●平成22(ワ)2535 職務発明補償金請求事件 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成22(ワ)2535 職務発明補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年3月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120522115419.pdf)について取り上げます。

 本件は、職務発明補償金請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、1争点?(本件各発明の発明者は原告か)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 志賀勝、裁判官小川卓逸)は、


『1争点?(本件各発明の発明者は原告か)について


 ・・・省略・・・


(2)発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうところ(特許法2条1項),特許法35条3項に基づいて相当の対価の支払を請求し得る発明者とは,特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者をいうものと解するのが相当である。

ア原告の発明者性について

(ア)前記(1)イ(エ)・(カ)のとおり,原告は,尿等の試料に含まれる亜硝酸イオンにより蛋白含量に負誤差が生じるという本件各発明の課題につき,スルファニル酸等,特定のアミノ基を有する有機化合物を添加するという解決手段を着想するとともに,上記有機化合物を添加した臨床検査薬「マイクロTP」に亜硝酸溶液を添加するという実験によってその効果を確認したのであるから,本件特許に係る特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者ということができ,原告が本件各発明の発明者であることは明らかである。


(イ)この点につき,被告は,原告が亜硝酸陽性の尿を用いた核心的な実験を行っていないから,本件各発明の発明者ではない疑いがある旨主張する。


 しかしながら,前記(1)イ(エ)のとおり,原告は,臨床検査薬「マイクロTP」に自分の尿や亜硝酸溶液を添加した再現実験を行っている。また,そもそも,本件特許に係る特許請求の範囲に,尿を試料とする記載はなく,本件明細書には,従来技術における問題(4欄29行〜33行)や実施例(21欄〜26欄)として,尿を試料とした説明があるにすぎない。したがって,原告が亜硝酸陽性の尿を用いた実験を行っていないことは,原告の発明者性を左右するものではない。


 したがって,原告が本件各発明の発明者ではない疑いがある旨の被告の主張は,これを採用することができない。


イB等の発明者性について

(ア)前記(1)イのとおり,Bは,昭和61年9月から昭和62年2月までの間,被告の技術部長や応用研究所長兼開発第三課長といった管理職を務めていた者にすぎず,本件各発明の解決手段を着想したものとも,実験によってその効果を確認したものとも認めることができないから,本件特許に係る特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者ということができず,Bが本件各発明の発明者であるということができないことは明らかである。


 また,東京医科歯科大学大阪大学の職員等が本件各発明の解決手段を着想したことや,実験によってその効果を確認したことについても,証拠が全くない。


(イ)この点につき,被告は,Bが分析の分野に詳しく,原告の上司を務めたこともある先輩であったことや,本件各発明にはBの専門である有機合成の技術が多く用いられていること,被告においては管理職と研究員が日常的に接触していること等から,Bが原告から相談を受けて本件各発明を着想し,原告に対して本件各発明に関する具体的な提案や実験材料の提供をした可能性が高く,Bが本件各発明の発明者であった可能性がある旨主張する。


 確かに,前記(1)ア(ア)ないし(ウ)のとおり,Bは,昭和44年ころから,臨床検査薬の開発を指導するとともに,昭和47年4月から昭和52年6月までの間,原告の上司を務めていた上,証拠(甲1,乙35)によれば,本件各発明に係る含窒素有機化合物には,Bの専門である写真薬の原料や添加物が複数含まれていることが認められる。また,前記(1)イ(ク)のとおり,原告は,本件各発明の発明者を原告及びBとする特許出願依頼書を作成した上,証拠(乙1)によれば,当該依頼書には発明者記入欄の注意事項として「単なる協力者は入れないで下さい。」という記載があることも認められる。


 しかしながら,前記(1)ア(イ)のとおり,原告の所属する研究室では,かねてから,臨床検査薬等の開発に写真化学の技術を採り入れながら,商品開発や特許権の取得を進めていた上,証拠(甲19,20の1ないし35,21,22,29,乙29ないし31,35)及び弁論の全趣旨によれば,Bは本件各発明やその発明に至る経緯を覚えていない旨陳述していること,被告においては,研究員による職務発明の大半について,当該研究員とその上司である管理者や研究所長の共同発明として特許出願されてきたことも認めることができ,これらの事実に照らして考えると,前記認定の事実から,Bが本件各発明を着想したとも,本件各発明に関する具体的な提案や実験材料の提案をしたとも推認することはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。


 したがって,Bが本件各発明の発明者であるという被告の主張は,これを採用することができない。

ウ小括

 以上によれば,本件各発明の発明者は,原告だけであると認めるのが相当である。』

 と判示されました。