●平成21(ワ)44954 特許権に基づく工事差止等請求事件「法面の加工


 本日は、『平成21(ワ)44954 特許権に基づく工事差止等請求事件「法面の加工方法および法面の加工機械」平成23年9月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110929170645.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権に基づく工事差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点2(本件発明1に係る本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 大西勝滋、裁判官 上田真史)は、


『本件の事案に鑑み,争点2(本件発明1に係る本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)から判断することとする。

 被告らは,本件発明1は,本件出願前に頒布された刊行物である乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであって,本件発明1に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,被告らに対し,本件発明1に係る本件専用実施権を行使することはできない旨主張する。



ウ容易想到性

(ア)前記(1)及び上記イを前提に検討するに,?乙1記載の方法と乙2記載の巻上装置を使用した法面処理作業の方法は,法面に対する作業内容が,法面の破砕であるのか,法面に対するアスファルト舗装であるのかという違いはあるものの,ウインチとワイヤーとを用いて傾斜面上の「加工機械本体」(台車あるいは処理用作業車)を移動させて作業を行う「法面の加工方法」という同一の技術分野に属するものであり,また,傾斜面上の所望の位置に加工機械本体を移動させ,効率よく法面作業を行うことを目的とする点で課題も共通すること,?上記課題を解決するための手段として,乙1では,アンカー及び巻取機(ウインチ)を法面上部の「左,中,右」の位置に合計三つ設け,「中」の位置のウインチを駆動させて加工機械本体を昇降移動させるとともに,「左」及び「右」の位置の各ウインチを駆動させ,左右2本のワイヤーの巻上げ量を調整することにより可動連結具及び舵取り機構を介して加工機械本体の車輪の軸を水平面内で回動させる構成としたのに対し,乙2では,2台のウインチを左右に設け,左右2本のワイヤーの巻上げ量を変え,その牽引力を異ならせることにより,加工機械本体を曲線をなす境界線に沿って移動させながら上昇させる構成とした点に違いはあるものの,上記課題を解決するために左右のウインチを駆動させて左右2本のワイヤーの巻上げ量を変化させる構成を採用している点では両者は共通していることに照らすならば,乙1及び乙2に接した当業者であれば,乙1記載の方法において,アンカー及びウインチを法面上部の「左,中,右」の位置に合計三つ設けた上記構成に代えて,乙2記載の上記構成のように「左右」の位置に合計二つ設ける構成(相違点に係る本件発明1の構成)とし,これらのウインチの駆動量を別個に制御することによって左右2本のワイヤーの巻上げ量を変え,加工機械本体を所望の位置に移動させることができるようになることを格別の困難なく想到することができたものと認められるから,本件発明1は,乙1記載の方法発明及び乙2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものというべきである。


(イ)これに対し原告は,?乙1は,モルタル吹付等による補強工事が施工された平坦な法面で使用され,また,乙2は,法面を舗装する場合に使用されるものであるので,法面を平坦に加工した後でしか作業ができないものであるから,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように法面で土砂等の切取り,掘削等の作業ができるものではない,?乙1は,台車が自走できず,急傾斜地や主ワイヤー(12a)に台車(1)の自重が加わる所では,台車(1)の自重で,台車(1)が垂直状態になるように移動するため,車輪(3)の方向をいくら変えても方向は変わらず,左右方向への移動は不可能であり,また,乙2は,巻上機(4)にアスファルトフィニッシャ(8)やバギ車(10)を上下方向にだけ吊り上げ,吊り下げできるように左右のウインチ(9A,9B)やバギ車用ウインチ(11)を搭載したものであって,巻上機(4)を法面の上部に配置できるような整備された場所でしか使用することができないものであるので,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の加工機械本体を上下左右に移動させて作業を行うということはできず,本件発明1は,乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて容易に想到することができたものではない旨主張する。

 しかしながら,乙1記載の方法は,「地山補強面の改修工事において,その新しい補強面の施工に先立ち,既存の補強面を破砕する場合に使用」されるものであり(前記(1)ア(イ)),乙1記載の加工機械本体に搭載された破砕機が行う破砕作業は,法面で土砂等の切取り,掘削等の作業を伴うものであるというべきであるから,原告主張の上記?の点は,採用することができない。

 また,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,加工機械本体の左右方向への移動範囲を規定する記載は存在せず,本件発明1において「急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の加工機械本体を上下左右に移動させて作業を行う」ことが必須の要件とされているものとはいえないから,原告主張の上記?の点は,本件発明1の特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,その前提において,採用することができない。

 したがって,本件発明1は乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて容易に想到することができたものではないとの原告の主張は,理由がない。

(3)まとめ

 以上のとおり,本件発明1は,乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであって,進歩性を欠くものというべきであるから,本件発明1に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。

 したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告らに対し,本件発明1に係る本件専用実施権等を行使することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。