●平成22(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟(4)

 本日も、『平成22(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「飛灰中の重金属の固定化方法及び重金属固定化処理剤」平成23年12月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120105161215.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由4(引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、


『4 取消事由4(引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り)について


(1) 相違点1について

ア 引用例1の記載等について

 引用例1に記載の本件ポリアミン誘導体の骨格となる物質は,前記3(2)ウに認定のとおり,非常に多種類にわたるところ,これらがいずれも化学構造を異にする以上,その重金属に対するキレート能力の有無及び程度が同じであるとはいえないことは,明らかである。そして,引用例1には,前記3(2)イ,エ及びオに認定のとおり,例えばエチレンジアミン(鎖状アミン)を骨格とする本件ポリアミン誘導体については,本件ポリエチレンイミン誘導体との混合物とすることによりクロム(?)等に対する重金属固定化能が向上する旨の実施例及び比較例の記載がある一方で,化学構造を異にするピペラジン(環状アミン)を骨格とする本件各化合物が有する飛灰中の重金属固定化能については,何ら具体的な記載がないから,本件各化合物の有する飛灰中の重金属固定化能は,引用例1の記載では不明であるというほかない。以上に加えて,ピペラジンは,前記3(2)ウに認定のとおり,引用例1において本件ポリアミン誘導体の骨格となる物質の1つとして例示されているにすぎないから,本件ポリエチレンイミン誘導体との混合物として使用することにより重金属固定化能が十分になる物質の例として記載されているにとどまるというほかない。


 以上によれば,引用例1には,飛灰中の重金属固定化処理剤として本件発明6の相違点1に係る構成を採用すること(本件各化合物を選択すること)についての記載も示唆もなく,その動機付けもないというべきである。


イ 本件発明の作用効果について

 本件発明は,前記1(2)エ(エ)(重金属固定化能試験)に認定のとおり,本件明細書によれば,同じくジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体(エチレンジアミン−N,N′−ビスカルボジチオ酸ナトリウム(化合物No.3)及びジエチレントリアミン−N,N′,N′′−トリスカルボジチオ酸ナトリウム(化合物No.4))を使用するなどした比較例との対比において,顕著な鉛等の重金属固定化能を示している。


 ところで,引用発明1の相違点1に係る構成に該当する化合物は,非常に多種にわたるところ,これらがいずれも化学構造を異にする以上,その重金属に対するキレート能力の有無及び程度が同じであるとはいえないことは,明らかである。そして,前記3(2)オに認定のとおり,引用例1では,同じくジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体であっても,上記エチレンジアミンを骨格とするものが引用発明1の実施例及び比較例として取り扱われている一方で,本件各化合物が有する飛灰中の重金属固定化能については,何ら具体的な記載がなく,他にも本件各化合物が上記のような顕著な重金属固定化能を有することが当業者に知られていたことを窺わせるに足りる証拠が見当たらないことに加えて,前記3(4)及び(5)に認定のとおり,本件各化合物を飛灰中の重金属固定化処理剤として使用できることが本件優先権主張日当時の技術常識であったと認めるには足りない以上,本件明細書に記載の本件発明が有する上記作用効果は,当業者の予測しない顕著な作用効果であるということができる。


ウ 原告の主張について

 以上に対して,原告は,ピペラジンを骨格とするジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体が単独で飛灰中の金属捕集剤として使用できることが自明であった旨を主張する。


 しかしながら,前記3(4)に記載のとおり,本件各化合物を飛灰中の重金属固定化処理剤として使用できることが本件優先権主張日当時の技術常識であったと認めるには足りないから,原告の上記主張は,採用できない。


 また,原告は,被告がピペラジン系の重金属固定化処理剤の重金属固定化能について謙抑的な評価を与えていること(甲7の刊行物7)や,被告による本件明細書の再現実験の結果(甲48,乙12)では本件化合物2(ビス体)の濃度が低く,重金属固定化能が高いとはいえない旨を主張する。


 しかしながら,被告が上記のような謙抑的な評価を与えており,あるいは被告による上記の再現実験により本件化合物2の濃度が低かったからといって,これらのことは,本件明細書に記載された本件発明の顕著な重金属固定化能を実証的に否定するものではなく,上記作用効果の顕著性や当業者の予測可能性に関する評価を左右するに足りない。


よって,原告の上記主張は,採用できない。


エ 小括

 以上のとおり,引用例1には,飛灰中の重金属固定化処理剤として本件発明6の相違点1に係る構成を採用すること(本件各化合物を選択すること)についての記載も示唆もなく,本件発明は,重金属固定化能について当業者の予測しない顕著な作用効果を有するものである。


 したがって,引用例1に接した当業者は,本件発明6の相違点1に係る構成を容易に想到することができなかったものというべきであり,本件発明7及び9は,本件発明6の構成をさらに特定するものであるから,当業者は,本件発明6を容易に想到することができなかった以上,本件発明7及び9についても容易に想到することができなかったものというべきである。よって,本件審決の判断に誤りはない。


(2) 相違点2について

ア 相違点2の容易想到性について

 前記3(3)アに認定のとおり,引用発明1は,ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体を単独で金属捕集剤として使用した場合には飛灰中の特にクロム(?)等の重金属に対する固定化能が十分とはいえなかったことから,エチレンジアミン等を骨格とする本件ポリアミン誘導体を高分子である本件ポリエチレンイミン誘導体との混合物とすることによって当該課題を解決するものである。したがって,引用発明1の相違点2に係る構成は,引用発明1に必須のものであって,引用例1には,引用発明1から相違点2に係る構成を除外することについて記載も示唆もないばかりか,これを除外した場合,クロム(?)等の重金属に対する固定化能が不十分となり,課題解決を放棄することになるのであるから,引用例1からそのような構成の飛灰中の金属捕集剤を想到することについては,阻害事由がある。よって,引用例1に接した当業者は,本件発明6の相違点2に係る構成を容易に想到することができなかったものというべきであり,本件発明7及び9は,本件発明6の構成をさらに特定するものであるから,当業者は,本件発明6を容易に想到することができなかった以上,本件発明7及び9についても容易に想到することができなかったものというべきである。よって,本件審決の判断に誤りはない。


イ 原告の主張について

 以上に対して,原告は,引用発明1における本件ポリエチレンイミン誘導体は,最終処分の際のプラスアルファの効果を与える目的で混合させたものにすぎない旨を主張する。


 しかしながら,前記3(3)アに認定のとおり,本件ポリアミン誘導体を本件ポリエチレンイミン誘導体との混合物とする構成(引用発明1の相違点2に係る構成)は,引用発明1の必須のものであって,原告の上記主張は,引用例1の記載に基づくものとはいえない。


よって,原告の上記主張は,採用できない。』

 と判示されました。