●平成23(行ケ)10426 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10426 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年5月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120605105437.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、商標法4条1項10号,15号,19号における判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、

『原告は,商標法4条1項7号,10号,15号,19号に該当することを理由として,本件商標登録の無効審判請求をした。これに対し,審決は,本件商標は,商標法4条1項7号,10号,15号,19号のいずれにも該当しないとして,同法46条1項1号の無効理由は存在しないと判断した。


 しかし,当裁判所は,本件商標が商標法4条1項10号,15号,19号に該当しないとした審決の判断には誤りがあり,審決は取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりであるが,事案に鑑み,取消事由2及び3を併せて判断する。


1 事実認定

 被告は,本件口頭弁論に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しないから,請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め,これを自白したものとみなす。自白したものとみなされる原告の主張事実及び証拠によれば,以下の事実が認められる。


(1) 原告における引用商標の使用状況その他取引状況等

 原告は,1962年(昭和37年)にイタリアで設立された自動車会社であり,主に高級スポーツカーを製造,販売しており世界的に著名である。原告の製造に係る自動車は,日本においても,1968年(昭和43年)ころから輸入が始まり,1970年代に「カウンタック」などがスーパーカーなどと呼ばれて人気となり,原告の名称の一部である「LAMBORGHINI」との引用商標も,原告又は原告の業務に係る商品「自動車(スーパーカー)」を表示するものとして,「ランボルギーニ」と称呼され,日本国内の自動車の取引業者や愛好家の間においても広く認識されるようになった。原告は,日本を含む世界103か国以上の国と地域において,引用商標である「LAMBORGHINI」のほか,「AUTOMOBILI LAMBORGHINI」,「『LAMBORGHINI』の文字と牛の図柄」(甲2商標等),「『AUTOMOBILI LAMBORGHINI』の文字と牛の図柄」などについて,自動車等を指定商品等として,数多くの商標登録をしている。


 このうち,甲2商標は,「LAMBORGHINI」の文字部分は,上向きに弧を描くように横書きされた文字部分に特徴があり,また,牛の図柄部分は,S字状に細長く上方に伸び,さらに先端部は丸みを帯びてふくらむよう描かれた特有の尾の形状(右側下に細い切り欠きがある)に特徴があるといえる(甲2,4,5)。(2) 被告における本件商標の使用状況その他取引状況等被告は,原告の製造,販売に係る自動車を模したカスタムバギー(ミニカー。道路交通法令において総排気量50cc以下又は定格出力0.6kW以下の原動機を有する普通自動車)を,「Lambormini」や「ランボルミーニ」との商標を使用して,宣伝し販売している。また,被告は,そのホームページ上において,「ランボルギーニを愛する11名が考えに考え抜いた究極のカスタムバギー/ランボルミーニ登場!」,「2009.6.1発売開始」,「あのフェラーリランボルギーニなどスーパーカー業界でも有名な『リバティーウォーク社』による夢のカスタムマシーンがついに登場!こだわりにこだわりぬいたフォルムはランボルギーニを完全再現!」,「ラボルギーニじゃなくてランボルミーニ!?」,「Lambormini/他では絶対見ることの出来ない。LBカスタムバギー!」,「ムルシエラゴのボディラインを巧みにデフォルメしたランボルミーニ。」との表示をしている。さらに,インターネット動画共有サービスであるYouTube(ユーチューブ)上には,原告の製造,販売に係る自動車と,被告の製造,販売に係るカスタムバギーを横に並べた動画がアップロードされている。被告は,欧文字「Lamborghini」(先頭のLの文字が大文字,その他の文字は小文字)を筆記体(斜体)で書した商標を付したカスタムバギーも製造している(甲3,49,50)。


(3) 引用商標の外観,称呼,観念等

 引用商標は,欧文字「LAMBORGHINI」が横書きされたものであり,欧文字である「LAMBORGHINI」との外観が生じる。また,引用商標からは,「ランボルギーニ」,「ランボルグヒニ」などの称呼が生じ得るが,上記のとおり,引用商標は,原告又は原告の業務に係る商品「自動車(スーパーカー)」を表示するものとして,日本国内の自動車の取引業者や愛好家の間においても広く認識されていることから,需要者において,「ランボルギーニ」との称呼が生ずると解される。さらに,引用商標は,欧文字で表記され,通常の日本人にとって,格別の観念を生じることはない。


(4) 本件商標の外観,称呼,観念等

 本件商標の構成は,別紙商標目録1記載のとおりである。

 本件商標は,欧文字「Lambormini」(先頭のLの文字が大文字,その他の文字は小文字)が,立体的に見えるように陰影を付した筆記体(斜体)により,上向きに弧を描くように横書きされた文字部分と,「Lambormini」の中央「o」の文字の上部から,S字状に細長く上方に伸び,さらに先端部は丸みを帯びてふくらんだ特有の形状(右側下に細い切り欠きがある)が付された,全体として動物の尾のように描かれた図形部分からなる商標である。本件商標は,文字部分が図形部分に比較して大きいことに照らすならば,看者に対して強い印象を与える部分は,文字部分であるといえる。


 また,本件商標の文字部分からは,「ランボルミニ」,「ランボルミーニ」との称呼が生じ得る。この点,審決は,本件商標からは「ランボルミニ」との称呼のみが生じると認定,判断するが,本件商標に係る商標公報には,本件商標の称呼(参考情報)として「ランボルミニ」のほか,「ランボルミーニ」が挙げられていること(甲52),上記のとおり,被告は,そのホームページ上で,「Lambormini」とのアルファベットと「ランボルミーニ」との片仮名を併用していることなどからすれば,本件商標からは「ランボルミーニ」との称呼も生じ得るものと認められ,審決の上記認定,判断は失当である。


 さらに,本件商標の文字部分は,後半の「mini」から,「ミニ」,「小さい」,「小型」を連想する余地はあり得るとしても,欧文字で一連に表記され,これらの文字列に対応した語は一般には存在せず,需要者において,その意味を認識,理解することはできない。また,本件商標の図形部分は,必ずしも何を描いたものか,明確に理解できるものとまではいえない。したがって,本件商標からは,全体として特定の観念を生じない。


2 判断

(1) 本件商標と引用商標との類否の認定,判断について

 本件商標は,その文字部分が看者に対し強い印象を与える部分といえるところ,本件商標の文字部分と引用商標を対比すると,本件商標の文字部分10文字中9文字が引用商標と同一であり(なお,本件商標は,Lの文字以外が小文字で構成されている。),引用商標の中程に位置する「GH」が「m」である点のみが相違するといえる。そして,本件商標からは,「ランボルミニ」ないし「ランボルミーニ」との称呼が生じるのに対し,引用商標からは,「ランボルギーニ」との称呼が生じ,本件商標の「ミ」ないし「ミー」と引用商標の「ギー」の部分のみが相違し,相違する音は母音構成を共通にする近似音であることからすれば,本件商標と引用商標とは,称呼において類似する。


 本件商標は,字体における特徴があり,また図形部分が付加されている点で,引用商標と外観において若干の相違があるものの,全体として類似するといえる。


 以上によれば,本件商標と引用商標は,本件商標の文字部分10文字中9文字が引用商標と共通すること,称呼において,相違する1音が母音構成を同じくする近似音であり類似すること,外観においても,若干の相違があるものの,全体として類似することに加え,前記原,被告の各商標の使用状況等取引の実情等を総合して判断すると,本件商標と引用商標は,互いに類似する商標であると解される。


(2) 商標法4条1項10号該当性について

 上記のとおり,引用商標である「LAMBORGHINI」は,本件商標の出願以前から現在に至るまで,イタリアの高級自動車メーカーである原告又は原告の業務に係る商品「自動車(スーパーカー)」を表示するものとして,日本国内の自動車の取引業者や愛好家の間で広く知られているから,他人の業務に係る商品(自動車)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標に該当するものと認められる。また,本件商標は,上記のとおり,引用商標に類似し,本件商標の指定商品には,「自動車」を含んでいる。そうすると,本件商標は,他人の業務に係る商品(自動車)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって,その商品(自動車)に使用をするものに該当すると認められる。


 したがって,本件商標は,商標法4条1項10号に該当する。


(3) 商標法4条1項15号該当性について

 また,上記のとおり,原告は,本件商標の出願以前から現在に至るまで,引用商標である「LAMBORGHINI」等の商標を使用して,「自動車(スーパーカー)」を製造,販売する業務を行っていること,本件商標は,引用商標と類似する商標であり,その指定商品に引用商標が使用されているのと同一商品(自動車)を含むこと,被告は,「Lambormini」や「ランボルミーニ」との商標を使用して,原告の製造,販売に係る自動車を模したカスタムバギーを製造,販売していること等を総合すると,本件商標は,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標に該当すると認められる。

 したがって,仮に本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとしても,同条同項15号に該当するものと認められる。


(4) 商標法4条1項19号該当性について

 さらに,被告は,上記のとおり,原告が世界的に著名な自動車メーカーであり,引用商標も原告の業務に係る商品(自動車)を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることや,かかる引用商標と本件商標が類似の商標であることを認識しながら,自動車等を指定商品等とする本件商標登録を行い,実際に「Lambormini」や「ランボルミーニ」との商標を使用して,原告の製造,販売に係る自動車を模したカスタムバギーを製造,販売していることが認められる。そうすると,本件商標は,被告が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認められる。


 したがって,仮に本件商標が商標法4条1項10号,15号に該当しないとしても,同条同項19号に該当するものと認められる。


3 結論

 以上によれば,本件商標が商標法4条1項10号,15号,19号に該当しないとした審決の判断には誤りがあり,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由があるので,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。