●平成22(ワ)24818 特許権差止等請求事件「ロータリーディスクタン

 本日は、『平成22(ワ)24818 特許権差止等請求事件「ロータリーディスクタンブラー錠及び鍵」平成23年11月25日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111129115433.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、争点(2)(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 鈴木和典、裁判官 寺田利彦)は、

『1本件事案に鑑み,争点(2)(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)について判断する。


(1)無効理由2(新規性の欠如)について

ア本件特許発明

 本件特許発明は,本件特許に係る特許請求の範囲の【請求項2】に記載された発明であり,
(?)
A内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と,
Bこの外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,
Cこの内筒の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し,
D上記仕切板の間の各スロットに,中央部に鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔を形成し,剛性を高めるため環状に成形したロータリーディスクタンブラーを挿設し,
Eその実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に,
F鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,
G一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入された合鍵のブレードの平面部又は端縁部と干渉する係合突起を一体に突設し,
H各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,
I他方,これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにした
Jロータリーディスクタンブラー錠

(?)(?)の合鍵であって,
K鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢形の窪みを形成し,
Lこの窪みが対応する係合突起と係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,
M以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき(判決注:「回動させたとき」の誤記と認める。),カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とする
Nロータリーディスクタンブラー錠用の鍵

によって特定されるものである。


 上記構成要件A〜Nの記載から明らかなとおり,本件特許発明は,特定の構成を備えたロータリーディスクタンブラー錠に用いられる「鍵」として表現されており,これを総体としてみれば,本件特許発明は「鍵」の発明であると認められるが,「鍵」そのものの構成としては,構成要件Kにおいて,「ロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢形の窪みを形成」することが特定されるにとどまる。


 また,構成要件A〜Nの記載をみても,本件特許発明の鍵が使用される錠がロータリーディスクタンブラー(特に環状に成形されたロータリーディスクタンブラー)を用いた形式のものであることによって,特に鍵自体の構成が工夫されているものとは認め難く,また,本件明細書等の発明の詳細な説明をみても,錠が環状に成形されたロータリーディスクタンブラーを用いたものであることによって,本件特許発明の発明特定事項とされた構成要件Kの鍵の形状以外の構成が把握できるものではない(なお,【0073】には,本件特許発明の効果としてブレードの端縁部にも窪みが形成できることも挙げられているが,これは「窪み」を解除機構に利用することに起因するものであって,発明特定事項に含まれる構成による効果であると認められる。)。


 したがって,「鍵」の発明である本件特許発明に係る発明特定事項のうち,ロータリーディスクタンブラー錠の構成に関する記載は,特定の構成を備えたロータリーディスクタンブラー錠に用いられる「鍵」として表現されているものの,そのことから構成要件K以外の構成が把握できるものではないから,当該鍵の構成を具体的に特定する意味を有しておらず,結局のところ,本件特許発明は,「錠の鍵孔に挿入されたときタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢状の窪みを形成した鍵」の発明であると認められる。


イ乙7の2発明

 特許第3076370号公報(乙7の2)には,次の発明が記載されている。
「コアピンを有するタンブラーを備えたロックシリンダの(平板安全)キーであって,キー溝に挿入されたときコアピンの先端と整合する軸の部位に,皿穴又は段付き穴を形成してなる,(平板安全)キー。」


ウ本件特許発明の発明特定事項と乙7の2発明の発明特定事項とを対比すると,後者の「(平板安全)キー」,「キー溝」,「軸」は,それぞれ前者の「鍵」,「鍵孔」,「ブレード」に相当する。また,後者の「皿穴又は段付き穴」は,特許第3076370号公報(乙7の2)の図面の記載から,前者でいう「有底」の「摺り鉢状の窪み」に相当すると認められる。


 さらに,後者の「コアピンの先端と整合する軸(ブレード)の部位」とは,前者でいう「タンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位」と同義であるから,後者の有底の摺り鉢状の窪み(皿穴又は段付き穴)は,前者で摺り鉢状の窪みについていうのと同様の意味で「所定の深さ」になっているということができる。


 したがって,本件特許発明と乙7の2発明において,発明特定事項に相違する点はなく,本件特許発明は,本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特許第3076370号公報(乙7の2)に記載された発明と認められるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。


(2)以上のとおり,本件特許発明に係る本件特許は,特許法123条1項2号により,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。』

と判示されました。