●平成23(行ケ)10205 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「けん

 本日は、『平成23(行ケ)10205 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「けんしんスマートカードローン」平成23年11月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111201134529.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本願商標と引用商標との類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


『当裁判所は,本願商標と引用商標が類似するとした本件審決の認定判断には誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 商標の類否判断について

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁,最二小判平成5年9月10日民集47巻7号5009頁,最二小判平成20年9月8日裁判集民事228頁561頁参照)。

 そこで,上記の観点から本件について検討する。


2 本願商標と引用商標との類否について

(1) 本願商標について

ア 本願商標の特徴部分

 本願商標の構成は,別紙商標目録記載(1)のとおりである。すなわち,本願商標は,「けんしんスマートカードローン」の文字を横書きしてなるものである。本願商標は,「けんしん」の文字部分が平仮名で,「スマートカードローン」の文字部分が片仮名で表記されているものの,各文字が,ほぼ同一の書体,大きさ,間隔で表記されており,全体がまとまった印象を与えている。


 また,本願商標の「カードローン」部分は,クレジットカードなどを利用した融資を意味し(乙8),資金の貸付けを含む指定役務に使用された場合には,その役務の普通名称を表示するものと理解される。また,「スマート」部分は,賢い,頭のよい,体型がよい,質が高いなどを意味する語であると理解される(乙9,10)。他方,「けんしん」部分は,資金の貸付け等を行う取引者,需要者においては,「県信用組合」の略称と理解される場合があることを否定することはできないものの,平仮名で表記されており,一義的に理解される語とまではいえない。


 そうすると,本願商標は,「けんしん」,「スマート」,「カードローン」のいずれかが,出所識別標識としての機能を有する特徴部分であるということはできず,取引者,需要者は,一体のものとして認識,理解するものと解され,平仮名で表記された「けんしん」部分のみが役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分と認めることはできない。


イ 本願商標の外観,称呼及び観念

 本願商標の外観は,別紙商標目録記載のとおりである。


 本願商標は,一体として「ケンシンスマートカードローン」の称呼が生じる。また,本願商標の「カードローン」部分は,上記のとおり,取引者,需要者にとって,クレジットカードなどを利用した融資との観念が生じ,「スマート」部分は,賢い,頭のよい,体型がよい,質が高いなどの観念が生ずるが,「けんしん」部分は,一義的な観念を生じるとまではいえない。


(2) 引用商標の外観,称呼及び観念について

 引用商標1,4,6,7は,別紙引用商標目録記載のとおり,それぞれが,ほぼ同一の書体,大きさ,間隔で,「けんしん」の文字を横書きした外観を有している。


 また,引用商標2は,別紙引用商標目録記載のとおり,横長の矩形において,右4分の3の部分が赤色に,左4分の1部分が白色に塗り分けられ,赤色の部分には,白抜きの文字により,「けんしん」の文字が横書きされ,白色の部分には,赤色で描かれた半円(底面を下にした場合に円弧の右側にわずかに切り欠きがある)を2個上下に組み合わせて円形になるように表記した図形が配置された外観を有している。さらに,引用商標3は,別紙引用商標目録記載のとおり,赤色で縦長の楕円形の中に,白抜きの文字により,「けんしん」の文字を縦書きした外観を有し,引用商標5は,青色で横長の楕円形の中に,白抜きの文字により,「けんしん」の文字を横書きした外観を有している。


 上記引用商標は,いずれも「ケンシン」の称呼が生じ,資金の貸付け等を行う取引者,需要者においては,「県信用組合」の略称であるとの観念を生じることを否定できないものの,平仮名で表記されていることから,一義的な観念を生じるとまではいえない。


(3) 取引の実情等について

 県信用組合は,組合員により構成される協同組合組織の金融機関であり,その営業活動は,県内に限られており,同一県内に複数の県信用組合が存在しない。少なくとも,「秋田県信用組合」,「福島県商工信用組合」,「茨城県信用組合」(原告),「新潟縣信用組合」,「長野県信用組合」,「富山県信用組合」,「愛知県中央信用組合」,「滋賀県信用組合」,「兵庫県信用組合」,「広島県信用組合」,「香川県信用組合」,「熊本県信用組合」,「大分県信用組合」は,略称として,「けんしん」ないし「ケンシン」を使用している。また,別紙引用商標目録記載の商標について,「新潟縣信用組合」,「長野県信用組合」,「富山県信用組合」及び「滋賀県信用組合」は,それぞれ「けんしん」関連の商標について特例商標,重複商標として商標登録を受けている(甲12,12の1ないし14,弁論の全趣旨)。


(4) 本願商標と引用商標との対比

 本願商標は,上記のとおり,「けんしんスマートカードローン」の文字を横書きしてなるものであるが,各文字が,ほぼ同一の書体,大きさ,間隔で表記されており,全体がまとまった印象を与えているのに対し,引用商標は,「けんしん」の文字を横書き又は縦書きしたもの,あるいはこれと図形を組み合わせたものであり,両商標は,外観において,相違する。また,本願商標は,上記のとおり,「ケンシンスマートカードローン」との称呼が生じるのに対し,引用商標は,「ケンシン」との称呼が生じ,両者は,類似するとまではいえない。上記のとおり,本願商標の「カードローン」部分は,取引者,需要者にとって,クレジットカードなどを利用した融資との観念が生じ,「スマート」部分は,賢い,頭のよい,体型がよい,質が高いなどの観念が生ずるが,「けんしん」部分は,一義的な観念を生じるとまではいえないのに対し,引用商標も一義的な観念を生じるとまではいえず(もっとも,「県信用組合」の略称であるとの観念を生じることを否定するものではない。),両商標は,観念において,同一ではなく,類似するとまではいえない。さらに,上記のとおり,取引の実情について,県信用組合は,組合員により構成される協同組合組織の金融機関であり,その営業活動は,県内に限られていること,同一県内に複数の県信用組合が存在しないこと等を総合考慮するならば,取引者,需要者が,その役務の出所について,混同を来すことは想定できない。


(5) 小括

 以上によれば,本願商標と引用商標とは外観,称呼において相違し,観念が類似するとまではいえず,取引の実情等を考慮しても,本願商標がその指定役務に使用された場合に,引用商標との間で役務の出所に誤認混同を生じさせるおそれはないから,両商標は,類似しない。


3 被告の主張について

 これに対し,被告は,本願商標について,「けんしん」と「スマートカードローン」の各文字部分は,前者が平仮名で後者が片仮名であって,文字の種類が異なっており,視覚上自ずと分離して看取,把握され得ること,本願商標のうち「スマートカードローン」の文字部分は役務の質を表示するものと理解されるのに対し,「けんしん」の文字部分は,「県信用組合」の略称である「けんしん(県信)」との意味合いを想起させるものであり,出所識別標識としての観念を生じさせること等に照らすと,本願商標は,その指定役務との関係において,「けんしん」の文字部分が,取引者・需要者に対し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから,簡易迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,「けんしん」の部分のみを抽出し,同部分を引用商標と比較して類否の判断をすることができる,と主張する。


 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,?本願商標は,各文字が,ほぼ同一の書体,大きさ,間隔で表記され,全体がまとまった印象を与えていること,?「けんしん」部分は,必ずしも,一義的な観念を生じるとまではいえないが,「スマート」との語も付加されており,「けんしん」部分のみが,本願商標の特徴部分であると解すべきではないこと,?「けんしん」部分が,「県信用組合」の略称であるとの観念を生じさせることがある場合であっても,前記取引の実情に照らすならば,需要者,取引者において,本願商標と引用商標について,役務の出所の混同を来すことはないと解されることから,被告の主張は,採用できない。


4 結論

 以上によれば,原告の請求は理由がある。被告はその他縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。