●平成23(ワ)12681 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴

 本日は、『平成23(ワ)12681 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成24年6月7日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120613161207.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争行為差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、争点1(原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康、裁判官 西田昌吾)は、


『1争点1(原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているか)について

 以下のとおり,原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものと認めることができる。


(1)原告標章の商品等表示性

 証拠(甲3の1〜280)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌の題号は,「ハートナーシング」ないし「HEΛRTnursing」であることが認められる。原告の主張は,要するに,原告標章が独立して商品表示性を獲得するに至っていると主張するものと解される。


 そこで検討すると,証拠(甲3の191〜280)によれば,原告は,原告雑誌の平成16年4月号から現在に至るまで,原告雑誌の表紙に原告標章を付して使用してきたことが認められる。具体的には,原告雑誌の表紙上段の誌名が記載される部分に,大きく目立つ態様で,以下の記載がされていることが認められる。


 なお,上記「nursing」の部分の上方には,何月号であるかを示す各号表示が記載されており,「nursing」の部分の下部には,より小さい文字で「ハートナーシング」と記載されている。


 このように,原告標章である「HEΛRT」の文字の部分が,「nursing」ないし「ハートナーシング」の部分よりも,格段に大きな文字で記載されていることからすれば,原告雑誌の表紙を見る取引者,需要者にとっては,原告標章が特に注意を引く部分であると認められる。


 被告は,「HEART」が普通名詞である又は原告雑誌の内容を説明する単語にすぎないから,商品表示とはなりえないとか,出版業界において,このような普通名詞を出版元の異なる複数の雑誌が使用するのは,通常のことである旨主張する。


 しかしながら,「HEART」とは,一般に,「心臓,胸」「思いやりの心,愛情」「興味,関心,勇気」「中心,核心」を意味する英単語であり,循環器疾患に係る医療やそれに関連する事項を直ちに連想させるものではない。また,循環器疾患に係る医療やそれに関連する事項を題材とした雑誌を刊行するに当たり,「HEART」の文字を使用することが必須であるとか,これを用いない誌名を創作することが困難であるなどといえないことは,多言を要しない。


 したがって,原告標章について,商品内容を普通に用いられる方法で説明したにすぎないものであるとか,他の同種商品と識別することができないものであるなどということはできないから,上記被告の主張は採用できない。


 後述する後記(2)の事実を併せ考えると,原告標章は,原告雑誌の題号のうち他の部分から独立して,商品表示として機能するものであるということができる。


(2)原告標章が,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものであること

 上記(1)に加え,以下のとおり,原告標章が,長期間にわたり,継続的かつ独占的に使用されてきたものであることなどからすれば,原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものであると認めることができる。


ア前提事実に加え,後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。


(ア)原告標章及び原告旧標章の使用

 原告は,昭和62年11月号(創刊号)から平成16年3月号までの間,原告雑誌の表紙に原告旧標章を付して使用してきた。

 その具体的な使用態様は,原告雑誌の平成11年12月号までは,原告雑誌の表紙上段の誌名が記載される部分に,大きく目立つ態様で,原告旧標章が記載され,その下部に小さく「ハートナーシング」と記載され,その右横に,同様の小さい文字で「nursing」と併記されていた(甲3の1〜139)。その後,平成12年1月号から平成16年3月号までの間は,前記(1)の原告標章と同様の構成で,原告旧標章が記載されていた(甲3の140〜190)。


 平成16年4月号以降は,前記(1)のとおり,原告標章が記載されている。

 原告標章は,原告旧標章の「A」の文字を「Λ」と替え,「R」の文字の右下の部分をやや右下に延ばしている点で原告旧標章と相違する。

 しかしながら,これらの相違点は,表示全体の構成から見ると些細な相違というべきであり,原告標章は,原告旧標章と実質的に同一のものである。

 したがって,原告標章は,それと実質的に同一の表示である原告旧標章が用いられた期間を含め,被告雑誌が刊行される前の20年間以上にもわたり使用されてきたものである。しかも,この間,原告標章ないし原告旧標章と同一又は類似する標章を使用した看護雑誌は存在しなかったから,原告は,原告標章を長期間にわたり継続的かつ独占的に使用してきた。


(イ) 原告雑誌の販売実績等及び広告・宣伝

 原告雑誌の発行部数は,各号につき概ね4000部を超えており,平成3年から平成23年までの1年当たりの発行部数は合計5万部ないし8万部である(甲5,22及び23)。


 また,原告雑誌の読者は,主として,心臓血管外科,循環器科及び集中治療室(ICU)に勤務する看護師であるところ,これらの診療科に所属する看護師の総数は,平成21年11月時点において,全国で合計約6万4500人と推定される(甲26)。


 原告雑誌は,病院・医療センター・専門学校などによって定期購読をされており,これらの施設に所属する看護師も読者となるものであるから,原告雑誌は,全国で想定される読者のうち相当程度の割合の者によって閲覧されてきたものである。


 原告は,これまで看護学会のプログラムや学会誌等において,原告標章ないし原告旧標章を付した原告雑誌の表紙を掲載し又は原告標章ないし原告旧標章をそのまま掲載した広告を繰り返しており(甲6〔枝番省略〕〜9),これらの広告・宣伝も,需要者に対する原告標章の知名度を高めたものである。


イ上記アの各事実に加え,原告社員の陳述書(甲21)並びに医師及び看護師の陳述書(甲27,67ないし73)によれば,原告雑誌は,循環器疾患に係る医療に従事する看護師を読者とする看護雑誌として,医師,看護師の間に広く認識されていたものであること,原告雑誌の取次会社,書店,定期購読者や読者である医師及び看護師は,一般に原告雑誌を「ハート」と呼称してきたことも認められる。


 なお,被告は,書店担当者(乙39,40)並びに医師及び看護師に対するアンケート調査の回答書(乙41ないし49)を提出しており,これらの書面には原告雑誌を「ハート」と呼称することはない旨の記載がある。

 しかしながら,原告提出の上記各陳述書が,前記(1)及び上記アの各事実により客観的に裏付けられているのに対し,被告提出の上記各回答書は,これらの事実と整合するものではない。


(3)小括

 前記(1)のとおり,原告標章は,原告雑誌の題号のうち他の部分から独立して,商品表示として機能するものであるということができ,少なくとも原告雑誌の題号のうちの要部であることに加え,前記(2)のとおり,原告標章が,長期間にわたり,継続的かつ独占的に使用されてきたものであることなどからすれば,原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものと認めるのが相当である。』

 と判示されました。