●平成23(行ケ)10129 審決取消請求事件 意匠権「照明器具用反射板

 本日は、『平成23(行ケ)10129 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「照明器具用反射板」平成23年11月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111122162853.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠登録無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、意匠法3条1項1号に規定する「公然知られた意匠」についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『(3)検討

 前記認定の事実を前提として,本件登録意匠が意匠登録出願前に公然知られた意匠であるか否かについて検討する。


 意匠法3条1項1号に規定する「公然知られた意匠」とは,一般第三者である不特定人又は多数者にとって単に知りうる状態にあるだけでは足りず,現実に知られている状態にあることを要し,また,不特定人という以上,その意匠と特殊な関係にある者やごく偶然的な事情を利用した者だけが知っているにすぎない場合は含まれないと解するのが相当である。


 そこで,以上の見地に立って本件につき検討する。

ア被告の原告に対する本件リフレクターフラッターの販売について

(ア)前記認定のとおり,原告と被告は,LEDフラットパネル製品に関する共同開発事業を行っていたものであって,本件リフレクターフラッターは,原告が被告に対し新S型掲示器の光源装置の改良を依頼し,その後,原告と被告との間で協議を重ね,光源装置のSE型試作品を製作し,そのSE型試作品のさらなる製品改良の結果,平成20年9月中旬ころに完成されたものであり,本件リフレクターフラッターの開発に当たって,原告と被告は共同事業者として密接な関係にあったものであるが,本件リフレクターフラッターの販売もこのような密接な関係にある原告と被告間の特定の取引関係によるものと認められるばかりか,原告と被告は上記共同開発事業に関して本件秘密保持契約(甲4)を締結し,被告が原告に提供したLEDフラットパネル製品に係る技術情報及びノウハウについては秘密保持義務が課せられていると認められるから(第1条,第2条,第3条及び第5条),被告から原告に対する本件リフレクターフラッターの販売・納品をもって,甲号意匠が「公然知られた」ことになると認めることはできない。


(イ)この点に関し,原告は,本件秘密保持契約書(甲4)の第1条には,「共同開発事業の是非を検討する目的において」との限定があるところ,被告が原告に対し平成20年9月30日に本件リフレクターフラッターを320個納品した時点では,既に製品は完成し量産化されている段階であって,被告自らが自発的に行った通常の商取引というべきであるから,本件秘密保持契約の適用範囲外であるなどと主張する。


 しかし,そもそも「共同開発事業の是非を検討する目的」とは何を意味するのか必ずしも判然とせず,製品が完成し量産化されば上記目的が達成されるか否かも明らかでないばかりか,仮に製品が完成し量産化されれば直ちに目的を達成するとしても,そもそも上記目的が終了したことは契約の終了原因としては明記されておらず,かえって,上記秘密保持契約の有効期間は契約締結日から5年であって,解約の申入れがない限り1年ごとに自動更新され(第12条),さらに,契約終了後も別途合意に至るまで効力を有する(第13条)ものであるから,被告が原告に対し平成20年9月30日に本件リフレクターフラッター320個を納品した時点で「共同開発事業の是非」の「検討」は終了しており,原告は被告に対しもはや秘密保持義務を負わないとの原告の上記主張は採用することができない。


(ウ)また,原告は,本件意匠権の出願日である平成21年2月9日以前に,既に被告自身が原告に対し3590個という極めて大量の本件リフレクターフラッターを納品しているなどとして,その規模からしても,その後の流通の過程からしても,本件リフレクターフラッターの開発は既に本件意匠権の出願前に完了しており,秘密保持義務を負わない通常の商取引として納品されているから,甲号意匠はその秘密状態を脱していたなどと主張する。


 しかし,前記(イ)のとおり,本件秘密保持契約(甲4)は,被告の原告に対する本件リフレクターフラッターの販売・納品によって終了していると認めることはできず,このことは,本件リフレクターフラッターの販売量に影響されないというべきであるから,原告の上記主張も採用することができない。


(エ)さらに,原告は,原告内においても,本件リフレクターフラッターの開発を担当するサイン部設計課の従業員ばかりでなく,この開発に関わっていない購買や販売等を担当する生産管理部や営業部の従業員が関わっており,不特定多数の者が甲号意匠を視認している旨主張する。


 しかし,前記のとおり,被告の原告に対する本件リフレクターフラッターの販売・納品は,共同開発事業という密接な関係にある特定の企業間の取引であって,一方当事者の従業員の誰が関わったかは内部の問題にすぎないばかりか,本件秘密保持契約書(甲4)によれば,秘密保持義務は当然に原告の従業員にも適用されるものと解され(第5条,第7条),そうでないとしても,秘密情報を開示された従業員は雇用契約上の義務として当然に秘密保持義務を負うものというべきであるから,仮に原告内において購買や販売等を担当する生産管理部や営業部の従業員が本件リフレクターフラッターの形状を視認したとしても,そのことをもって「公然知られた」状態になったと認めることはできない。


 したがって,原告の上記主張も採用することができない。


 ・・・省略・・・


カ小括

 以上によれば,本件登録意匠がその出願前に甲号意匠により「公然知られた意匠」であったとすることはできないことになるから,本件登録意匠が意匠法3条1項1号の規定に違反することはない。


3結論

 そうすると,本件登録意匠がその出願前に「公然知られた意匠」とはいえないとした審決の結論に誤りはない。


 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。