●平成23(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権「スパークプラグ」

 本日は、『平成23(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「スパークプラグ」平成23年10月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111024133325.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、相違点3に係る容易想到性についての判断が参考になります。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 齋藤巌)は、


『4相違点3に係る容易想到性について

(1)引用例1には,概略,以下の記載がある。

 主体金具の内周面と第二軸部の外周面との間の横飛火の発生を防止するため,主体金具の前端面側開口部の内径をD2,第二軸部の外径をd2として,E=(D2−d2)/2で表されるガスボリューム部端面幅Eを,火花放電ギャップの間隔をαとして,1.1α≦Eを満足するように調整することが有効である(【0019】)。また,主体金具の多少奥まった位置で発生する横飛火を防止するには,絶縁体側係合部よりも前方側において,軸線と直交する仮想平面による絶縁体の断面外形線の直径をd3,これに対応する位置における主体金具の内径をD3としたときに,主体金具の前端面位置から7?以上確保された区間Lにおいて,α<(D3−d3)/2を満足していることが有効である(【0021】)。軸線方向のある位置におけるガスボリューム部の幅((D3−d3)/2)が,火花放電ギャップの間隔αよりも大であれば,その位置での横飛火は生じにくくなる。主体金具の前端面位置から軸線方向において7?程度までの区間では,絶縁体表面の電界強度がある程度高くなると予想され,横飛火発生が懸念されるため,少なくともこの区間では,ガスボリューム部幅を火花放電ギャップの間隔αよりも大きくなるように調整すると,主体金具の奥まった位置での横飛火が実際に効果的に抑制できるようになる(【0022】)。


 隙間形成外周面と対向する平坦部と,当該平坦部の前方側端部から主体金具の内周面に向けて下る傾斜部のなす角度を,140゜≦θ≦160゜を満足するようにやや大きめに設定しておけば,交差位置に形成されるエッジ部への過度の電界集中が回避でき,耐電圧性能を向上させることができる。ただし,θが140゜未満では効果が小さく,θが160゜を超えると,ガスボリューム部の幅の小さくなる区間が長くなるので,横飛火の発生防止の観点においても不利に作用する場合がある(【0023】)。図3では,ガスボリューム部の幅が,火花放電ギャップの間隔αよりも大となる区間の長さをなるべく大きくできるように,第二軸部の円筒状の基端部に対し,縮径部を介して先端本体部分を接続した形態としている。この実施形態では電界集中しやすい急角度のエッジを生じにくくするため,縮径部を円錐面状(テーパ状)としている(【0024】)。


(2)以上の記載からすると,引用発明は,ガスボリューム部の幅を広いものとし,また,その長さをなるべく長いものとすることで,横飛火の発生を抑制しようとするものであり,絶縁体に縮径部を設ける構成は,ガスボリューム部の空間を確保するために採用されたものであると認められる。


 他方,本件補正発明は,前記1(2)イのとおり,第1挟角の角度を所定の大きさとすることにより,主体金具先端側と絶縁体先端側との隙間の空間を広く確保して,絶縁体の先端側にカーボンが付着することによる奥飛火の発生を防止しようとするものである。


 そうすると,引用発明において縮径部を設けることと,本件補正発明の第1挟角を所定の大きさとすることは,同様の効果を奏するものであるが,引用発明において,ガスボリューム部の空間を確保するために縮径部を採用する以上,その角度が重要であることは技術的に明らかであって,その具体的角度を10°以上とすることは,発明の具体化に際し,当業者が適宜設定することができるものであるということができる。そうすると,当業者は,引用発明に基づき,本件補正発明の相違点3に係る構成を容易に想到することができたものといえる。


(3)なお,原告は,第1挟角を10°以上とすることにより,絶縁体側のガスボリュームの影響が大きくなるため,本件補正発明の相違点2に係る構成による作用と相俟って,グロー放電のエネルギーが分散せずにカーボンを焼き切るという格別の作用効果を奏するとも主張しているが,前記2(2)のとおり,この主張は,本件補正明細書の記載に基づかないものであり,採用することはできない。


5以上のとおり,本件補正発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。


 したがって,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項により却下されるべきである。


 よって,本件補正を却下した判断に誤りがあるとの原告主張の取消事由は理由がない。なお,原告は,本願発明が特許されるべきであるとも主張するが,本件補正を却下した判断に誤りがあることを前提とする主張であって,本件補正が認められない場合を前提に,この場合,すなわち,本件補正発明に進歩性(独立特許要件)が認められない場合にもなお,本願発明には進歩性があるという主張ではないから,失当というほかなく,採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。