●平成23(行ケ)10086 審決取消請求事件 商標権「BLUE NOTE

本日は、『平成23(行ケ)10086 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「BLUE NOTE」平成23年9月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110915085437.pdf)について取り上げます。


本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(商標法4条1項15号該当性についての判断の誤り)および取消事由2(商標法4条1項19号該当性についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 池下朗、裁判官 武宮英子)は、

『1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性についての判断の誤り)について

ア はじめに――本件商標の効力について

 本件商標に係る指定役務は,?「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件総合小売等役務」),及び?「『菓子及びパンの小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』など取扱商品の種類を特定した上で,それらに属する商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件特定小売等役務」)からなるものである。


 商標法25条は,「商標権者は,商標登録に係る指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」旨を規定し,同法37条は,「登録商標に係る指定役務と同一又は類似する役務について,登録商標と同一又は類似商標を使用する行為を侵害とみなす」旨を規定する。したがって,「商標登録の査定ないし商標権の設定登録」は,商標権者に対して,指定役務(類似を含む。)の範囲で,登録商標を使用する独占権を付与する行政行為等である。


 そこで,以下,本件商標中の「小売等役務商標の査定ないし商標登録」の効力の及ぶ範囲について検討する。上記のとおり,「小売等役務商標の査定ないし商標登録」行為は,独占権を付与する行政行為等であるから,独占権の範囲に属するものとして指定される「役務」は,例えば,「金融」,「教育」,「スポーツ」,「文化活動」に属する個別的・具体的な役務のように,少なくとも,役務を示す用語それ自体から,役務の内容,態様等が特定されることが必要不可欠であるといえる。


 ところで,「小売役務商標」は,上記の,独占権の範囲を明確にさせるとの要請からは大きく離れ,「小売の業務過程で行われる」という経時的な限定等は存在するものの,「便益の提供」と規定するのみであって,提供する便益の内容,行為態様,目的等からの明確な限定はされていない。「便益の提供」とは「役務」とおおむね同義であるので,仮に何らの合理的な解釈をしない場合には,「便益の提供」で示される「役務」の内容,行為態様等は,際限なく拡大して理解,認識される余地があり,そのため,商標登録によって付与された独占権の範囲が,際限なく拡大した範囲に及ぶものと解される疑念が生じ,商標権者と第三者との衡平を図り,円滑な取引を促進する観点からも,望ましくない事態を生じかねない。例えば,譲渡し,引渡をする「物」等(小売の対象たる商品,販売促進品,景品,ソフトウエア,コンテンツ等を含む。)に登録商標と同一又は類似の標章を付するような行為態様について,これを,小売等役務商標に係る独占権の範囲から,当然に除外されると解すべきか否かについても,明確な基準はなく,円滑な取引の遂行を妨げる要因となり得るといえる。


 上記の観点から,本件について検討する。

 まず,「特定小売等役務」においては,取扱商品の種類が特定されていることから,特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は,その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的,効率化目的など)によって,特定(明確化)がされているといえる。そうすると,本件においても,本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。


 次に,「総合小売等役務」においては,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」などとされており,取扱商品の種類からは,何ら特定がされていないが,他方,「各種商品を一括して取り扱う小売」との特定がされていることから,一括的に扱われなければならないという「小売等の類型,態様」からの制約が付されている。したがって,商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。),本件においても,本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。


 そうだとすると,第三者において,本件商標と同一又は類似のものを使用していた事実があったとしても,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務の手段としての役務態様(類似を含む。)において使用していない場合,すなわち,?第三者が,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る」各種商品のうちの一部の商品しか,小売等の取扱いの対象にしていない場合(総合小売等の業務態様でない場合),あるいは,?第三者が,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとして,それが,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う」小売等の一部のみに向けた(例えば,一部の販売促進等に向けた)役務についてであって,各種商品の全体に向けた役務ではない場合には,本件総合小売等役務に係る独占権の範囲に含まれず,商標権者は,独占権を行使することはできないものというべきである(なお,商標登録の取消しの審判における,商標権者等による総合小売等役務商標の「使用」の意義も同様に理解すべきである。)。「総合小売等役務商標」の独占権の範囲を,このように解することによって,はじめて,他の「特定小売等役務商標」の独占権の範囲との重複を避けることができる。


イ 商標法4条1項15号への適合性についての判断

 上記を踏まえて,検討する。当裁判所は,本件商標が,その指定役務について使用された場合,引用商標が使用される商品の出所と混同を生ずるおそれはないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

(ア) 引用商標について

 原告は,米国カリフォルニア州ハリウッドに本社を置く大手のレコード製作,販売会社の一つであり,米国ニューヨークで,昭和14年に創設されたジャズ音楽専門のレコード製作,販売会社「BLUE NOTE(ブルーノート)」(以下「ブルーノート社」という。)の親会社である。ブルーノート社は,ジャズ専門レーベルとして,今日に至るまで数多くのジャズ演奏家等の演奏曲を収録したレコード(CDも含む。)に「BLUE NOTE(ブルーノート)」の標章を付して,販売をした。また,我が国において,ブルーノート社は,遅くとも昭和40年代には,レコード(CDも含む。)の販売を開始し,また,昭和61年から平成8年まで,数々の著名ミュージシャンが出演した「ワン・ナイト・ウィズ・ブルーノート」のコンサート等を開催した(甲5ないし甲10,弁論の全趣旨)。


 これらの事実によれば,本件商標の登録出願前から,「BLUE NOTE(ブルーノート)」の標章(引用商標)は,これに接する音楽関連の取引者,音楽愛好家などの需要者において,原告ないし原告の子会社であるブルーノート社の製作,販売等に係る「レコード(CDも含む。)」であると広く認識,理解されていたと認められる。しかし,同標章によって,原告ないし原告の子会社等の出所を示すものとして広く認識されるのは,商品「レコード(CDも含む。)」の販売等,又は,せいぜい同商品の販売等をする過程で行われる便益の提供に関連するものに限られるのであって,上記範囲を超えて広く知られていたとまでは認めることができない。


(イ) 一方,前記アで述べたとおり,「総合小売等役務」は,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売」とされていることから,一括的に扱われた小売等の業務との間で,目的と手段等の関係に立つことが,取引上合理的と認められる役務(類似を含む。)を行った場合に限り,その商標を独占できると解すべきである。


 そうすると,前記(ア) のとおり,原告の引用商標の使用態様は,商品「レコード(CDを含む。)」の販売等又は同商品を販売等する過程で行われる便益の提供に限られるものであり,本件総合小売等役務を指定役務とする本件商標権を被告が有することによって保護される独占権の範囲に含まれるものではないから,被告が同商標を使用したとしても,需要者,取引者において,その役務の出所が原告であると混同するおそれがあると解することはできない。


(ウ) また,本件特定小売等役務には,「『レコード(CDも含む。)』の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,含んでいないから,本件商標を本件特定小売等役務に使用することによって,原告の業務に係る商品又は役務との間で,出所の混同を来すことはない。


(エ) したがって,引用商標が使用される商品と本件商標の指定役務とは類似しないとして,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないと判断した審決は,結論において誤りはない。


ウ なお,被告は,原告による本件訴訟の提起は,原告とBENSUSAN社との合意に反するもので,訴えの利益を欠くと主張する。

 しかし,被告の主張は失当である。原告とBENSUSAN社との間に被告主張のような契約があるとしても,それだけで,原告が,本件商標について,原告の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがあると主張して無効審判請求,審決取消訴訟を提起することが,上記契約に違反するとは認められない。また,他に,本件訴訟の提起が訴えの利益を欠くものと判断すべき事情も認められない。


2 取消事由2(商標法4条1項19号該当性についての判断の誤り)について

 原告は,上記第3の1の(2) のアないしカ記載の諸事情を理由として,被告に,原告の「BLUE NOTE」関連事業の国内参入を阻止するという「不正の目的」があった旨主張する。

 しかし,原告の主張は失当である。

 上記第3の1の(2) のアないしカ記載の各事情は,いずれも,被告に「不正の目的」があることを推認させるものではない。

 この点,原告は,本件商標が登録されたことにより,本件商標の指定役務である特定小売等役務とその特定小売等役務により取り扱われる商品とが類似するものとして扱われるため,引用商標を付した関連商品を販売することができない結果を来すから,被告に「不正の目的」が存在する旨を主張する。しかし,上記説示したとおり,被告において,本件特定小売等役務ないし本件総合小売等役務を指定役務とする本件商標を有したとしても,その独占権は,限定された範囲にのみ及ぶものであって,原告が引用商標を付した関連商品を販売することを禁止する効力はない。のみならず,前記のとおり,本件総合小売等役務については,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供と認められない限り,本件商標の独占権は,当然には及ばない。したがって,原告のこの点の主張は,主張自体失当である。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。