●平成23(行ケ)10022 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「積層材

 本日は、『平成23(行ケ)10022 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「積層材料,積層材料の製造方法,積層材料のヒートシール方法および包装容器」平成23年10月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111027105308.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由1(本願補正発明と引用発明1との相違点についての認定判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『ア取消事由1(本願補正発明と引用発明1との相違点についての認定判断の誤り)について


 本願補正発明と引用発明1との相違点が,審決が認定したとおり,「導電性層が,本願補正発明は,『高周波』誘導加熱により熱を発する『蒸着フィルムの基材フィルムに設けられた金属性導電材料からな』る『金属蒸着層』であるのに対し,引用発明1は,高周波誘導加熱によるかは明らかでない誘導加熱により熱を発する『アルミ箔層』である点」(審決9頁11行〜16行)であることは,当事者間に争いがない。


 この点に関し,審決は,前記第3,1(4)アにおいて原告が引用するとおり,引用発明1のアルミ箔層と,引用例2記載の上記金属蒸着フィルムとは,共に,流動性食品等の包装容器用積層体の分野において,誘導加熱による熱を発生させる導電性材料であり,そこで発生させた熱により熱可塑性樹脂層を溶融させヒートシールさせるためのものである点で共通するから,引用発明1における「アルミ箔層」に代えて,ヒートシール性に優れたものとするように,引用例2に記載の「金属蒸着フィルム」を適用することは当業者が容易に想到し得たもの,との判断を示している。ところで,前記(2)で認定したとおり,引用発明1の「アルミ箔層」とは,流動性食品などの内容物を充填する包装容器を形成するために使用される管状ウェブである多層構造体の一層であり,この多層構造体は内側から順にポリエチレンフィルム層,接着剤層,アルミ箔層,紙層及びポリエチレンフィルム層を積層したものであることから明らかなとおり,紙を構成に含むものであって,本願補正発明と同じく,アセプチック包装やチルド包装の容器にも用いられるものである。


 しかし,引用発明1には,ウェブのアルミ箔に渦電流を流すことで,誘導加熱による熱を発生させ,この熱でポリエチレンフィルム層を溶融させてウェブを横シールすることは記載されているものの,ウェブのアルミ箔層に代えて,他の材料を使用することに関する記載や示唆を見出すことはできない。


 一方,審決が指摘する引用例2には,前記(3)のとおり,ポリプロピレン(A)からなるフィルム表面に,金属(B1)または金属酸化物(B2)の蒸着薄膜が形成されている金属蒸着ポリプロピレンフィルムが記載されており,この「金属蒸着ポリプロピレンフィルム」は,基材フィルムに金属の蒸着薄膜が形成された金属蒸着層であって,低温シール性及び耐ブロッキング性に優れている技術的事項が記載されてはいるものの,金属蒸着ポリプロピレンフィルムを高周波誘電加熱に用いることについては何ら記載されていない。


 この点に関し,審決は,「この『金属蒸着フィルム』は,基材フィルムに金属の蒸着薄膜が形成された金属蒸着層といえ,これは,従来知られていた『導電性等を付与するため』『金属・・を蒸着したプラスチックフィルム』(摘示2b)を,『低温シール性・・に優れ』(摘示2d)るようにしたもの,すなわち低温でのヒートシール性に優れるようにしたものであり,導電材料であるこの『金属蒸着フィルム』(にうず電流を流すこと)によって発生する熱である誘導加熱による熱でシールするもので,低温でのヒートシール性に優れたものといえる。」(審決10頁12行〜19行)と判断している。


 しかし,引用例2には,「金属蒸着フィルム」に渦電流を流すことや,誘導加熱による熱でシールすることは記載されていない。そして,引用例2に記載されている「低温シール性」とは,段落【0031】及び【0032】の記載からみて,基材フィルムのポリプロピレンをメタロセン系オレフィン重合用触媒を用いて調製したことによって,低分子領域の成分含有率が少なくなり,低分子領域成分のブリードアウトが低減されたことに基づく性質である。


 また,引用例2の【実施例】の記載によれば,メタロセン系オレフィン重合触媒を用いて調製した基材フィルムからの金属蒸着ポリプロピレンフィルム(実施例1,2)が,従来技術であるチーグラー系オレフィン重合用触媒を用いて調製したもの(比較例2)よりも,ヒートシール温度が低い場合の引張り試験結果が優れていることが示されていることから,引用例2に記載される「低温シール性」に優れるとは,ヒートシールする温度が従来よりも「低温」であっても「シール性」に優れることであるというべきであるから,審決の上記判断は誤りである。


 以上のとおり,高周波誘電加熱に用いるために,引用発明1の「アルミ箔層」に代えて,引用例2に記載された「金属蒸着層」を適用することについては,何ら動機付けが存在しないというべきである。したがって,引用発明1に引用例2を適用することによって,高周波誘導加熱するための高周波磁束により渦電流を発生させ発熱体となる導電性層として,「アルミ箔層」に代えて,「基材フィルムに金属の蒸着薄膜が形成された金属蒸着層」を置換することを,当業者が容易に想到し得たとする審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。


イ被告の主張に対する補足的説明

(ア)被告は,高周波誘導加熱でとりわけヒートシールされる包装容器においては,容器のヒートシールされる領域に高周波誘導加熱により発熱する発熱層(導電性層)を付設し,該容器を該高周波電界の中に入れたとき,該発熱層に近接したヒートシール部分が溶融することで密封されること,及び該発熱体となる導電性層として金属蒸着層を用いることは,金属箔を用いることと同様,乙1文献の記載を待つまでもなく,本願前,技術常識であったし,広く包装容器,包装材料の技術分野全般でみても,高周波誘導加熱により発熱する導電性層として金属蒸着層を用いることは,乙2及び乙3文献の記載からも明らかなように,金属箔や無電解メッキ膜を用いることと同様,本願前,技術常識であったと主張する。


 しかし,本願前に,例えどのような導電性層であっても必ず高周波誘導加熱により発熱する発熱層とすることができるといった技術常識が存在していたと認めるに足りる証拠はない。また,被告が指摘する乙1文献ないし乙3文献には,高周波誘導加熱できる材料として金属箔や金属蒸着膜があることは記載されているものの,これらの材料を紙を積層した包装材料のシールに用いることは記載されていない。すなわち,乙1及び乙2文献では,実施例において金属箔が採用されており,金属箔よりも金属蒸着膜を用いることを積極的に動機付ける記載はないし,乙3文献には,発熱包材の場合に金属蒸着膜が最適であると考えられることが記載されているが,包装材料のシールに関しては記載されていない。


 さらに,引用発明1の多層構造体は,上記したようにポリエチレンフィルム層,接着剤層,アルミ箔層,紙層及びポリエチレンフィルム層を積層したものであり,液体食品などを包装するためのものであるところ,引用発明1と同じく紙を含む積層材料から液体食品を包装する容器を製造することに関する文献である甲5文献の段落【0004】,【0007】〜【0011】,甲6文献の【請求項1】及び段落【0007】の記載からみて,アルミ箔層は,紙やポリエチレンフィルムなどの樹脂材料のような気体透過性を有する材料からなる多層構造体に,ガスバリア性を付与する機能を持っていると認められる。


 したがって,当業者が引用発明1の多層構造体に接したとき,そこに記載されている「アルミ箔層」は,誘導加熱によって熱を発生してポリエチレンフィルム層を溶融させる機能だけではなく,多層構造体にガスバリア性を付与する機能をも果たしていると理解するものと認められる。また,液体食品の包装容器において,食品の変質を防ぐためにはガスバリア性が重要であることも,当業者が理解するところである。そうすると,引用発明1において,アルミ箔層を,ガスバリア性をアルミ箔層と同じレベルで有するとはいえない他の材料に変更することには,むしろ阻害事由があるというべきである。


 したがって,乙1文献ないし乙3文献の記載を考慮しても,引用例2に記載された導電性を有する金属蒸着膜が,引用発明1のアルミ箔層と置換すべき材料であると当業者が容易に想到するとは考えられないというべきである。

(イ)前記(ア)のとおり,乙1文献ないし乙3文献の記載を考慮しても,引用例2に記載された導電性を有する金属蒸着膜が,引用発明1のアルミ箔層と置換すべき材料であると当業者が容易に想到するとは考えられないから,前記第3,3(1)ア及びイにおけるその他の被告の主張もその前提を欠き,採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。