●平成23(行ケ)10296 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日も、『平成23(行ケ)10296 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「食品等の小分け容器,その打ち抜き方法及び打ち抜き装置」平成24年5月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120525093712.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由2(引用発明との相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、


『2 取消事由2(引用発明との相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 補正発明も,補正前発明と引用発明の一致点で引用発明と一致し,補正発明では,「切り込み部が,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のもの」であるのに対して,引用発明では,曲線及び切り欠きの形状についてこのような規定のない点で引用発明と相違するところ,審決が周知例として引用する甲第11号証(実用新案登録第3075056号)には,次のとおりの記載及び図面がある。


 …省略…


 また,乙第1号証(実願平4−76030号(実開平7−26379号)のCD−ROM)の段落【0001】,【0002】,【0006】ないし【0009】,図1,3にも,分離線であるスリットの両端に略4分の1円状の曲線(円弧)からなる切欠き部を設け,この曲線を直線であるスリットとが滑らかに接続されるようにした,個別の医薬品を包装するシート(ブリスター包装)が記載されており,上記のとおり切欠き部の曲線とスリットが滑らかに接続されるようにした結果,スリットが切欠き部の「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線と」重なり,切欠き部が「互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のもの」になっている。


 そうすると,甲第11号証においても,乙第1号証においても,「分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結」んでおり,切り込み部の「円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線」としており,したがって上記切り込み部は「互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状のものである」構成が記載されていて,かかる構成は本件出願当時における当業者の周知技術にすぎないということができる。したがって,補正発明と引用発明の相違点は,本件出願当時における当業者の周知技術にすぎないものである。


 ここで,引用発明も,甲第11号証等に記載された周知技術も,食品等の小分け容器の構造に関するものでその技術分野が共通するところ,甲第11号証の段落【0003】,【0004】の記載に照らせば,上記周知技術は小分け容器を分離した後の容器外縁部に残る突出部等で使用者の手指が傷付けられる事態を防止することを目的とするものである。そして,引用文献(甲2の1)には,かかる使用者の手指の傷害の防止という観点は記載されていないが,引用文献の図6(下記参照)を見れば,小分け容器を切り離した後の分離線の両端に突部が残存することにより,使用者が上記突部で手指に怪我をするおそれがあり,不都合であることは,引用文献に接した当業者において極めて容易に理解できる事柄にすぎない。


 …省略…


 したがって,当該発明ないし技術的事項によって解決すべき技術的課題の観点からも,引用文献に対する前記周知技術の適用を否定すべき事情は存しない。そうすると,引用発明に甲第11号証等に記載された周知技術を適用することにより,本件出願当時,当業者において前記相違点に係る構成に想到することは容易である一方,補正発明による作用効果すなわち使用者の手指の傷害の防止という作用効果(本願明細書(甲8)の段落【0005】〜【0007】を参照。)は,引用発明及び前記周知技術から当業者が予測し得る程度のものにすぎないから,補正発明は進歩性を欠くものというべきである。


(2) 前記(1)のとおり,本件補正後の請求項1の発明(補正発明)は進歩性を欠くものであるから,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断するまでもなく,原告の不服審判請求を不成立とした審決の判断に誤りがあるとはいえない。

 したがって,原告が主張する取消事由2は理由がない。』

 と判示されました。