●平成23(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「マルチ

 本日は、『平成23(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「マルチレイヤー記録担体及び,その製造方法及びその記録方法」平成24年5月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120525141843.pdf)について取り上げます。


 本件は、審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、相違点1及び2に係る判断の誤りについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 障泄批チ規子、裁判官 齋藤巌)は、


『4 相違点1及び2に係る判断の誤りについて


 …省略…


(3) 相違点1について

 前記(1)カに記載されているように,光ディスクや光磁気ディスクの技術分野においては,ディスク1枚当たりの記録容量の増加を図ることは周知の技術課題であるところ,前記(1)アないしカの記載によると,その容量を増加させる手段として,実質的に平行な複数の情報層を設け,ディスクの片側からの光入射により記録,再生がされる構成とすることは,本件特許出願の優先権主張日当時,当該技術分野における周知技術であるということができる。


 そうすると,記録媒体である光磁気ディスクに対して記録を行うディスク記録再生装置による記録再生動作方法である引用発明においても,ディスク1枚当たりの記録容量を増加させるため,前記(1)アないしカ記載の周知技術を適用し,実質的に平行な複数の情報層を設け,ディスクの片側からの光入射により記録,再生がされる構成とすることの動機付けはあるということができる。


 したがって,引用発明について,相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,上記周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものである。


(4) 相違点2について

 前記2(2)のとおり,引用発明は,記録データが一定数(32個)のセクタ毎にクラスタ化され,光磁気ディスクへの記録は32個のセクタB0ないしB31の前後にそれぞれ3個のリンキング用セクタを付加した38セクタを単位として行われ,その38セクタ分の記録データについてインターリーブ処理を行うという記録方法であるところ,前記(1)カの記載に照らすと,2層の情報層を備えたマルチレイヤーの記録担体において,各情報層の記録方法を1層の情報層を備えた記録担体における記録方法と共通にすることが,互換性の観点から好ましいものであることは,当業者の技術常識である。


 また,引用発明は,上記記録方法を採用することにより,他のクラスタとの間でのインターリーブによる相互干渉を考慮する必要がなくなり,データ処理が大幅に簡略化されることや,フォーカス外れ,トラッキングずれ,その他の誤動作等により,記録時に記録データが正常に記録できなかった場合にはクラスタ単位で再記録を行うことができ,再生時に有効なデータ読み取りが行えなかった場合には,クラスタ単位で再読み取りを行うことができるという作用効果を奏するものであるが,このような作用効果は,引用発明における記録担体(光磁気ディスク)が1層の情報層が設けられた構成であるか,少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤーの構成であるかに関係なく,引用発明の上記記録方法によって得られるものである。


 そうすると,引用発明について,前記(1)アないしカ記載の周知技術を適用し,少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤー記録担体とする際に,各情報層への記録を,引用発明における上記記録方法によって行うことは,引用発明の上記作用効果を奏するために,当業者が当然に行うものであるということができる。


 以上によれば,引用発明において,少なくとも2つの情報層のトラック上にデータブロックの単位でデータを書き込むようにすること,すなわち,相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは,上記周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものであるということができる。


 したがって,相違点2に係る本件審決の判断にも誤りはない。


(5) 原告の主張について

 原告は,引用発明には上方情報層及び下方情報層という複数層の概念が存在しないから,均一な光透過率とすることにより,下方情報層へのデータ書き込みに悪影響を与えないようにするという2層構造に特有の本件補正発明の課題は,引用発明からは着想することはできないなどと主張する。


 しかし,引用発明において,前記(1)アないしカ記載の周知技術を適用する動機付けは存在することは前記(3)のとおりである。そして,引用発明に上記周知技術を適用する動機付けがあることが明らかである以上,引用発明に上記周知技術を適用して相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。また,前記(4)のとおり,引用発明に上記周知技術を適用し,少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤー記録担体とする際に,各情報層への記録を,引用発明における記録方法によって行うことは,当業者が当然に行うものであり,その結果,引用発明における記録方法で記録された各情報層では,クラスタ間のリンキングセクタL3で,リンキング用セクタに配されたダミーデータどうしが重複することは,前記3で検討したとおりである。


 そうすると,引用発明に上記周知技術を適用し,少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤー記録担体とする際に,各情報層においてクラスタ間にはダミーデータが配されたリンキング用セクタL3が重複して記録され,各情報層にはギャップは存在しないこととなるから,マルチレイヤー記録担体の上方情報層を通過して下方情報層に達する光を照射する際に,上方情報層における光透過率が均一となることは,その構成から当業者には自明である。


 したがって,本件補正発明が「均一な光透過率とすることにより,下方情報層へのデータ書き込みに悪影響を与えないようにするという」という課題を有するものであり,他方,引用発明は,このような課題を有するものではないとしても,異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段(構成)に到達することはあり得るのであり,実際,引用発明に上記周知技術を適用することにより,相違点1に係る本件補正発明の構成とした場合には,各情報層はギャップが存在しないものとなる以上,引用発明が複数の情報層を備えていないからといって,本件補正発明と同様の構成とすることが想到し得ないということはできず,原告の主張は理由がない。』

 と判示されました。