他,原告商標1〜3に係る指定商品についてインディアン商標が使用されていた事実も認められないのであるから,インディアン標章について,上記各号に定める「他人の業務」があったとは認められない。


 そうすると,その余について判断するまでもなく,被告の主張はいずれも理由がない。

イ商標法4条1項7号について

 被告は,我が国において,外国における他人の標章の使用を知りながら,それと無関係な者が,当該他人の許諾を得ることなく,当該商標又はこれに類似する商標の設定登録を受けることは,その目的が,我が国で登録されていないことを幸いに,当該他人の標章に便乗して不正な利益を得るなどの不正な意図をもって使用することにあるものと認められる限り,公序良俗を害するおそれがある商標というべきである旨主張し,原告は,旧インディアン社と何ら関係がないにもかかわらず,旧インディアン社がハーレーダビッドソンと並び称される伝説のオートバイメーカーであったという名声に便乗して不正な利益を得ようとしたものであり,不正な意図が認められる旨主張する。


 そこで検討するに,商標法4条1項7号の判断時点は商標登録の査定時であるところ(同条3項参照),原告商標1〜3に係る査定時(順に平成6年1月14日,平成12年7月28日,平成17年10月19日)においては,旧インディアン社がオートバイの製造を中止した1953年(昭和28年)から41年〜52年が経過しており,現インディアン社もオートバイの製造を行っていなかったのであるから(前提事実(2)及び(4)ア,上記(1)ア),旧インディアン社及び現インディアン社について,インディアン標章の使用が認められない。


 そうすると,旧インディアン社が著名な会社であったため,その事業継続当時においてインディアン標章も著名ないし周知であったことや,旧インディアン社のオートバイ製造中止及び商標登録抹消後においても,インディアン標章がコモンロー商標権として米国において効力を有することが認められるとしても(上記(1)ア参照),インディアン標章の使用が認められない以上,原告において,他人の標章に便乗して不正な利益を得るなどの不正な意図をもって原告商標を使用する目的があったと推認することは困難であり,上記(1)イに認定した事情を併せ考慮しても同様であって,その他原告の不正な意図を認めるに足りる証拠はない。


 したがって,被告の主張は理由がない。

ウ以上のとおり,原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるとは認められない。


(3) 続いて,原告の商標権の行使が権利濫用に当たるか(争点4)について検討する。


アまず,原告に関する事情についてみるに,原告は旧インディアン社とは一切関係のない会社である(当事者間に争いがない。)。他方で,原告及びそのライセンシーは,雑誌等において,そのブランドが旧インディアン社に由来があることを示唆する内容の広告ないし記事を繰り返し掲載している(上記(1)イ)。しかしながら,従前において他者が使用していた標章であったとしても,商標法上の拒絶理由に当たらない限り,その商標登録が許されるのであるから,他者が使用していた標章であることのみで,商標権の行使が許されない事情に当たるとはいい得ない。また,原告商標1に係る出願の時である平成4年2月6日には,旧インディアン社がオートバイの製造を中止した1953年(昭和28年)から39年が経過しており(前提事実(2)ア及び(4)ア,上記(1)ア(ア)),そのころ我が国において旧インディアン社やインディアン標章が広く認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告又はそのライセンシーが旧インディアン社の沿革を利用して広告等を行ったと認められるものの,そうだからといって,原告が旧インディアン社やインディアン標章の信用・名声にただ乗りしたともいい難い(労力を費やして原告商標を含むブランドを自己のものとして再生したとの見方も十分に可能である。)


 続いて,被告に関する事情についてみるに,旧インディアン社のオートバイ製造中止及び商標登録抹消後においても,インディアン標章がコモンロー商標権として米国において効力を有することが認められるとしても(上記(1)ア参照),それはあくまで米国における効力であり,直ちに我が国における原告の商標権の行使を否定する事情にはならない。また,上記(1)ウに認定した被告に関する事情には,権利濫用の評価根拠事実は見当たらない。


イ以上を総合して考慮すると,被告標章1〜3及び5を使用することによって,実質的に原告商標の出所表示機能や原告ないし原告商標の信用を害しないということはできないのであり,その他本件に現れた事情を考慮しても,原告の商標権の行使が権利濫用に当たる事情を認めることはできない。


ウしたがって,被告の権利濫用の主張は理由がない。』

 と判示されました。