●平成23(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権「ごみ貯蔵機器」

 本日は、『平成23(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ごみ貯蔵機器」平成23年10月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111012140520.pdf)について取り上げます。


本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(特許発明1の認定の誤り,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り等)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 古谷健二郎、裁判官 田邉実)は、


『2取消事由2(特許発明1の認定の誤り,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り等)について


(1)前記1のとおり,請求項9の特許請求の範囲にいう「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるための」等の要素はいずれも「ごみ貯蔵カセット」の構成を特定する事項であるところ,かかる発明特定事項はその全部が相まって一つの発明を特定するものであるから(特許法36条5項参照),従前の発明との関係で進歩性を有しないかは,特許請求の範囲に記載された発明特定事項全体を総覧して初めて判断できる事柄であって,一部の発明特定事項が仮に技術常識に属するものであったとしても,これを除外して発明の認定をすることは相当でない。


 審決は,かかる見地から特許発明1を認定し,この認定内容に従って引用発明1との一致点及び相違点を認定した(12〜14頁)ものであるから,審決のかかる認定の手法に誤りはなく,「ごみ貯蔵カセット」自体の構成には含まれない構造部分の存否等を考慮して特許発明1と引用発明1の相違点を認定したとし,審決の相違点の認定には誤りがあるとする原告の主張は採用できない。


(2)審決は,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の実質的同一性の有無を判断するに当たり,特許発明1(請求項9)にいう「係合」の意義につき説示したが(14〜16頁),原告は上記説示には誤りがあり,「係合」とは「係わり合う」という意味であると主張する。


 そこで,特許発明1(請求項9)にいう「係合」の意義につき判断するに,特許請求の範囲には,「前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように設けられた構成と,」との記載の前に,「前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,」との記載があるから,「ごみ貯蔵カセット」「外側壁に設けられ,前記外側壁から突出」する構成(部分)が,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるように,「ごみ貯蔵カセット回転装置」と「係合」するものでなければならない。したがって,上記「係合」は,「ごみ貯蔵カセット」「外側壁に設けられ,前記外側壁から突出」する構成(部分)が,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるような態様のものでなければならないことは明らかである。


 ところで,特許明細書で用いられる一般的な用語を搭載した「特許技術用語集(第2版)」44頁(乙2)には,「係合」の用例として「左右の歯車が係合し,回転が伝達される。受け具と可動突起が係合してドアが閉鎖される。」との記載があるから,特許明細書において「係合」の語が使用される場合には,「2つの部材が,互いに噛み合わされたり,突出部と対応して凹部が引っ掛かったりして,『係合』される両部材の位置(関係)が相対的に動かないようにする」という意味で用いられることがあるということができ,かかる用語の意味な理解は一般的なものである。


 そうすると,本件発明1にいう「係合」も,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるようにするべく,「ごみ貯蔵カセット」の外側壁突出部分(構成)とごみ貯蔵カセット回転装置の一部が互いに噛み合うなどして,「ごみ貯蔵カセット」とごみ貯蔵カセット回転装置の相対的な位置関係が変わらないように(動かないように)することをいうと解される。


 審決は,上記の特許明細書作成上の一般的な用語の理解に従い,かつ請求項9の特許請求の範囲の記載を合理的に理解して,「係合」の意義につき「2つの物が,互いにかみ合うことにより,またはその突出部と対応する凹部がひっかかることにより,連動したり,両者の相対的位置が固定されたりするような構成をとることをいう。」とする解釈を採用したものと解され,審決のかかる判断に誤りがあるとはいえない。


 この点,原告は,特許発明1(請求項9)の「係合」は通常の意味である「係わり合う」という意義を有するものとして明確であるなどと主張するが,原告主張のように解すると,特許発明1の特許請求の範囲にいう「前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,」との記載を捨象することになって相当でないから,原告の上記主張を採用することはできない。


 なお,被告は,特許発明1にいう「係合」に当たるためには「ごみ貯蔵カセット」の回転方向に対して「ごみ貯蔵カセット」とごみ貯蔵カセット回転装置が動かないようにすることが必要である旨主張する。特許発明1の特許請求の範囲の記載上「ごみ貯蔵カセット」回転装置が「ごみ貯蔵カセット」を連動して回転させるものであることが明らかであることに照らせば,被告主張のように「係合」の意義を解した方がより正確であるとも考えられるが,かように解したとしても,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定にも,相違点に係る構成の容易想到性の判断にも影響しない(いずれにしても引用発明1の構成は「係合」の構成を有していない)。


 また,審決は,特許発明1の「係合」の解釈に当たり,本件明細書の段落【0017】等の記載を引用して検討しているが(15頁),その後に用語の一般的な意義に照らして解釈をしているし,念のために上記段落の記載との整合性を検討したにすぎないから,審決の「係合」の解釈に違法はない。


(3)以上のとおり,審決がした特許発明1の認定に誤りはない。


 原告は審決による引用発明1の認定の内容を争っていないところ,甲第1号証(対応する日本国公表特許公報は特表2005−514295号)の明細書1,5〜7頁及び図3,4によれば,引用発明1は,審決が認定するとおりの,「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるためのカセット110であって,前記カセット110は,内壁116と,外壁118と,内壁116と外壁118との間に設けられたパック122収納部と,カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成と,を有し,前記筒状部材(図番無し)から吊り下げられるように構成された,カセット。」というものであると認められる。


 そして,特許発明1にいう「係合」の意義が前記のとおりに解釈されることに照らすと,審決が認定・判断するとおり,引用発明1の外壁118に設けられた,「カセット110を支持するために,・・・筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成」(部分)は,上記のとおり筒状部材を径方向に移動しないようにするだけで,筒状部材とカセット110の相対的位置関係が動かないようにするものではない(とりわけ,カセット110の回転方向に対して。)。


 そうすると,特許発明1と引用発明の一致点は,審決が認定するとおりの,「『ごみ貯蔵機器の上部に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,前記ごみ貯蔵カセットは,略円柱状のコアを画定する内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,前記ごみ貯蔵カセットを支持させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,ごみ貯蔵機器と係合するように備えられた構成と,を有し,前記ごみ貯蔵機器から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット』である点」にあると認められ,特許発明1と引用発明1の相違点も,審決が認定するとおりの,「特許発明1はごみ貯蔵カセットが,『ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるための』ものであるのに対し,引用発明1は,『内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるための』ものであって,『ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内』に『回転可能に』据え付けるためのではない点」(相違点1),「特許発明1はごみ貯蔵カセットが,『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものであるのに対し,引用発明1は,『カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成』を有したものであって,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものではない点」(相違点2),「特許発明1はごみ貯蔵カセットが,『前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された』ものであるのに対し,引用発明1は,『筒状部材・・・から吊り下げられるように構成された,カセット』であって,『ごみ貯蔵カセット回転装置』から吊り下げられるように構成されたものではない点」(相違点3)にあると認められる。


 よって,審決がした引用発明1の認定,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定に誤りはない。


(4)特許発明1の「係合」の意義は前記(2)のとおりに解されるから,これと異なる解釈を前提とする原告の発明の実質的同一性の主張は採用の限りでないが,相違点1ないし3(とりわけ相違点2)に係る特許発明1の構成は,これを備えることにより,ごみ貯蔵「カセットそれ自体,あるいは前記袋織りに触れる必要がなく,ほとんど苦もなく,前記カセットは手動でねじる又は回転させることができる」(段落【0017】),「多数の異なるタイプの容器に据え付けることができ,回転するために低抵抗である。」(段落【0020】)という作用効果を奏するのであって,相違点1ないし3は特許発明1と引用発明1の実質的な相違点であるということができる。なお,本件明細書の図4,6からは,ごみ貯蔵カセット回転装置の内方に突出した部分が上方に位置するごみ貯蔵カセットの一部に下方から上向きの力を加える様子を看取することもできるが,ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵カセット回転装置のそれぞれ全体をみれば,ごみ貯蔵カセット回転装置がごみ貯蔵カセットを吊り下げていると評価して差し支えないものであるし,引用発明1の(ごみ貯蔵)「ひだ付チューブ供給カセット」は筒状部材から吊り下げられてはいるものの,これが回転装置によって回転可能なように構成されているものではないから,相違点3は実質的なものである。


 したがって,「特許発明1は甲第1号証に記載された引用発明1と同一であるということはできない」とした審決の新規性判断に誤りはない。

(5)特許請求の範囲の記載の体裁に照らせば,特許発明3にいう「係合」の意義も特許発明1にいう「係合」の意義と同様に解釈されるべきところ,特許発明1におけるのと同様に,審決がした特許発明3の認定,特許発明3と引用発明2(甲1)の一致点及び相違点の認定,特許発明3と引用発明2の実質的同一性の判断(新規性判断)に誤りはない。


(6)結局,原告が主張する取消事由2は理由がない。』


と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。