●平成23(行ケ)10143 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10143 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「貼付剤用支持体およびそれを用いた外用貼付剤」平成24年1月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120120143015.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、進歩性における相違点についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、


『(4)相違点について

ア外用貼付剤である引用発明の支持体の材料,すなわち不織布は,種々の材料を選択することが可能であるところ,周知の材料のいずれを採用するかについては,一般的に,当業者が適宜決定し得る程度の設計的事項であるということができる。


 前記のとおり,引用例に記載された発明において,不織布からなる支持体に文字形状の凹凸を形成することは当業者が容易に想到し得るところ,文字形状の凹凸を形成する場合には,貼付剤の利用者が当該凹凸によって形成された文字の意味内容を認識することが当然予定されるものである。本願発明も,支持体に文字を刻印することにより,有効成分等の判別を可能とすることを目的とするものであるし,引用例において例示されている会社名や取扱方法に係る文字形状を読み取ることができないならば,当該文字形状を形成する意味は乏しいものということができる。


 そして,外用貼付剤の不織布にエンボス加工を行う際,当業者は,希望するシャープさや形状保持性と副次的効果が及ぼす悪影響等を比較衡量して,低融点繊維の割合やエンボス加工の際の温度条件等を最適化又は好適化するのであり,このような試みをすることは,当業者が通常期待される創作能力の範囲内である。そうすると,エンボス加工において文字形状の凹凸を形成する場合,当該文字形状のシャープさや形状保持性等を考慮して,不織布に低融点繊維を含ませたものを採用することは当業者が容易に着想し得ることであって,その際,不織布が硬くなる等の副次的効果をも考慮して低融点繊維の割合やエンボス加工の際の温度条件等を最適又は好適にしようとすることについても,当業者が通常期待される創作能力の範囲内であるということができる。


 したがって,引用発明の支持体の構成において,「ポリエステル繊維を主体とし,それに低融点繊維を3〜20%混紡した伸縮性を有する不織布」とする周知の技術的事項を適用することは,当業者が容易に想到し得たものということができる。


イこの点について,原告は,支持体の材料の選択過程の検討には,発明者の創意工夫が付加されているのであって,「ポリエステル繊維を主体とし,それに低融点繊維を3〜20%混紡した伸縮性を有する不織布」を選択するに至った検討過程を無視して,当業者の「単なる設計的事項」とすることはできないと主張する。


 しかしながら,前記のとおり,上記構成の不織布については,「低融点繊維を3〜20%混紡した」という数値限定に係る部分を含めて周知の材料であったということができる以上,当該構成の材料を選択すること自体は,当業者が適宜に決定し得る程度の設計的事項であることは明らかである。


 なお,不織布の低融点繊維の混紡量を「3〜20%」とする数値限定については,当該事項が周知の技術的事項であること,本願明細書には,当該数値の前後で顕著な作用効果の差異があることについて,何ら記載や示唆はされていないことからすると,当該数値限定に格別の技術的意義があるということはできない。


 また,原告は,周知例1及び2により開示されている技術的知見は,各発明が目的とする特異的な発明の効果を発揮するための支持体として,特異的な性質を有するポリエステル繊維を主体とし,そこに低融点繊維を混紡させたものであって,これを一般的な外用貼付剤の支持体に関する周知技術であると認定することはできない,乙4ないし7についても,本願発明とは全く異なる技術分野に属する発明に係る文献であるなどと主張する。


 しかしながら,周知例1及び2は,いずれも本願発明と同様の技術分野に属するものであるところ,その解決すべき課題については本願発明,周知例1及び2のいずれも異なるものではあるが,周知例1及び2により開示されている不織布の低融点繊維の混紡量に係る技術的知見については,外用貼付剤における一般的な知見ということができるものであって,周知例1及び2が解決すべき課題に特有の知見であるということはできない。乙4ないし7において開示されている技術的知見も,同様に,各発明の属する技術分野に特有の知見ではなく,不織布及び低融点繊維に係る一般的な知見であるということができる。原告の主張はいずれも採用できない。


ウ引用発明において,支持体である不織布に文字を刻印することが当業者にとって容易に想到し得るものであることは,前記のとおりである。』

と判示されました。

詳細は、本判決文を参照して下さい。