●平成23(行ケ)10133 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「携帯電

本日は、『平成23(行ケ)10133 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「携帯電話端末」平成24年1月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120119112049.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、棄却された案件です。


 本件では、取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『3取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)について

(1)本件補正の法17条の2第4項該当性の有無

 平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第4,5項は「第4項:前項に規定するもののほか,第1項第2号及び第3号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限る。1第36条第5項に規定する請求項の削除2特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)3誤記の訂正4明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)第5項:第126条第4項の規定は,前項第2号の場合に準用する。」というものであるところ,本件補正による補正前の甲6補正に係る請求項1の「前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能は,前記通信機能の停止を維持しながら,そのまま動作可能とし,選択可能とした」との記載からすれば,本件補正による補正前の請求項1に係る発明(以下「甲6補正発明」という。)は,「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能それぞれについて,通信機能の停止を維持しながら,そのまま動作可能とし,選択可能としたことを発明特定事項とするものと解される。


 他方,本件補正による補正後の請求項1の「前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能は,前記通信機能の停止を維持しながら,そのまま動作可能とし,前記時計機能及び前記電話帳機能を選択可能とした」との記載からすれば,本件補正による補正後の請求項1に係る発明(本願補正発明)は,「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能それぞれについて,通信機能の停止を維持しながら,そのまま動作可能とし,上記「複数の機能」のうち「時計機能」及び「電話帳機能」をそれぞれ選択可能としたことを発明特定事項とするものと解される。


 そこで,甲6補正発明と本願補正発明とを対比すると,甲6補正発明では,通信機能の停止を維持しながら「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能それぞれを選択可能としているのに対し,本願補正発明では,通信機能の停止を維持しながら,上記「複数の機能」のうち「時計機能」及び「電話帳機能」のみをそれぞれ選択可能としたものであるから,本件補正により,通信機能の停止を維持しながら選択可能な機能の一部が削除されていると認められる。そして,その結果,本願補正発明では,「時計機能」及び「電話帳機能」以外の機能について,どの機能を通信機能の停止を維持しながら選択可能とするかは任意の事項とされることに補正されたといえる。


 そうすると,本件補正により,直列的に記載された発明特定事項の一部が削除され,特許請求の範囲の請求項1の記載が拡張されていることは明らかであるから,本件補正は特許請求の範囲を減縮するものとはいえず,「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とするものに該当するとは認められない


 また,本件補正は,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。


 以上によれば,本件補正について,「平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」とした審決の判断に誤りはない。


(2)原告の主張に対する判断

ア原告は,本件補正は選択可能な機能の範囲についてより狭い範囲の選択である特定の機能である「前記時計機能及び前記電話帳機能」を選択可能としたものであり,このように「選択可能」な範囲を狭めることは,技術的には補正後においてはその機能が限定されるものであるので,特許請求の範囲の減縮に当たること,また,時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む機能がそのまま動作可能な状態となっており,それらの中において選択対象を特定しているものであり,動作可能な選択対象の組合せは15通りあり,「時計機能&電話帳機能&マイクによる音声を電気信号に変換する機能&スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」の組合せのみを選択対象としているのではないことは明らかであること,さらに,本願の当初明細書の段落【0030】,【0033】及び【図1】の記載によれば,「動作可能な状態」とは,通信機能以外の上記各機能を含む複数の機能の全てが常に動作している状態ではなく,ユーザによる指示あるいは制御部による処理に基づいて選択的に動作し得る状態となっているものであると明細書及び添付図面から理解されるものであるし,本願の当初明細書の段落【0011】に記載された課題から判断して,「前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能を選択可能と」することとは,「通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能」の各機能を選択対象としており,その中からユーザが様々な組合せを選択可能とする意味であると理解されるものである,と主張する。


 しかし,原告が指摘する上記明細書の記載箇所及び図面を検討しても,本願において,通信機能の停止を維持しながらそのまま動作可能とし選択可能とする機能を,通信機能以外の「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」,「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能から,ユーザが様々な組合せで選択可能であることが記載されているとはいえず,また,本願の当初明細書等の記載から自明であるとも認められない。


 また,甲6補正に係る請求項1の「前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能は,前記通信機能の停止を維持しながら,そのまま動作可能とし,選択可能とした」との記載に,「複数の機能」について択一的に解される文言はない。


 さらに,本願は「携帯電話端末での通信が禁止されている場所でも通信以外の機能を使用可能として利便性を向上させ」ることを課題とするところ,携帯電話端末での通信が禁止されている場所でも使用可能な機能の数が多いほど利便性が向上することは明らかである。


 そうすると,甲6補正発明の「前記通信機能以外の時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能を選択可能と」することは,「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能それぞれについて,「通信機能の停止を維持しながら,そのまま動作可能とし,選択可能とした」ことと解するのが自然であり合理的である。


 以上によれば,本件補正による請求項1の補正は,直列的に記載された発明特定事項の一部が削除されたもので,原告が主張するような択一的記載の要素の削除ではないから,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。


イまた,原告は,法17条の2第3項,その内容は「第1項の規定により明細書又は図面について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書又は図面(第36条の2第2項の外国語書面出願にあつては,同条第4項の規定により明細書及び図面とみなされた同条第2項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文又は当該補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」というものであるが,同項に規定する要件を満たしていないと判断する甲6補正の内容を基礎(基準)として,本件補正の可否の判断をした審決の判断手法は誤りであると主張する。


 しかし,法17条の2第4項2号の文言によれば,最後の拒絶理由通知に対する手続補正により特許請求の範囲が補正された場合に,上記手続補正が法17条の2第4項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するか否かは,上記手続補正による補正前の請求項に係る発明と上記手続補正による補正後の請求項の記載とを対比して判断されることは明らかであるし,最後の拒絶理由通知に対する手続補正の直前にされた手続補正(以下「直前の手続補正」という。)が法17条の2第3項の規定に違反し,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内にない事項が記載されている場合に,この直前の手続補正により補正された請求項に係る発明を,最後の拒絶理由通知に対する手続補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするか否かの判断の基礎にしてはならないとの規定は存在しない。


 また,本件補正の直前の手続補正である甲6補正は,拒絶査定不服審判(法159条1項中の「第121条第1項の審判」)における最初の拒絶理由通知である平成22年8月25日付け拒絶理由通知(甲5)に対してされたものであるから,法159条1項で準用する法53条1項に掲げる「第17条の2第1項第2号(判決注,同条第1項の内容は「特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場合に限り,補正をすることができる。1第50条(第159条第2項(第174条第2項において準用する場合を含む。)及び第163条第2項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において,第50条の規定により指定された期間内にするとき。2拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において,最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき。3第121条第1項の審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき。」とする)に掲げる場合において,願書に添付した明細書又は図面についてした補正」に当たらない。そして,法49条1号の規定により,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲の補正が法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないときは,出願の拒絶理由となる。そうすると,甲6補正のように,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲の補正が法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないときは,法159条1項で準用する法53条1項に規定する「決定をもつてその補正を却下しなければならない」場合には該当せず,法159条2項で準用する法50条に規定する「拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない」場合に該当することになる。


 以上によれば,甲6補正は却下されないから,甲6補正により補正された請求項1に係る発明を補正前の請求項1に係る発明とし,これを基礎(基準)として,本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対比して本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするか否かを判断した審決の判断手法に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。


ウ原告は,本件補正は法17条の2第4項4号に規定する「明りようでない記載の釈明」とは異なるが,最後の拒絶理由で指摘された「拒絶理由で示す事項についてする」補正でもあるので,これを認めることとしなければ出願人は拒絶理由に対応することが困難であり,かつ,これを認めないとすると発明の保護の観点からも適切でないから,例え「最後の拒絶理由に基づく補正」であっても,上記「明りようでない記載の釈明」と同様に,その補正が認められるべきである旨主張する。


 しかし,法17条の2第4項4号の規定は,最後の拒絶理由通知に対する手続補正で,明りょうでない記載の釈明を目的とする補正を認めることとしたものであるが,これを無制限に認めると迅速な審査の妨げとなることから,「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項」についてするものに制限しており,この規定における「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項」とは,軽微な補正により是正できる程度の明細書又は特許請求の範囲の記載不備と解される。


 これに対し,本件の場合,平成22年11月25日付けの最後の拒絶理由通知(甲8)に係る拒絶の理由に示す事項は,甲6補正が法17条の2第3項の規定する新規事項の追加の禁止に違反するというものであるから,本件補正が明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当するものと認められないことは当然であり,法17条の2第3項の規定に違反するという重大な瑕疵に当たる場合に,法17条の2第4項4号の規定と同様に運用しなければならない必要性も認められない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


エ原告は,最後の拒絶理由通知(甲8)の内容は「新規事項の付加」のみを指摘しているものであるから,新規事項の付加がなくなれば拒絶理由は解消することも予測できるものであり,通常の拒絶理由(17条の2第4項の制限を受けない)を通知すべきものであったと解されるものであるから,上記拒絶理由通知(甲8)に基づく補正事項の運用に対する対応は,必要以上に厳格に運用すべきものではないと主張する。


 しかし,甲6補正が法17条の2第3項の規定に違反するとして通知された最後の拒絶理由通知(甲8)には「なお,平成22年8月25日付けの拒絶理由通知についての判断は留保されていることに注意されたい。」とも記載されており,この記載からみて,法17条の2第3項の規定に違反するとの拒絶理由とは別に,平成22年8月25日付け拒絶理由通知(甲5)で通知した拒絶理由(法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。)が存在することは明らかであるから,新規事項の付加がなくなれば拒絶理由は解消することも予測できるものであるとはいえず,原告の上記主張は前提において誤っており,採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。