●平成22(ワ)2535 職務発明補償金請求事件 特許権 民事訴訟

 本日も、『平成22(ワ)2535 職務発明補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年3月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120522115419.pdf)について取り上げます。

 本件は、職務発明補償金請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、2争点?(本件各発明により被告が受けるべき利益の額)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 志賀勝、裁判官小川卓逸)は、


『2争点?(本件各発明により被告が受けるべき利益の額)について

(1)自己実施による独占の利益の有無について

 特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは,使用者等に承継させた特許を受ける権利若しくは特許権又は使用者等のために設定した専用実施権に係る職務発明により使用者等が受けるべき利益をいう(同条3項参照)。


 このため,当該職務発明について特許がされた場合,特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは,当該特許発明の実施権を専有する効力により使用者等が受けるべき利益(いわゆる独占の利益。以下「独占の利益」という。)を指すものと解される(同法68条参照)。具体的には,特許権を取得した使用者等が第三者に対して当該特許発明の実施を許諾することによって得られる実施料収入(いわゆる第三者実施による独占の利益)はもちろん,特許権を取得した使用者等が自ら当該特許発明を実施することにより同法35条1項所定の法定通常実施権を行使して得られる売上高を超過して得られた売上高(いわゆる超過売上高。以下「超過売上高」という。)につき,第三者に対して当該特許発明の実施を許諾していたら得られたであろう実施料収入(いわゆる自己実施による独占の利益)をいうものと解される。


 なお,被告は,本件においては,?本件各発明には定性法や比濁法等の代替技術があったこと,?本件各発明は必要性に乏しかったこと,?一般的な実施料を支払ってもらえれば,本件各発明の実施を許諾する方針(いわゆる開放的ライセンスポリシー)であったにもかかわらず,●(省略)●以外に実施許諾の申入れがなかったことを理由に,被告の自己実施分について独占の利益はない旨主張する。


 しかしながら,当該特許発明の価値が極めて低く,これを使用する者を全く想定し得ない場合や,代替技術が極めて多数存在するため,市場全体から見て当該特許の存在を無視し得るような特段の事情がある場合を除き,単に当該特許発明には,代替技術があり,必要性に乏しく,開放的ライセンスポリシーが採られているというだけでは,程度の差はともかく,依然として当該特許発明を承継した使用者等に独占の利益はあるというべきである。


 これを本件についてみると,前記第2の1(前提事実)(3)エのとおり,被告は,平成12年10月から平成18年ころまでの間,本件特許権につき,●(省略)●に通常実施権を設定していたのであって,本件各発明の価値が極めて低く,これを使用する者を全く想定し得ないことや,代替技術が極めて多数存在し,市場全体から見て本件特許の存在を無視し得るといった前記特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。


 したがって,本件各発明により被告が受けるべき利益は,被告が●(省略)●に実施許諾することにより得られた実施料(第三者実施による独占の利益),及び,被告が自ら本件各検査薬を販売することにより得られた超過売上高につき,第三者に対して本件各発明の実施を許諾していたら得られたであろう実施料収入(自己実施による独占の利益)の合計額となる。以下,自己実施による独占の利益の額につき,検討する。


(2)自己実施による独占の利益の額について

ア本件発明1・2について

 前記第2の1(前提事実)(2)アのとおり,被告は,亜硝酸イオンが共存する検体中の残留塩素,塩素イオン,硝酸イオン,リン酸イオン又は微量蛋白質を測定するための試薬という物の発明である本件発明3と,その試薬を用いた成分の分析方法という方法の発明である本件発明1・2に係る本件特許権を有している。そして,同(3)エのとおり,被告は,本件発明3を実施した本件各検査薬を販売しており,検査機関等の購入者は,方法の発明である本件発明1・2を実施して蛋白を分析することになる。このため,本件各検査薬の売上高には,本件発明1・2の実施料相当額の利益の要素をも含んでいるというべきである。


 もっとも,独占の利益は,職務発明について特許がされた場合,特許発明の実施権を専有する効力に対応して生じるものであるところ,本件各検査薬を購入した者による本件発明1・2の実施は,本件発明3の実施に包含される関係にあるから,本件発明1・2による独占の利益も,本件発明3を実施して本件各検査薬の販売をしたことによる独占の利益に包含される関係にあるというべきである。


 したがって,本件発明3による独占の利益と重複しない本件発明1・2による独占の利益を観念することはできず,次の本件発明3による独占の利益について検討すれば足りる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。