●平成21(ワ)6273 特許権侵害差止等請求事件「車椅子」

 本日は、『平成21(ワ)6273 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「車椅子」平成24年5月10日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120517134626.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点2(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 網田圭亮)は、


『1 争点2(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)について

 本件特許は,本件特許発明が,1998年2月19日に頒布された刊行物である独国実用新案第29721699号明細書(乙54文献)に記載された発明(乙54発明)並びに実公昭43−3460号公報(乙55。以下「乙55文献」という。)及び実願昭50−41068号(実開昭51−120804号。乙59。以下「乙59文献」といい,同文献に記載された発明を「乙59発明」という。)から認められる周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであることを理由として,特許無効審判により無効にされるべきものであると認める。


 …省略…


イ 相違点について

 乙54発明は,折り畳み式車椅子に関する発明であり,乙55文献及び乙59文献によって認められる周知技術も,折り畳み式車椅子に関するものであって,いずれもその技術分野が共通している。そして,上記(3)イの相違点に係る乙54発明の構成と上記周知技術とは,いずれも,X枠を構成する回動杆の下端部を左右外枠に回動可能なものとすること(「枢着」)により,当該車椅子を折り畳み可能とする点において,機能・作用が共通している。


 また,本件特許発明では,高さ位置を調節するために,軸穴から軸を抜き取ることが予定されているといえるところ,特に乙55発明についてみると,同発明は軸受に支軸によって回動自由に枢支する構造を有するところ,当該支軸については「支軸8を抜き取れば,固定軸2の上部の横軸6とは簡単に分離できる」とされているとおり抜き取ることが予定されていることからして,乙54発明に,乙55発明に開示された上記構成を組み合わせて,本件特許発明の「該複数個の軸穴のうちの一つを選択して該軸穴に該軸を支持させることによって,…調節可能」との構成を取ることについて,特段の阻害要因も見当たらない。


 これらによれば,乙54発明について,乙55文献及び乙59文献によって認められる周知技術,又は乙55発明を組み合わせて,本件特許発明の構成を取ることは,当業者にとって容易であったと認めることができる。


ウ 原告の主張について

 なお,原告は,本件特許発明の最大の特徴は,「メーカーにとっては巾が異なる多種類の製品を製造しなくて済む」というモジュール化をしたことにある一方,乙54発明の構成では部品数が多くなって上記効果を奏せないとして,その差異を強調する。


 しかしながら,そもそも,本件特許発明は,座の高さを変えることなく車椅子の巾を調節できることをもって,メーカーにとっては巾が異なる多種類の製品を製造しなくても済むとしたものと認められるのであって,部品数の相違は本件特許発明及び乙54発明の構成から必然的に導かれるものとは認められない。また,本件特許発明及び乙54発明の実施に当たって,仮に部品数に差異があったとしても,それ自体は,X枠の回動杆の下端部を左右側枠下部に枢着する手段として,周知技術(乙55,乙59参照)を採用したことに伴うものであり,本件特許発明の進歩性を基礎付けるような有利な効果であるということもできない。


 したがって,本件特許発明の特徴としてモジュール化を強調する原告の主張は失当である。


エ 小括

 以上によれば,本件特許発明は,乙54発明並びに乙55文献及び乙59文献により認められる周知技術,又は乙55発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。