●平成22(ネ)10072 特許権侵害差止等請求控訴事件「研磨布および平

 本日は、『平成22(ネ)10072 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「研磨布および平面研磨加工方法」平成23年9月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110914095104.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、構成要件充足の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古谷健二郎)は、


『1 構成要件充足の有無について

 当裁判所も,被告製品は,少なくとも本件特許発明の構成要件Bを充足しないものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決24頁3行目以下の「1 争点1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について」のとおりである。

(1) 構成要件Bの「セルを開口させずに」について

 控訴人は,特許請求の範囲の解釈においては明細書の記載を参酌すべきであり,本件明細書の記載からすると,従来品と異なる本件特許発明の本質的部分は,層内に多数あるセルを表面にむき出しにすることなく,表面層でセルを覆っている点にあるから,本件特許発明の「開口させずに」とは,研磨布の表面に多数のクレータ状空洞部分が露出していないことを意味し,湿式研磨布に生成される通気・通水可能な微細な連通孔は「開口」に該当しないと解すべきである旨主張する。

 しかしながら,原判決が31頁8行目から32頁18行目まで((イ)の項)及び34頁2行目から35頁14行目まで((オ)の項)で判示するとおり,本件明細書には,本件特許発明の効果として,「層内に内包した発泡セルはクッションの役目を果たす。」(段落【0018】,下線部付加。)と記載されており,クッション性は,発泡セルを取り囲む軟質プラスチックではなく,発泡セル自体にあると理解されるところ,通気・通水可能な微細な連通孔があり,そこから発泡セル内に空気や水が浸入すると,「発泡セル」自体がクッションの役目を果たさないことになるから,本件明細書に記載された効果を奏しない。同様に,本件明細書には,本件特許発明の効果として,「研磨液は,ワークと研磨布のスキン層表面との間を流れた後にそのまま系外へ流出するので,研磨に伴って生じたスラッジなどの異物も研磨布に付着,滞留することなく研磨液に随伴して素早く系外に排出される」(段落【0019】)と記載されており,スラッジなどの異物はセル内に浸入せずに系外へ排出されることが想定されているものと理解されるところ,通気・通水可能な微細な連通孔があると,そこからスラッジなどの異物が浸入する可能性があり,スラッジなどの異物が素早く系外に排出されるという本件明細書に記載された効果を奏しないことになる。

 以上のとおり,原判決が,本件特許発明の「開口させずに」とは,研磨布の表面層にその層内に内包されたセルに通じる穴が開いていないという意味であり,湿式研磨布に生成される通気・通水可能な微細な連通孔が「開口」に該当することは否定できないと判断したのは,本件明細書の記載を参酌した上でのものであり,そこに誤りはない。その他,控訴人の主張するところによっても,上記判断が左右されるものではない。

(2) 構成要件Bの「独立気泡フォーム」について

 控訴人は,本件明細書の「…独立気泡フォームは,…図2の模式図で表すように均一に発泡したセル(気泡)5b−1を内包したコア層5cの両側に非発泡のスキン層5dが形成されたストラクチュアルフォームと同等なセル構造を有し…」(段落【0025】)との記載から,本件特許発明の「独立気泡フォーム」の構成は,研磨布コア層内のセルが,研磨布表面の全体にわたって外部に露出することなく,研磨布表面の緻密層によりコア層内に内包された状態にあることを意味するものであると主張する。

 しかしながら,上記段落【0025】の記載は,「独立気泡フォーム」がストラクチュアルフォームと同等なセル構造を有していることを説明したものにすぎない。他方で,段落【0025】には,「独立気泡フォーム」に関して,「セル5b−1は層内に閉じ込め」などの記載があることや,上記(1)で判示したとおり,通気・通水可能な微細な連通孔がある場合に,本件特許発明の効果を奏しないことに照らすと,「独立気泡フォーム」の構成についても,セルが他のセルと連通したり,ましてや,外部から通気・通水可能な微細な連通孔を有することを許容するものであるとは解されない。さらに,本件特許発明における研磨布の表面層は,軟質プラスチックフォームから作られると特定されているのであるから,表面層について規定した「独立気泡フォーム」の意義を解釈する際に,プラスチックに関するJISの用語を参酌して行うことに誤りはない。

 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。』

 と判示されました。