●平成22(ワ)9966 意匠権侵害差止等請求事件「マニキュア用やすり」

 昨日は、弁理士試験の論文試験の発表がありましたね!論文試験合格の方、おめでとうございます。口述試験に向けて頑張って下さい。


 本日も、『平成22(ワ)9966 意匠権侵害差止等請求事件「マニキュア用やすり」平成23年9月15日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110921110143.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点2(原告の損害)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部裁判長裁判官森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 網田圭亮)は、

『3争点2(原告の損害)について

(1)意匠法39条1項に基づく損害額の算定について

ア原告実施品の一個当たりの利益は,下記(ア)の275円から下記(イ)合計額の112.9円を控除することにより,162.1円と認められる。

(ア)原告実施品の卸販売価格は,証拠(甲15)によれば,275円と認められる。

(イ)原告実施品を販売するための経費は次の諸経費(認定証拠は括弧内に記載する。)の合計112.9円である。

本体61.3円(甲16の1・2)
ビニールケース38円(甲17)
ATシール8.2円(甲18)
ポスシール(ハート型)5.4円(甲19)

 なお,原告実施品には,ビニールケース入りのもの(甲14の1・2)以外に,プラスチックケース入りのものも存在するが(乙2の1・2,乙3),両者の小売価格は同額(甲21〜24,乙3)であるから,経費の合計額に影響するものとは認められない。

 また,被告らは,人件費,運送費,倉庫賃料,宣伝費,手数料などを経費として控除すべき旨主張しているが,証拠(甲25)によれば,原告は,被告商品の販売開始前には原告実施品を年間10万個以上仕入販売し,被告商品の販売開始後も年間8万個前後の仕入販売をしていたのであるから,原告実施品が小さく軽量であることを考慮すると,これにさらに追加で4万個程度(後記イ)の仕入販売を行うことになったとしても,原告実施品の仕入販売のために既に支出している上記費目の経費が特段増加するものとは認められない。したがって,本件においては,上記費目の経費額を控除する必要は認められない(人件費,倉庫賃料,宣伝費,手数料などは,既に一定数量以上の仕入販売があったのであるから,上記数量の増加によって追加的な経費の支出をもたらすとは考えられないし,運送費であっても,小さく軽量である原告実施品は,それのみ単体で運送されることはなく他の商品類と一体となって運送されるものと考えられるから,数量の増大が運送費の追加的支出をもたらすものとは認められない。)。

イ被告大創による被告商品の譲渡数量は,証拠(丙1〜10)によれば,被告らが自認する4万0524個の限度で認定するのが相当であり,これを超えた数量について認めるに足りる証拠はない。

ウ販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)


 被告らは,被告大創による被告商品の譲渡数量は,?被告商品の価格,?販売ルートの違い,?競合品の存在,?本件意匠の寄与度など,被告商品固有の事情により販売された部分があるとし,これが意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する旨主張するので,以下,そのような事情の存否について個別に検討する。


(ア)被告商品の価格について

 被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。

 そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。

(イ)販売ルートについて

 被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。

 もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。 


 したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。


(ウ)競合品について

 資生堂の商品(乙4)は,棒状や板状の爪やすり(甲22)ではなく,原告実施品と同じ,ラウンドタイプの爪やすりである。

 しかも,資生堂の商品は,本件意匠の要部である隆起部を有しないものの,爪やすりの本体が,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である点や,やすりが,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている点において,本件意匠の要部と構成を共通にしている。

 したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1〜3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。


(エ)本件意匠の寄与度について

 原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。

 ところが,被告商品は,サイズが小さい分把持しにくい上,そのパッケージの使用状態を示す写真(甲4)には,隆起部の窪みとは関係のない部分を指で挟んで使用している様子が示されており(原告実施品のように隆起部の窪みのカーブを利用して指で挟むように把持した場合(甲14の1,甲22),鎖が垂れ下がって邪魔になるはずである。),結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はないものと考えられ,したがって新聞や雑誌等で高く評価されてきたという,原告実施品のデザイン性や機能性が発揮されている商品であるとはいえないものである。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。

 さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。

 他方,原告実施品の販売実績(甲25)を見ても,被告商品の販売開始前である2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増加ないし横ばいであり,原告実施品についても,本件意匠のデザイン以外の要素が販売数量に影響を及ぼしていたことは否定できない。

 したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。


(オ)結論

 これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。


エ原告の損害額

 以上のとおりであるから,意匠法41条,特許法105条の3の規定によるまでもなく,意匠法39条1項に基づき算定される原告の損害額は,原告実施品の一個当たりの利益162.1円(前記ア)に被告商品の譲渡数量4万0524個(前記イ)の3分の1である1万3508個を乗じた218万9646円(円未満切捨て)となるものと認められる。


(2)意匠法39条2項に基づく損害額の推定について

 意匠法39条1項に基づく損害額の算定に用いる原告の利益は,上記(1)のとおり162.1円と認定できるところ,この金額は,被告の税抜き小売販売価格100円を超えるから,同条2項に基づき算定される損害額が同条1項に基づき算定される損害額を上回らないことは明らかである。


(3)弁護士費用について

 本件事案の内容や,前記(1)エの認容額からして,被告らが損害賠償義務を負うべき弁護士費用は,21万円を相当と認める。


(4)損害額

 以上のとおりであるから,原告の損害額は,前記(1)エ及び(3)の合計である239万9646円となる。』

 と判示されました。