●平成23(ワ)8405 特許権侵害差止等請求事件「渡り通路の目地装置」

 本日は、『平成23(ワ)8405 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「渡り通路の目地装置」平成24年5月17日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120521153724.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(イ号製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 西田昌吾、裁判官 達野ゆき)は、


『1争点1(イ号製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか)について

イ号製品は,少なくとも本件特許発明1の構成要件D「前記渡り通路の目地部側の側壁に一端部が前後方向にスライド移動可能にそれぞれ取付けられ,他端部が前記渡り通路用開口部が形成された外壁に左右方向にスライド移動可能に取付けられた一対のスライド側壁」を充足するとは認めることができないから,本件特許発明1の技術的範囲に属するということはできない。


以下,詳述する。

(1)本件特許発明1の技術的範囲(構成要件D)の解釈について

ア本件特許発明1の【特許請求の範囲】の記載中「取付け」の意味について

 原告らは,「取付ける」とは,「特定の目的のためにある物件を備え付けること」をいうものであり,「接着」することをいうものではなく,イ号製品のスライド側壁(手摺10a及び10b)は,通路の目地部側の側壁(側壁9a及び9b)に近接した場所に設置されているから,本件特許発明1の構成要件Dを充足する旨主張する(上記第3の1【原告らの主張】)。


 そこで検討すると,一般に,「取付ける」とは,「機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置したりする」ことをいうものと解されるから,他の物と間隔の空いた状態で設置された物について,他の物に「取付けられた」ということは困難である。他に当業者が別の意義を有するものと解釈するなどと認めるに足りる証拠もない。


 そうすると,構成要件Dの「側壁に‥‥取付けられ」という用語を通常の意味で解釈すると,「側壁」と間隔の空いた状態で設置された物は,仮に近接した状態で置かれていたとしても,「側壁に‥‥取付けられ」た物ということはできないと解される。


イ本件特許1に係る明細書の【発明の詳細な説明】の記載について

 上記明細書(以下「本件明細書」という。)には,「取付け」の意義に関する説明は見当たらないものの,以下の記載がある(甲1)。


 ・・・省略・・・


(ウ)上記各記載について検討すると,まず,上記(ア)の第1の実施形態に係るスライド側壁は,目地部側の側壁の端部を覆うことができるように断面コ字状に形成されたスライド側壁本体17と,このスライド側壁本体の両端部寄りの内壁面に取付けられた,側壁16の上面を移動するローラー18とで構成されているものである。これは,スライド側壁を目地部側の側壁と間隔を空けずに構成したものであって,上記アのとおり,本件特許発明1の構成要件Dについて,通常の意味のとおり解釈した場合における,本件特許発明の技術的範囲に属する実施例を開示したものである。


 これに対し,上記(イ)の第6の実施形態に係るスライド側壁は,目地部側の側壁の内壁面に「位置させて前後方向にスライド移動可能に取付けた」ものとされている。しかしながら,上記図22ないし図24によっても,イ号製品のスライド側壁(手摺10a及び10b)及び通路の目地部側の側壁(側壁9a及び9b)とは異なり,スライド側壁と目地部側の側壁とが接触しているか否かが判然としない。目地プレート12と一体となったスライド側壁15が,渡り通路5の側壁16で囲まれた空間に嵌合しているものとみることが可能であり,その場合は,スライド側壁を側壁に取付けたということもできる。


 しかし,仮に,上記実施例についてスライド側壁と目地部側の側壁とが接触しない構成を説明したものであると解釈する場合,何をもってスライド側壁15が側壁16に取付けられているといえるのか,本件明細書には具体的な説明はなく,この構成について本件特許発明1の技術的範囲に属する構成として開示したと解することはできない。


ウ本件特許発明1の技術的範囲(構成要件D)の解釈について

 上記ア及びイで検討したところによれば,少なくとも「側壁」と間隔の空いた状態で設置された物は,近接した状態で設置されていたとしても,構成要件Dの「側壁に‥‥取付けられ」の構成を充足するということは,特許請求の範囲に係る文言解釈上,できない。


(2)イ号製品の構成について

イ号製品のスライド側壁(手摺10a及び10b)は,通路の目地部側の側壁(9a及び9b)に近接した状態で設置されているものの,間隔の空いた状態で設置されていることについて当事者間に争いがない。

 そうすると,イ号製品のスライド側壁(手摺10a及び10b)が本件特許発明1の構成要件Dの「側壁に‥‥取付けられ」たという要件を充足するものであるとは認められない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。