●平成22(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「逆転洗

 本日も、『平成22(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「逆転洗濯方法および伝動機」平成23年10月4日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111006132823.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由4(相違点2についての進歩性判断の誤り)についての判断も参考になります。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古谷健二郎)は、


『2取消事由4(相違点2についての進歩性判断の誤り)について

(1)原告は,刊行物2の反転装置3が,外軸5には前方プロペラが取り付けられ,内軸4には後方プロペラが取り付けられて,「主として船舶に用いられる」ものであるところ,船舶のプロペラに関する技術は,極めて専門的であるのに対して,補正発明の伝動機構が使用される洗濯機は,一般になじみが深い家庭電化製品の一種であり,また,船舶のプロペラの駆動機構は非常に大型であるのに対して,洗濯機の駆動機構は相対的に小型であり,両者間には設計に関して大きな相違が存在するから,洗濯機に関する刊行物1発明に,これらと技術分野が異なる刊行物2発明を適用することはできないと主張する。


(2)そこで検討するに,補正発明は,「洗濯機での使用に適した伝動機構」に関するものであり,刊行物1発明は,「洗濯兼脱水槽を備えたいわゆる一槽式脱水洗濯機」に関するものであって,いずれも一般家庭で利用される電化製品に搭載される比較的小型な動力伝達機構に関するものである。これに対して,刊行物2発明は,「主として船舶に用いられる二重反転プロペラのための反転装置」,すなわち,船舶等のプロペラ駆動用途で使用される非常に大型の動力伝達機構に関するものである。このように軽量な衣類を洗濯するための動力伝達機構と,重量のある船舶を推進させるための動力伝達機構とでは,設計思想に大きな相違が存在することが技術上明らかであるから,補正発明及び刊行物1発明と刊行物2発明とは,技術分野が異なるものと認められる。

 また,刊行物1発明は,刊行物1によれば,従来の洗濯機における「洗濯兼脱水槽自身による回転運動がなく,撹拌体の回転運動のみにより洗浄を行うため,布の損傷,洗いむらが多い」という課題を前提として,「布の損傷,洗いむらを少なくし,洗浄性能の優れた一槽式脱水洗濯機を提供すること」,すなわち,衣類の洗浄力の向上を解決課題とするものと認められる。これに対し,刊行物2発明は,刊行物2によれば,「面間寸法を小さくできるようにするとともに,小歯車とたわみ軸とによるトルク伝達量を従来の場合よりも小さくできるようにして,配置上の利便と構造上の小型軽量化とをはかれるようにした,二重反転プロペラ用反転装置を提供すること」を解決課題とするものと認められる。ここにいう二重反転プロペラとは,主プロペラの回転により生じる反トルクを打ち消すために,主プロペラとは逆方向に回転する副プロペラを設けた機構をいい,技術上,以下の理由により,主に飛行機や船舶等で用いられるものと認められる。すなわち,空中や水上を走行する飛行体や船舶は,地上に配置された物体や地上を走行する走行体と比較して姿勢が安定しないため,推進用の主プロペラを高速で回転させるほど,これとは逆方向に姿勢が傾く傾向が大きくなることから,副プロペラを設けて,これを主プロペラとは逆方向に回転させることによって,主プロペラの回転に起因した姿勢の傾きを抑制する必要があるのである。


 そうすると,刊行物1発明は,衣類の洗浄力の向上を課題とした技術であるのに対して,刊行物2発明は,船舶等の姿勢の安定化を本来的な課題とした船舶等に固有の技術である点で,両者の解決課題は大きく隔たっている。


(3)以上のとおり,刊行物1発明の洗濯機の動力伝達機構と,刊行物2発明の船舶等の二重反転プロペラの動力伝達機構とは,技術分野が相違し,その設計思想も大きく異なることから,洗濯機の技術分野に関する当業者が,船舶の技術に精通しているとはいえず,洗濯機の動力伝達機構を開発・改良する際に,船舶等の分野における固有の技術である二重反転プロペラに類似の技術を求めることは,困難であるというべきである。また,洗濯機は,通常,床面上に設置して安定な状態で使用されるから,撹拌機や内槽の回転によって生じる反トルクの問題を考慮する必要がないことが一般的であると解される。


 したがって,当業者が,洗濯機の分野では本来的に要求されない二重反転プロペラに関する刊行物2の記載事項を,刊行物1発明に適用することは困難であり,この点を主張する取消事由4には理由がある。


(4)以上の点について被告は,刊行物1発明と刊行物2発明とは,伝動機構である点で同じ技術分野に属するものであり,また,1つの駆動力入力を2つの駆動力出力へと変換する,動力を伝達するという共通した作用,機能を有すると主張する。


 しかし,解決課題が大きく隔たっている公知技術を組み合わせるに当たって,両者が動力伝達機構という汎用性の高い一般的技術分野に属するとしてその容易性の有無を判断することは慎重でなければならず,被告の主張を採用することはできない。


 被告は,刊行物2に「主として船舶に用いられる」との記載があるように,この記載は例示にすぎず,その構造上,歯車機構を用いた反転装置自体に,船舶以外の用途に用いることを可能とする汎用性があることは明らかであるとも主張する。


 しかし,明細書において当該発明を適用する技術分野が例示であると記載されているからといって,すべての技術分野の他の技術が適用容易となるものでないことは明らかであり,本件のように複数の発明を組み合わせて出願された発明の進歩性を否定しようとする場合には,それぞれの発明の技術分野,解決課題,組合せの動機付け等を具体的に検討しなければならない。刊行物1発明と刊行物2発明とは,前記のとおり,技術分野が異なるだけでなく,その解決課題も大きく隔たり,組合せの動機付けも明確でないから,被告の主張は採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。