●平成23(行ケ)10021 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「積層材

 本日は、『平成23(行ケ)10021 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「積層材料,積層材料の製造方法,積層材料のヒートシール方法および包装容器」平成23年10月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111027100914.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の無効審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『ア取消事由1(本願補正発明と引用発明1との相違点についての認定判断の誤り)について


 本願補正発明と引用発明1との相違点が,審決が認定したとおり,「導電性層が,本願補正発明は,『高周波』誘導加熱により熱を発する『無電解メッキ薄膜』層であるのに対し,引用発明1は,高周波誘導加熱によるかは明らかでない誘導加熱により熱を発する『アルミ箔層』である点」(審決7頁21〜25行)であることは,当事者間に争いがない。


 この点に関し,審決は,前記第3,1(4)アにおいて原告が引用するとおり,要するに,周知技術を適用することにより,高周波誘導加熱するための高周波磁束により渦電流を発生させ発熱体となる導電性層として,引用発明1の「アルミ箔層」に代えて,「非磁性基材上に無電解メッキ法等により磁性メッキ層を形成したもの」を用いることは当業者が容易に想到し得た,と判断している。


 ところで,前記(2)で認定したとおり,引用発明1の「アルミ箔層」とは,流動性食品などの内容物を充填する包装容器を形成するために使用される管状ウェブである多層構造体の一層であり,この多層構造体は内側から順にポリエチレンフィルム層,接着剤層,アルミ箔層,紙層及びポリエチレンフィルム層を積層したものであることから明らかなとおり,紙を構成に含むものであって,本願補正発明と同じく,アセプチック包装やチルド包装の容器にも用いられるものである。


 しかし,引用発明1には,ウェブのアルミ箔に渦電流を流すことで,誘導加熱による熱を発生させ,この熱でポリエチレンフィルム層を溶融させてウェブを横シールすることは記載されているものの,ウェブのアルミ箔層に代えて,他の材料を使用することに関する記載や示唆を見出すことはできない。


 一方,審決が周知事項,周知技術と指摘する甲14,甲4及び甲5文献には,無電解メッキによって高周波誘導加熱層を有する材料を製造できることは記載されているものの,これらの文献はいずれも電磁加熱式調理器具などに用いられる発熱体に関するものであって,これらの文献に記載された技術的事項を,紙を積層した多層材料から形成される包装材料の技術に適用することについては何ら示唆がなく,またアルミ箔に代えて無電解メッキ薄膜を用いることについても何ら記載がない。


 特に,甲4及び甲5文献にはメッキ層の基材としてアルミニウムが記載されているから,アルミニウム層に代えて,アルミニウム基材上にメッキ層を設けた材料を適用すると考えると矛盾が生じ,さらに,アルミニウム箔よりもアルミニウム基材に無電解メッキ層を設けた方がコスト削減,生産性向上,省エネルギーであるなどとする根拠は存在しない。


 しかも,本願補正明細書(甲12)の段落【0004】には本願補正発明の無電解メッキ薄膜層は金属箔を含まないことが明記されているから,仮に引用発明1に甲4及び甲5文献の技術的事項を適用しても,本願補正発明になるとはいえない。


 以上のとおり,高周波誘導加熱するための高周波磁束により渦電流を発生させ発熱体となる導電性層として,「アルミ箔層」に代えて,「非磁性基材上に無電解メッキ法等により磁性メッキ層を形成したもの」を置換することは,引用発明1の属するところの紙を積層した多層材料から形成される包装材料の技術分野において周知技術であるとはいえない。


 したがって,引用発明1に甲14,甲4及び甲5文献を適用することによって,本願補正発明が容易に発明し得たとする審決の判断には誤りがあることになる。


イ被告の主張に対する補足的説明

(ア)被告は,甲14文献は,「誘導加熱」の基本原理及び誘導加熱は通常高周波誘導加熱を意味する場合が多いという一般的な基本的事項を示すために用いた文献であって,甲14文献に記載の誘導発熱体は家電用電気器具のみならず,事務機器用,電線被覆用,除氷用等といった幅広い様々な技術分野に適用されるものであり,また,甲4及び甲5文献により,コスト削減,生産性向上,省エネ化のため該磁性メッキ層を薄膜とする目的で無電解メッキ法を適用することは本願優先日前に周知技術であったと主張する。


 しかし,甲14,甲4及び甲5文献には,包装容器,包装材料を含めた技術分野については何ら記載されていないのであるから,これらの文献の記載された周知事項が,本願補正発明の技術分野にも共通する周知事項であると直ちに認めることはできないし,仮に技術分野が共通するといえたとしても,それだけでは当該技術分野において引用発明1の「アルミ箔層」を他の「共通する材料」に変更する動機付けとして十分とはいえないというべきである。


 仮に,磁性材料層のコスト削減,生産性向上,省エネ化を図るため,磁性メッキ層を薄膜とすることが周知の課題であり,無電解メッキ法は所望の厚みの層を形成できるということが周知であったとしても,前記アで検討したとおり,そもそも引用発明1の「アルミ箔層」を磁性メッキ層のような他の材料の層に変更することの動機付けは存在せず,磁性メッキ層にすることを当業者は想到することができないのであるから,そのような周知の課題等の存否は本願補正発明の容易想到性に直接関係がないといわざるを得ない。


 したがって,被告の上記主張は採用することができない。


(イ)また,被告は,審決が周知事項,周知技術として掲げた甲14,甲4及び甲5文献以外の文献を示し,高周波誘導加熱の発熱体となる導電性層として無電解メッキを含めたメッキ層を用いることは,家電用電気器具の分野に限らず,幅広い様々な技術分野に適用されるものであることは乙1文献からも明らかであるとし,また,乙2文献からすれば,高周波誘導加熱の発熱体となる金属材料の導電性層を金属箔,金属蒸着膜又は無電解メッキ膜から形成することは,本願優先日前に当業者が適宜採用していた技術的事項であったし,さらに,乙3,乙4及び乙5文献からすれば,導電性層を無電解メッキ層で形成することも,本願優先日前に当業者が適宜採用していた技術的事項であったと主張する。


 しかし,乙1,乙3ないし乙5文献には,無電解メッキによって発熱層や導電層を有する材料を製造できることは記載されているものの,これらの技術を引用発明1のような紙を積層した包装材料に適用することは記載されておらず,その示唆もない。


 したがって,乙1,乙3ないし乙5文献の記載事項から当業者が引用発明1においてアルミ箔層に代えて無電解メッキ膜を採用する動機付けが得られるとはいえない。


 また,乙2文献は,確かに食品包装分野における包装材料に関する点では本願補正発明の技術分野に属するものと認められるが,乙2文献一例のみで同文献に記載の技術的事項が当然のように周知技術であると認めることはできない。仮にそうでないとしても,乙2文献には,金属含有層として金属箔,金属蒸着膜,無電解メッキ膜,金属繊維ないし金属粉末の充填層が並列的に記載されてはいるものの,実施例ではアルミ箔やスチール箔が採用されており,金属箔よりも無電解メッキ膜を用いることを積極的に動機付ける記載は見当たらない。


 したがって,乙2文献の記載が仮に周知技術であるとしても,同記載事項から当業者が引用発明1においてアルミ箔層に代えて無電解メッキ膜を採用する動機付けが得られるとはいえない。


(ウ)さらに,引用発明1の多層構造体は,上記したようにポリエチレンフィルム層,接着剤層,アルミ箔層,紙層及びポリエチレンフィルム層を積層したものであり,液体食品などを包装するためのものであるが,引用発明1と同じく紙を含む積層材料から液体食品を包装する容器を製造することに関する文献である,甲6文献の【請求項1】及び段落【0007】の記載,そして,甲15文献の段落【0004】,【0007】ないし【0011】の各記載からみて,アルミ箔層は,紙やポリエチレンフィルムなどの樹脂材料のような気体透過性を有する材料からなる多層構造体に,ガスバリア性を付与する機能を持っているものと認められる。したがって,当業者が引用発明1の多層構造体を見たとき,アルミ箔層は,誘導加熱によって熱を発生してポリエチレンフィルム層を溶融させる機能だけでなく,多層構造体にガスバリア性を付与する機能をも果たしていると理解することができ,また,液体食品の包装容器において,食品の変質を防ぐためにはガスバリア性が重要であることも,当業者が容易に理解するところである。


 そうすると,引用発明1において,アルミ箔層を,ガスバリア性をアルミ箔層と同じレベルで有するとはいえない他の材料に変更することには,むしろ阻害事由があるというべきである。


 したがって,仮に乙2文献の記載を参酌しても,引用発明1のアルミ箔層を無電解メッキ薄膜に代えることを当業者が容易に想到しえるとはいえない。


(エ)以上のとおり,被告の上記主張はいずれも採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。