●平成23(行ケ)10318 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10318 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プレス加工方法における薄板断面成型法」平成24年5月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120605170032.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決に対する審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1〜3についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 池下朗、裁判官 武宮英子)は、


『1取消事由1(拒絶査定時の引用刊行物とは異なる引用刊行物に差し替えて判断した誤り)について

 原告は,拒絶査定時の引用刊行物とは異なる引用刊行物に差し替えて,本願発明の容易想到性を判断した審決には誤りがある旨主張する。


 しかし,原告の主張は失当である。


 特許法159条2項は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に,同法50条の規定を準用し,審判合議体が,査定の理由と異なる理由で拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,審判請求人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨規定し,審判請求人に対し,弁明の機会を付与している。


 本件についてみると,証拠(甲2,甲3,甲10,甲11)及び弁論の全趣旨によれば,本件の審判手続において,審判合議体は,査定の理由で引用した刊行物と異なる刊行物を引用刊行物とする拒絶の理由を発見し,原告(審判請求人)に対し,平成23年6月7日付けで,刊行物1及び刊行物2を引用刊行物とする拒絶理由を通知し(甲3),その後,原告が提出した平成23年7月22日付けの意見書(甲11)及び手続補正書(甲10)を踏まえ,審決したものと認められる。


 したがって,拒絶査定時の引用刊行物とは異なる引用刊行物に基づいて本願発明の容易想到性を判断した審決に,原告の主張する誤りはない。


 なお,原告は,拒絶査定の理由と異なる理由で拒絶をすべきである旨の審決をすることは許されないとも主張するが,原告の同主張は,その主張自体失当であり,採用の限りでない。


2取消事由2(審尋に対する原告の「回答書」の内容を考慮しなかった誤り)について

 原告は,審判合議体が,審尋に対する原告の「回答書」の内容を考慮することなく審理し,判断した誤りがある旨主張する。

 しかし,原告の主張は失当である。


 証拠(甲3,甲5の1・2,甲6)及び弁論の全趣旨によれば,原告に対する平成23年2月23日付け審尋において,前置報告書に示された見解について「意見があれば回答してください。」と記載されていたこと,原告は,これを受けて「回答書」(甲6)を提出し,前置報告書に対する意見を述べたこと,審判合議体は,前置報告書に示された審査官の見解とは異なる拒絶理由を発見し,原告に対し,平成23年6月7日付けで拒絶理由を通知したことが認められる。


 以上の事実によれば,原告は,前置報告書に対する意見を回答しており,その意見を踏まえて審理が行われたものといえるから,審決の結論が,「回答書」に示された意見とは異なっていたとしても,審判手続に違法,不当があるとはいえない。


3取消事由3(審判合議体の不公正)について

 原告は,審判合議体には,?審判官が原告代理人に対し,復代理人を定めるよう指示する越権行為をした,?審判官が指示した補正案のとおりに原告代理人が手続補正書を提出したにもかかわらず,審判請求を不成立と判断した,?審判官が,本願発明について進歩性を認めないことを前提としながら,本件補正を認めた点で,公正を欠く行為がある旨主張する。

 しかし,原告の主張は失当である。


ア認定事実

 甲7の4(弁論の全趣旨から,本件の審判手続を担当する審判官ないし審判合議体が,原告代理人に宛てて送付した書面であると推認される。)には次の記載がある。


「15日に再度お送りいただいた補正案ですが,依然として全く不明瞭であるため,・・・先生には特許のクレームを書くノウハウがないものと判断して,当方の独断で,補正案を基礎としながら,当方が理解したとおりの発明を表現するように,書き改めてみました。本来,クレームは請求人が取得しようとする権利を請求人側が特定すべきであって,庁側が決定するものではありませんので,この案を採用するよう要請することはありません。あくまでも,参考として,こんな書き方もあるのではないか,ということです。請求人とも相談して,お望みの権利内容となるように必要なら手を加えた上で,補正してください。庁側が,請求人側に代わってサービスでクレームを作成する,または押し付ける,などという悪い先例とならぬよう,願いたいものです。今後は,クレームを書ける方に複代理人(判決注復代理人の誤記と認められる。)になってもらう,等の対応をお願いします。
【請求項1】・・・
ただし,上記補正案により明確化した本件発明は,特開昭58−135732号公報に記載された発明とは,第1の下金型の丸みの有無のみにおいて相違し,進歩性が認められる可能性は著しく低いことを付記しておきます。」


イ上記?の主張について

 上記ア認定の事実の,審判官ないし審判合議体が原告代理人に宛てて送付したと推認される書面(甲7の4)の記載によれば,審判官ないし審判合議体が審判請求人(原告)代理人に対し,復代理人を選任するよう指示したものと解することはできず,原告主張に係る越権行為があると評価できない。


ウ上記?の主張について

 上記ア認定の事実によれば,甲7の4には,請求項1に関する補正案が示されているが,「この案を採用するよう要請することはありません。あくまでも,参考として,こんな書き方もあるのではないか,ということです。請求人とも相談して,お望みの権利内容となるように必要なら手を加えた上で,補正して下さい。」との付加記載があり,同記載を併せて読めば,原告に対し,上記補正案を採用することを要請したものではなく,原告が手続補正を行う際の参考案が例示されたものと解される。


 したがって,原告が提出した平成23年7月22日付け手続補正書の内容が,上記補正案に全面的に依拠したものであったとしても,原告が自らの判断でこれを採用し,上記補正書を作成,提出したと解されるから,審判官ないし審判合議体に,原告の主張に係る「教示義務違反」等の違法があるとはいえない。


 また,原告は,本願発明は,新規性ないし進歩性に多少問題があっても,有用性の観点から,特許を付与されるべきである旨も主張する。しかし,特許法には,発明の新規性ないし進歩性の有無にかかわらず,その有用性によって特許を付与すべき旨を定める規定は存在しないから,原告のこの点の主張は失当である。


エ上記?の主張について

 上記ア認定の事実によれば,甲7の4には,「上記補正案により明確化した本件発明は,特開昭58−135732号公報に記載された発明とは,第1の下金型の丸みの有無のみにおいて相違し,進歩性が認められる可能性は著しく低いことを付記しておきます。」と記載され,同記載は,甲7の4記載の補正案に依拠して補正をしたとしても進歩性がなく,本件審判の請求は成り立たない結論に至る可能性がある旨示唆されているものと理解される。そして,原告(審判請求人)代理人において,同記載の内容を参照して,補正の要否等を検討することができる点を考慮すれば,上記の記載によって,原告が手続上の不利益を受けたとも考え難い。


エ以上によれば,甲7の4の記載がされたことにより,審判手続において,審決の手続に違法を来すものではない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。