●平成22(ワ)43749 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成22(ワ)43749 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「鉄骨柱の転倒防止方法,ずれ修正方法及び固定ジグ」平成23年12月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120111151350.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点3(被告製品を使用した鉄骨柱の転倒防止方法による本件特許発明1の均等侵害の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 坂本康博、裁判官 寺田利彦)は、


『3 争点3(被告製品を使用した鉄骨柱の転倒防止方法による本件特許発明1の均等侵害の成否)について


(1) 本件特許発明1の方法と被告製品の説明書記載方法を対比すると,本件特許発明1においては,既設の鉄骨柱の各エレクションピースが入る第1のスリットの水平方向の幅が,新設の鉄骨柱の各エレクションピースが入る第2のスリットの水平方向の幅より大きいのに対し(構成要件B?),説明書記載方法においてはこの組合せが逆となり,既設の鉄骨柱(110)の各エレクションピース(112)が入るスリット(122)の水平方向の幅が,新設の鉄骨柱(116)の各エレクションピース(114)が入るスリット(120)の水平方向の幅より小さいため,説明書記載方法は構成要件B?を充足せず,本件特許発明1の技術的範囲に属しないといえる。


 原告は,本件特許発明1の方法と説明書記載方法との間に上記のような相違点があるとしても,説明書記載方法は,本件特許発明1の方法と均等な方法であると主張する。


(2) 本件特許発明1に係る特許請求の範囲に記載された構成中に説明書記載方法と異なる部分が存する場合であっても,?上記部分が本件特許発明1の本質的部分ではなく,?上記部分を説明書記載方法におけるものと置き換えても,本件特許発明1の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が説明書記載方法の使用の時点において容易に想到することができたものであり,?説明書記載方法が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?説明書記載方法が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,説明書記載方法は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件特許発明1の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


 そして,上記?の要件については,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認し,又は外形的にそのように解されるような行動をとった場合には,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から当該製品や方法を意識的に除外したものと解すべきである。


(3) 本件特許の出願経緯は,以下のとおりである。


 ・・・省略・・・


(4) 上記(3)認定の出願経緯からすると,出願当初の請求項1においては,既設の鉄骨柱の各エレクションピースが入る第1 のスリットと新設の鉄骨柱の各エレクションピースが入る第2のスリットの水平方向の幅の大小について限定はしていなかったものである。また,鉄骨柱のずれ修正方法に係る出願当初の請求項4においては,「前記他方のスリットは,前記一方のスリットより水平方向の幅が大きくなるように形成された,請求項3に記載の鉄骨柱のずれ修正方法」と記載され,この「他方のスリット」,「一方のスリット」とは,出願当初の請求項3における「前記第1のスリット及び前記第2のスリットの一方」,「前記第1のスリット及び前記第2のスリットの他方」のことであるから,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅よりも大きい固定ジグだけではなく,第2のスリットの水平方向の幅が第1のスリットの水平方向の幅よりも大きい固定ジグも含めたものとして記載していたといえる。


 その後,原告は,拒絶理由の通知を受け,出願当初の請求項4の記載のように,「前記第1のスリット及び前記第2のスリットの一方の水平方向の幅が他方の水平方向の幅より大きい固定ジグ」などと補正することが可能であったにもかかわらず,上記(3)オの補正により,請求項1等につき,「前記第1のスリットの水平方向の幅が前記第2のスリットの水平方向の幅より大きい固定ジグ」と補正したのであるから,第1のスリットと第2のスリットの水平方向の幅の大小につき,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より大きいものだけに限定したものといえる。この減縮補正は,拒絶理由通知が指摘した引用文献1〜3に記載された2つの空間(スリット部)は水平方向の幅が同一であり,本件特許発明の構成上の特徴を開示していないことを主張してされたものであるから,当該拒絶理由を回避するためにされた補正と認められる。


 本件特許に係るこのような出願経緯からすると,既設の鉄骨柱の各エレクションピースが入る第1のスリットと新設の鉄骨柱の各エレクションピースが入る第2のスリットの水平方向の幅の大小については,上記(3)オの補正において,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より大きいものに限定されたことにより,外形的には,これとは逆の第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より小さいものを本件特許発明1に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものと解さざるを得ない。


 したがって,説明書記載方法は,均等侵害の要件のうち,少なくとも上記(2)の?の要件を欠くことが明らかであるから,その余の要件について検討するまでもなく,説明書記載方法が本件特許発明1の方法と均等な方法であるとする原告の主張は理由がない。


(5) 原告は,上記補正に引用例との抵触を避ける意図はなかった,手続補正上の制約から出願時の明細書と図面に記載されていない事項を追加する補正は許されなかったなどと主張する。


 しかし,上記(4)で認定したように,上記補正は拒絶理由を回避するためにされたものと認められ,また,上記(3)イで認定したように,本件特許の出願当初の明細書(乙1の1)には,「前記他方のスリットの水平方向の幅が前記一方のスリットの水平方向の幅より大きくなるようにスリットを形成することが好ましい。」と記載されていると,仮に他方のスリットの水平方向の幅が一方のスリットの水平方向の幅より大きい旨の補正をしたとしても新規事項の追加に当たるということはできず,手続補正上の制約があったとは認められないことから,原告の上記主張は理由がない。』

 と判示すされました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。