●平成23(ネ)10049 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴

 本日も、『平成23(ネ)10049 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成23年12月8日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111212120351.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点1(本件特許権の間接侵害の有無)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 障泄批チ規子、裁判官 齋藤巌)は、


『1 争点1(本件特許権の間接侵害の有無)について

・ 本件発明について(甲2)


 ・・・省略・・・


ウ 控訴人の主張について

・ 控訴人は,既存システムは,イ号サーバシステム全体を構成する一部となっているから,他の構成部分(イ号ソフト)と独立には存在することができず,相互に関連性をもって作動すると主張する。


 確かに,前記?Bエのとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムは,部品に関する情報がイ号サーバシステムとは別の複数の既存システムに保持された部品に関する情報の検索・参照を容易にすることを目的としたサーバシステムであるから,イ号サーバシステム内に構築されたイ号データベースについて,クライアントの要求に従って,これを検索し,検索条件(文字列)に合致した部品の部品番号,部品名及び属性情報をクライアントの表示装置に表示させ,更に指示された部品の上流又は下流にある部品の部品番号等を階層的に上記表示装置に表示させ,又は指定された部品を構成する部品の製造コスト,材料,化学物質の含有量などを集計して上記表示装置に表示させる機能を有するものとなる。


 しかしながら,データベースにおける情報の検索・参照及び情報検索結果の表示と,データベースへのデータ入力及び登録とは,データベースの運用において独立した別個の処理であるから,ネットワーク接続したイ号サーバシステムでの情報検索において,イ号ソフトにより,イ号データベースから部品に関する情報や既存システムに格納されたデータの参照情報(URL)がクライアントに提供され,この参照情報を利用して,既存システムで個別に管理されている部品に関する情報が,クライアントのWeb機能により参照され,さらに,クライアントの表示装置において,イ号ソフトにより,指示された部品の部品番号,部品名及び属性情報の表示と,指示された部品の上流又は下流にある部品の部品番号等を階層的表示がされるとしても,このことから,ネットワーク接続されたイ号サーバシステムにおいて,イ号ソフトにより,クライアントの表示装置に表示された画面から参照情報に関する情報が入力され,部品に関する情報を個別管理する既存システム内のデータベース及びイ号データベースのいずれかに登録されるとはいえない。


 そして,前記?Bエのとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムは,部品に関する情報がイ号サーバシステムとは別の複数の既存システムに保持されたまま各既存システムで個別管理され,かつ,その情報の入力・登録も各既存システムが有する入力手段・登録手段によって行われることを前提としたものである。


 また,上記イ?~及び髻のとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムは,システム管理者が入力用データのファイルを作成する段階で,各既存システム内に存在する製品に関する情報を,イ号ソフトの機能を用いずに,各既存システムのアプリケーションなどを用いて部品情報テーブル,構成情報テーブル,属性情報テーブルで構成される所定の形式に整理・記述して,入力用データのテキストファイル(CSV形式)を作成し,イ号ソフトをインストールしたサーバ内にコピーした後,イ号ソフトがその一部を専用のファイル形式にデータ変換し,イ号ソフトをインストールしたサーバ内にイ号データベースを構築するものである。


 そうすると,各既存システム及びイ号データベースにおける部品に関する情報の入力及び登録は,イ号ソフトの機能を用いずに各既存システムが有する入力手段・登録手段によって行われるから,ネットワーク接続したイ号サーバシステムの部品に関する情報の入力及び登録において,各既存システムが「他の構成部分(イ号ソフト)と独立には存在することができず,相互に関連性をもって作動する」ということはできない。


 したがって,控訴人の上記の主張は採用できない。


・ 控訴人は,本件発明の「入力処理手段」(構成要件F)及び「情報登録手段」(構成要件J)は,ごく一般的な処理手段であると主張する。


 しかしながら,上記のとおり,本件発明の「入力処理手段」(構成要件F)は,クライアント機である端末機において,その表示装置の画面に表示される部品表のデータを用いて操作されるものであるから,ごく一般的な処理手段ということはできない。そして,この「入力処理手段」を操作して作成されたデータ入力準備ファイルを,クライアント機である端末機からデータベースサーバに送り,統合データベースに登録する,本件発明の「情報登録手段」(構成要件J)も,ごく一般的な処理手段ということはできない。


・ 控訴人は,本件発明の入力処理手段はごく一般的な処理であるところ,既存システムとイ号ソフトとが一体として構成されており,イ号ソフトの中の属性情報テーブルにデータが入力されている以上,既存システムはイ号ソフトに組み込まれ,イ号ソフトの運用,すなわち既存システムの運用となるから,構成要件Fを充足すると主張する。


 しかしながら,上記?~のとおり,本件発明の「入力処理手段」(構成要件F)はごく一般的な処理であるとはいえず,また,上記??のとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムの部品に関する情報の入力及び登録において,既存システムはイ号ソフトと相互に関連性をもって作動するとはいえないから,既存システムとイ号ソフトとが一体として構成され,既存システムはイ号ソフトに組み込まれているとは認められない。


 そして,上記イ・のとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムでは,システム管理者が入力用データのファイルを作成する段階で,各既存システム内に存在する製品に関する情報を,イ号ソフトの機能を用いずに,各既存システムのアプリケーションなどを用いて部品情報テーブル,構成情報テーブル,属性情報テーブルで構成される所定の形式に整理・記述して,入力用データのテキストファイル(CSV形式)が作成され,本件発明の「入力処理手段」(構成要件F)のように,画面表示手段によって製品の各部位を示す項目が部品表に示された階層関係に従って画面に表示され,項目指示手段によって前記画面の任意の項目の表示部が指示された上で,その指示項目に対して登録する情報を所定の記憶領域に入力する処理は行われない。


 そうすると,ネットワーク接続したイ号サーバシステムにおいて,既存システムがイ号ソフトに組み込まれ,イ号ソフトの運用,すなわち既存システムの運用となることはなく,構成要件Fを充足するとは認められない。


 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。


・ 控訴人は,甲3及び4等を根拠に,ネットワーク接続したイ号サーバシステムが構成要件Jの「情報登録手段」を備えており,既存システムのデータベースにではなく,イ号サーバシステムの属性情報テーブルに部品に関する情報が登録されると主張する。


 証拠(甲3,6〜8,乙1,2の1)によれば,ネットワーク接続されたイ号サーバシステムは,このシステム内に構築されたイ号データベースについて,クライアントの要求に従って,これを検索し,検索条件(文字列)に合致した部品の部品番号,部品名及び属性情報をクライアントの表示装置に表示させることにより,異なる既存システムで管理されている関連情報を,1つの画面で参照できるようにしたものである。

 そして,甲3における「…業務ポータルを短期間で構築」及び「イントラネット上のPDM,ERPなどの各種システムと連携することで,…業務における情報検索の負担を大幅に軽減」との記載は,ネットワーク接続されたイ号サーバシステムにおける上記の情報検索機能及び表示機能の有用性を表現したものと解される。


 さらに,甲3の「散在しているDBの統合例」を示す図は,イ号データベースを介して既存システムで管理されている情報を検索し,部品表ツリーの形式で参照できるようにしたことを示すだけであり,また,甲4は,ネットワーク接続したイ号サーバシステムについて「構成木検索を基本に,部品属性データを取り込む方法などについて紹介する。」としたセミナー内容を示すだけであるから,これらの記載をもって,ネットワーク接続したイ号サーバシステムの既存システム及びイ号データベースに対して,情報を登録することを示しているということはできない。


 そうすると,控訴人が主張する甲3及び4等の記載や図を根拠に,ネットワーク接続されたイ号サーバシステムが,本件発明の「情報登録手段」(構成要件J)を備えているとはいえない。


エ まとめ

 以上のとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムは,本件発明の構成要件FないしJをいずれも充足しないから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属さない。


 また,ロ号ソフトないしニ号ソフトに関しても,控訴人がイ号ソフトの構成を基本構成に有することを前提としている以上,これらのソフトをインストールしたサーバシステムも,同様に,本件発明の技術的範囲に属さない。


・ 間接侵害の成否

 上記のとおり,ネットワーク接続したイ号サーバシステムは,本件発明の技術的範囲に属さないから,被控訴人各ソフトをインストールしたサーバは,「その物の生産に用いる物」ということはできない。そして,被控訴人各ソフトの単体も,「その物の生産に用いる物」ということはできないことは,明らかである。よって,特許法101条2号所定の間接侵害は成立しない。

・ 小括

以上の次第で,控訴人の特許権侵害に基づく請求は,いずれも理由がない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。