●平成23(行ケ)10226 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10226 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「使い捨て吸収性物品形体の配列及び着用者用使い捨て吸収性物品形体を特定するための販売ディスプレーシステム」平成24年3月28日知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120330144236.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件補正の適否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、

『(2)本件補正の適否について

ア本件補正は,拒絶査定不服審判の請求から30日以内にされたものであるから,法17条の2第1項4号に基づくものであるところ,同条4項は,このような場合において特許請求の範囲についてする補正が,同条4項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限っている。


 しかるところ,本件補正は,前記第2の2に記載のとおり,請求項の数を22から56に増加させ,かつ,請求項1を含む特許請求の範囲の記載を大きく書き換えるなどするものであって,請求項の削除(同条4項1号)又は誤記の訂正(同項3号)のいずれを目的とするものでもないことが明らかである。


イ本件補正のうち,本願発明の特許請求の範囲の記載にある「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点についてみると,原告は,被告が平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)において,「なお,本願発明は,店頭等での商品の「配列」(「物」か「方法」か必ずしも明確ではない。)そのものを発明としている。これは,顧客への商品の訴求効果の増大を目的とする商業上の取り決めにすぎないともいえ,本願発明は,特許法が対象とする発明,即ち自然法則を利用した技術的思想の創作であるのかに疑義が残る。」と指摘したことから,これを受けて,出願に係る発明を物の発明として特定する趣旨で,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めたものと認められる(乙1)。


 ところで,「配列」とは,一般に,「ならべつらねること。順序よくならべること。また,そのならび。」(乙2。広辞苑第4版)を意味するものの,本願発明においては,上記拒絶理由通知も指摘するとおり,その技術的意義が必ずしも明らかであるとはいい難い。


ウそこで,本件明細書の記載を参酌すると,本願発明は,前記(1)アないしオに記載のとおり,使い捨て吸収性物品(おむつ)には,それを着用する者の発達段階に応じた形体がある一方で,各形体の寸法が重複している場合があるため,消費者が正しい吸収性物品を選択することが困難であったという課題を解決することを目的とするものであって,その課題を解決するために,着用者の発達段階に応じた特定の形体のものについて特定のしるしを定め,これを店舗のディスプレーパネル,パッケージ(包装)又は広告に付けることに加えて,そのようなパッケージ(包装)に入った吸収性物品を店舗に特定の順序で配置し(【図2】及び【図3】の実施例。製品の配列),あるいは当該しるし自体を特定の順序で並べた機械装置などの選択装置を店舗に配備すること(【図4】及び【図5】の実施例。しるしの配列)によって,当該課題を解決するという技術的思想に基づくものであるといえる。


 そして,本件補正前の請求項1ないし9に係る発明は,いずれも吸収性物品が「構造的に相違によって識別可能である配列」を構成しているのみで,それ以上に特段の制限もないから,そこにいう「配列」との文言は,店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の各実施例を包含するものであるのに対して,請求項10ないし22に係る発明は,いずれも吸収性物品が特定の「包装に封入され」ているから,そこにいう「配列」との文言は,専ら店舗におけるディスプレー(製品の配列)のみを包含するものであるといえる。


 このように,本願発明における「配列」との文言は,依然としてそれ自体が特許法2条3項にいう「物」であるのか「方法」であるのかが必ずしも一義的に明らかではないという点が残り,請求項の他の部分の記載のために対象が製品及びしるしを包含する場合としるしのみを包含する場合があるとはいえるものの,製品又はしるしに関する「ならべつらねること。順序よくならべること。また,そのならび。」(乙2。広辞苑第4版)を意味するにとどまり,それ以上の特段の技術的意味を持つものとは認められない。


 このことを前提として,本件補正後の請求項1ないし56をみると,これらの発明は,いずれも「販売ディスプレーシステム」を発明の対象としているから,製品の配列のみを想定しており,選択装置すなわちしるしの配列を包含していないことが明らかである。
以上によれば,本件補正のうち,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点は,前記イの平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)が「配列」との文言について示した事項について原告による釈明を目的としたものであり(法17条の2第4項4号),併せて,店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の双方を包含していた本願発明の特許請求の範囲を減縮するため,店舗におけるディスプレー(製品の配列)に限定することを目的としたもの(同項2号)とみることができる。したがって,本件補正が結果として明瞭でない記載について釈明の目的を達したか否かはしばらく措くとしても,本件補正のうち上記の点は,法17条の2第4項2号及び4号に該当するものというべきであって,少なくとも,上記の点が同条に違反するとの本件審決の判断は,誤りであるというほかない。


エしかしながら,本件補正のうち,本願発明の特許請求の範囲の記載から,本願発明の各吸収性物品形体に関する「着用者の発達の第一段階」と「着用者の発達の第二段階」との相違についての「発達の種々の段階」に「対応するように設計されたシャーシを含む」ものであるという限定を削除し,本件補正発明における「第一」及び「第二」の各吸収性物品形体の相違について,単に「異なる形体を有している」とするにとどめた点についてみると,これは,本願発明における「着用者の発達の第一段階」と「着用者の発達の第二段階」との相違に関する上記限定を削除するものであって,本願発明の特許請求の範囲を拡大するものというほかない。


 したがって,本件補正のうち上記の点は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,本件補正は,法17条の2第4項2号に違反するものというべきである。


さらに,法17条の2第4項2号は,同条1項4号に基づく場合において特許請求の範囲についてする補正について,「特許請求の範囲の縮減(第36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものと規定しているところ,これは,審判請求に伴ってする補正について,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等との調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内に限って認めることとしたものである。そして,同号かっこ書が,補正前の「当該請求項」に記載された発明と補正後の「当該請求項」に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る旨を規定していることも併せ考えると,同号は,補正前の請求項と補正後の請求項とが,請求項の数の増減はともかく,対応したものとなっていることを前提としているものと解され,構成要件を択一的に記載している補正前の請求項についてその択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合あるいはその反対の場合などのように,請求項の数に増減はあっても,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正が行われたといえるような事情のない限り,補正によって新たな発明に関する請求項を追加することを許容するものではないというべきである。


 しかしながら,本件補正は,請求項の数を22から56に増加させるものであるところ,例えば,第一の吸収性物品の形体が「臍の緒のくぼみを有している」(本件補正後の請求項2),「第一の吸収性物品の毛布のような感触を提供する特徴を有している」(同3),「第一の吸収性物品を第一の装着者により良く適合させる」(同4),「第一の装着者の自由な動きを可能にする」(同5),「狭い股領域を有している」(同6),「可撓性ファスナーを有している」(同7),「高拡張側部を有している」(同8)又は「第一の吸収性物品の湿り度を示す」(同9)など,いずれも本件補正前の各請求項には全く存在しない構成を付加することで,新たな発明に関する請求項を多数追加しているから,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を行っているといえるような事情が見当たらない。


 したがって,本件補正のうち,以上のとおり請求項2以下に請求項を多数追加している点は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,本件補正は,法17条の2第4項2号に違反するものというべきである。


(3)原告の主張について

 以上に対して,原告は,本件補正が本願発明を減縮したものであり,また,この点が本件審判では問題とされていなかったから本件訴訟の審理対象とはならない旨を主張する。


 しかしながら,本件補正が本願発明を減縮するものではないことは,前記(2)エに認定のとおりである。また,本件審決は,本件補正の適否について判断を下している以上,本件訴訟は,当該判断の是非を審理の対象とするものであって,本件補正の違法性に関するある特定の主張が本件審決に記載されていなかったからといって,当該主張が本件訴訟の審理の対象とならなくなるものではない。

 よって,原告の上記主張は,採用できない。

(4)小括

 以上の次第であるから,本件補正は,法17条の2第4項2号に違反するものであって,法159条1項が読み替えて準用する法53条1項により却下を免れず,これと結論を同じくする本件審決を取り消すことはできない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。