●平成23(行ケ)10050 審決取消請求事件 特許権「抗骨粗鬆活性を有

 本日は、『平成23(行ケ)10050 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「抗骨粗鬆活性を有する組成物」平成23年10月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111012132009.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1〜3についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古谷健二郎)は、

『1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
  原告は,審決が,相違点1についての検討に当たり,「本願発明における「抗骨粗鬆症活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するものとは認められないため,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」,「引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物に他ならないものであるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」と判断したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明が,骨粗鬆症の治療に対しカルシウムを骨へ直接取り込むことを主眼とする上記引用発明とは異なる技術思想に基づくものであること,本願発明が,カルシウムを補給する前に骨の劣化を抑えることが重要であるとの観点から,カルシウム,キトサン,プロポリスの3種混合物としたことを技術的特徴とするもので,その配合成分のうちキトサンは,骨吸収を抑制する役割を担っているのに対し,引用発明のキトサンの役割は腸管内でのカルシウム吸収を促進するためのものであり,両者の役割が本質的に異なることなどを述べる。


 しかし,原告が本願発明の技術的特徴として主張する,骨粗鬆症に対する治療手法としての機序や,キトサンが骨吸収を抑制するという役割などは,本願発明を特定する特許請求の範囲において記載されておらず,「物」の発明としての本願発明を特定するものではないから,そのことを理由に引用発明との相違点の判断を否定する原告の主張は,失当といわなければならない。


 なお,本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。


2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について

 原告は,審決が,相違点2についての検討に当たり,「引用例Bには,プロポリスがカルシウムの吸収効果率を高める作用を有し,これをカルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得ることが記載されていることに基づき,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させるために,プロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることであると認められる。」と認定したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明におけるプロポリスは,骨形成の阻害要因の一つである活性酸素を除去し骨形成の根本を改善するのに対し,引用発明のプロポリスは,カルシウムの骨への吸収を高めるにすぎず,両者はその役割・作用を大きく異にすると述べる。

 
 しかし,本願明細書において,原告が主張する,プロポリスが活性酸素を除去したことにより骨内カルシウムの劣化が抑制される際の具体的な機序に関する記載はなく,その実施例,試験例においても,具体的に測定されているのは,被験者の骨密度や,ラットの骨密度,体重であって,活性酸素の除去に関しては何ら測定されていないから,原告の本願発明に係る上記主張は,明細書の記載により根拠付けられるものではなく,理由を欠くものといわなければならない。


 なお,引用例Bには,プロポリスが,カルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得ることが開示されている。


 一方,引用発明のカルシウム吸収促進性組成物は,カルシウム摂取が不足している人を対象として,カルシウムの摂取不足に起因する骨粗鬆症などの疾患を防止し得るものとして提供されていると認められる。そうすると,引用発明において,カルシウムの吸収効率を更に高め,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させる観点から,技術分野や解決課題の共通する引用例Bに開示された,プロポリスがカルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得る旨の技術的事項を適用して,引用発明にプロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることといえる。


 したがって,相違点2に関する審決の判断に誤りはない。


3取消事由3(作用効果の判断の誤り)について

 原告は,審決が,「本願発明が,引用発明においてさらにプロポリスを併用するものとしたことにより,引用発明から予測し得ない格別顕著な効果を奏し得たものと認めることができない。」と判断したのは誤りであると主張し,その理由として,本願明細書の図1に示す動物モデルで行った基礎実験において,骨粗鬆症を想定した卵巣摘出ラットを基準としての平均骨密度の増加率は,カルシウムでは2.33%,キトサンとプロポリスではいずれも3.88%に対して,3種混合物では6.20%と極めて高い増加率を示し,これがキトサンとプロポリスとの併用投与による相乗効果であると述べる。


 しかし,カルシウムとキトサンを有する引用発明に,カルシウムの吸収効率を更に高めるためにプロポリスを配合するという引用例Bに開示された技術事項を適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることは,前記2のとおりであり,その結果,カルシウムとキトサンにプロポリスを配合した組成物が,本願発明と同様の平均骨密度の増加という作用効果を奏するであろうことも,当業者が容易に予測し得ることと認められる。


 本願明細書における上記実験では,「カルシウム」,「キトサン」及び「プロポリス」をそれぞれ単独で投与したものと,「3種混合物」を投与したものとを比較したのみであり,前記引用例の組合せからは予想し得ない顕著な作用効果を示すものではない。また,その実験結果も,3種混合物を投与したものの平均骨密度の増加率が,各成分単独の増加率より大きいとするものであって,同等の単位数量に基づいて比較したものでなく,他にどのような飼料が与えられていたかも明らかにされていないから,本願発明が,いわゆる相加的効果でなく,当業者が予測できないような相乗的効果を有することを立証するものではない。


 なお,本願明細書の表2及び表4には,本願発明の組成物を含む抗骨粗鬆錠を投与した患者の骨密度が改善したことが示されているが,3種混合物を投与することでカルシウムの吸収が促進され,骨密度が向上することは,前示のとおり,当業者が容易に予測するところである。原告の主張する,キトサンにより骨吸収が抑制されることや,プロポリスにより活性酸素が除去されることも,実施例の記載により根拠付けられるものではなく,理由を欠くものといわなければならない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。