●平成22(行ケ)10329 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「樹脂凸

 本日は、『平成22(行ケ)10329 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「樹脂凸版」平成23年10月4日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111006131047.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容され、拒絶審決が取り消された事案です。


 本件では、取消事由5(周知技術2についての認定の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古谷健二郎)は、


『1まず,取消事由5(周知技術2についての認定の誤り)について判断する。


 原告は,審決が,甲3−1〜甲3−6を例示して,補正発明の技術分野において,透明基材の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすることが本件出願前に周知である(周知技術2)と認定した点が誤りであると主張する。


 そこで検討するに,補正発明は,印刷に用いる樹脂凸版に関するものであるから,いわゆる「刷版」の技術分野に属するものと認められる(当事者間に争いがない。)


 また,甲3−1(段落【0019】,【0020】,【0024】及び図1参照)には,車両フロントガラスに貼り付ける車検ステッカーの接着面側に,発光物質がバーコード状又はブロックコード(2次元バーコード)状に塗布されることと,蛍光観察用カメラによって車外から車検ステッカーに塗布されたバーコードを撮像し,バーコードの情報を読み取ることが記載されているところ,車検ステッカーは,通常,車内からフロントガラスに貼り付けるものであるから,フロントガラス(透明基板)の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすることが記載されているといえる。


 しかし,甲3−1は,車両の車番等の車両情報を認識するシステムに関するものであって(段落【0001】参照),刷版に関するものではないから,補正発明とは技術分野が異なるものである。


 甲3−2(段落【0013】)には,「二次元コードは,透明基板の表面側に形成されているので,透明基板の裏面側から読み取ることができる」と記載されているから,透明基板の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすることが記載されているといえる。


 しかし,甲3−2は,基板上に形成した半導体膜から薄膜トランジスタを形成したTFTアレイ基板などの薄膜装置に関するものであって(段落【0001】参照),刷版に関するものではないから,補正発明とは技術分野が異なるものである。


 甲3−3(段落【0008】,【0009】,【0015】〜【0017】及び図2参照)には,レチクル1周縁部の一方の面にパターン部とガラス部からなるバーコード2が刻印され,レチクル1周縁部の他方の面からバーコード2に照射された照明光は,パターン部では一旦パターンを透過してからミラー部で反射し,再度パターン部を透過したものがバーコードリーダー3に内蔵された検出部に受光されることが記載されているから,ガラス部を有するレチクル(透明基板)の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすることが記載されているといえる。


 しかし,甲3−3は,フォトマスク,レチクル,ウエハ,ガラスプレート等の基板に刻印されたコードを読み取るコード読取り装置に関するものであって(段落【0001】参照),刷版に関するものではないから,補正発明とは技術分野が異なるものである。


 …省略…


 以上によれば,甲3−1〜甲3−6には,「透明基板の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすること」が記載されているものの,いずれの証拠も刷版に関するものではなく,補正発明の技術分野とは異なる技術分野に関するものであるから,これらの証拠からから,「透明基材の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすること」が,補正発明の技術分野において一般的に知られている技術であるということはできない。


2被告は,本訴において,乙9〜乙13(及び甲3−5)を提示し,透明な材質に設けられたバーコードは,「シンボルの方向に関係なく両面から機械読み取り可能な情報担体」である旨主張する。


 そこで検討するに,乙9(2頁1〜5行,78頁9行〜79頁3行,236頁13〜27行及び図3.6−8参照)には,ガラスなどの透明な材質に印字された2次元シンボルが,表からも裏からでも2次元シンボルリーダで読み取れることが記載されており,乙12(段落【0024】〜【0030】参照)には,光情報記録媒体の透明な領域の片面に形成されたバーコードが,両面から読み取り可能であることが記載されており,乙13(段落【0013】,【0014】及び図2参照)には,透明なプレート(8)に埋め込まれたバーコード(7)が,裏表両側から読み込み可能であることが記載されており,甲3−5(4頁左下欄1行〜同頁右下欄17行)には,ガラス基板1に設けたバーコード16が,表面及び裏面から読み取れることが記載されている。


 そうすると,審決では示されていないものの,透明な材質に設けられたバーコード自体は,「シンボルの方向に関係なく両面から機械読み取り可能な情報担体」であると解されるが,そのような一般的技術が認められるとしても,「透明基材の一方の面にバーコードを設けて,他方の面からバーコードを読み取るようにする」ことが,補正発明の属する刷版の技術分野において周知の技術であるとはいえない(なお,乙10(30頁2〜6行,31頁12行〜32頁3行及び図3・1参照)及び乙11(202頁13〜16行参照)には,バーコードを裏面から読み取ることが記載されているとは認められない。)。


 また,被告は,乙17〜乙24を提示し,バーコードを読み取る際に,「透明基材を通してバーコードを読み取る」ことは,印刷の技術分野においても広く知られている旨主張する。


 しかし,乙17,乙19〜乙22,乙24は,いわゆる複写機やプリンタ,ファクシミリなどの電子写真方式による印刷技術に関するものであり,乙23は,画像プリンタ用インクリボンを用いた印刷技術に関するものであるから,印刷という点では補正発明の技術分野と関連性はないとはいえないが,いずれの証拠も刷版を用いた印刷技術に関するものではなく,機能・原理・使用される機械等が全く異なるから,補正発明の技術分野と同じ技術分野に関するものであるとは認められない。また,乙18は,バーコード付き包装体に関するものであって,補正発明の技術分野とは明らかに異なる技術分野のものである。


 したがって,バーコードを読み取る際に,「透明基材を通してバーコードを読み取る」ことが,補正発明の技術分野において周知とはいえないから,被告の主張は採用できない。


3以上のとおり,審決が,補正発明の技術分野において,透明基材の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすることが本件出願前に周知であると認定した点は誤りであるから,この周知技術を前提として補正発明の進歩性を否定した審決の判断も,誤りというべきである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。