●平成24(行ケ)10019 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成24(行ケ)10019 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年5月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120607102124.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、商標法3条1項柱書についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


『審決は,本件商標は,商標法3条1項柱書,4条1項7号,10号,19号に違反して登録されたものではなく,同法46条1項1号により,無効とすることはできないと判断する。しかし,当裁判所は,本件商標が商標法3条1項柱書に違反しないとした審決の判断には誤りがあり,審決は取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

 …省略…

2判断


(1)商標法3条1項柱書は,商標登録要件として,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される。


 これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,?原告は,平成21年9月17日ころから,ウェブサイトにおける情報掲載,パンフレットの配布,プレスリリース等を行い,東京都を中心に,原告使用商標を使用して本件店舗の宣伝,広告を行っていたこと,?原告は,同年10月1日,東京都千代田区丸の内に,原告使用商標を使用し,飲食物の提供を業とする本件店舗を開店したこと,?被告は,同月24日,本件商標の登録出願をし,平成22年3月26日にその登録を受けたが,現在に至るまで本件商標を指定役務である「飲食物の提供」やその他の業務に使用したことはないこと,?本件商標と原告使用商標(1)は,類似すること,?原告使用商標は,原告が経営する飲食店「ローズ&クラウン」(Rose&Crown)の頭文字である「RC」(アールシー)と,英語で居酒屋や酒場を意味する「Tavern」(タバーン)を組み合わせた造語で,特徴的なものである上,本件店舗の宣伝,広告及び開店と本件商標の登録出願日が近接していることからすれば,被告は,原告使用商標を認識した上で,原告使用商標(1)と類似する本件商標を出願したものと考え得ること,?被告は,平成20年6月27日から平成21年12月10日までの短期間に,本件商標以外にも44件もの商標登録出願をし,その登録を受けているところ,現在に至るまでこれらの商標についても指定役務やその他の業務に使用したとはうかがわれない上,その指定役務は広い範囲に及び,一貫性もなく,このうち30件の商標については,被告とは無関係に類似の商標や商号を使用している店舗ないし会社が存在し,確認できているだけでも,そのうち10件については,被告の商標登録出願が類似する他者の商標ないし商号の使用に後れるものであることが認められる。


 上記事情を総合すると,被告は,他者の使用する商標ないし商号について,別紙2のとおり多岐にわたる指定役務について商標登録出願をし,登録された商標を収集しているにすぎないというべきであって,本件商標は,登録査定時において,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上,被告に将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思があったとも認め難い。これに対し,被告は,平成20年から,いわゆるシニア起業を協力者1名とともに計画し,予定業務について前広に商標の出願登録を行うとともに,飲食店の開業を目指し,神奈川県西部を中心に,いわゆる居抜きの店舗を探していたが,円高不況,大震災等により開業リスクが高まったため,一時開業を見合わせており,経済情勢の好転を待って小規模でも開業する予定であるなどとあいまいな主張をするのみで,これを裏付ける証拠を一切提出しておらず,その主張は,にわかに措信し難い。


 したがって,本件商標は,その登録査定時において,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標にも,将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標にも当たらず,本件商標登録は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものとは認められず,商標法3条1項柱書に違反するというべきである。


(2)この点について,審決は,上記事情をもってしても,被告の本件商標に係る使用の意思について合理的な疑義があるとはいえないと認定,判断する。しかし,登録商標が,その登録査定時において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に当たることについては,権利者側において立証すべきところ,本件商標についてこれを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,上記認定事実によれば,本件商標登録は,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用していない商標について,将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思もなく行われたものというべきであって,上記審決の認定,判断は失当である。


 以上のとおり,本件商標は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に該当しないというべきであり,本件商標登録が商標法3条1項柱書に違反しないとした審決の判断には誤りがある。

 付言するに,上記認定の事実関係に照らすと,本件商標は,原告使用商標を剽窃するという不正な目的をもって登録出願されたものとして,商標法4条1項7号(公序良俗に反するおそれのある商標)に該当する余地もあるが,本件においては,同法3条1項柱書該当性の判断で足りるものと解する。

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。