●平成22(行ケ)10404 審決取消請求事件 特許権「パンチプレス機に

 本日も、『平成22(行ケ)10404 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「パンチプレス機における成形金型の制御装置」平成23年9月8日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110909162856.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消判決の拘束力についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 障泄批チ規子、裁判官 斎藤巌)は、


『4 被告の主張について

(1) 取消判決の拘束力について

 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条5項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。


 したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは上記主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決の違法(取消)事由たり得ないのである(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。

 したがって,特定の引用例に基づいて当該特許発明を容易に発明することができたとはいえないとした審決を,容易に発明することができたとして取り消す判決が確定した場合には,再度の審判手続において,当該引用例に基づいて容易に発明することができたとはいえないとする当事者の主張や審決が封じられる結果,無効審決がされることになる。


 もっとも,取消判決の確定後,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には,減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加され発明の要旨が変更されるのであるから(最高裁平成7年(行ツ)第204号平成11年3月9日第三小法廷判決・民集53巻3号303頁参照),当該訂正によっても影響を受けない範囲における認定判断については格別という余地があるとしても,訂正前の特許請求の範囲に基づく発明の要旨を前提にした取消判決の拘束力は遮断され,再度の審決に当然に及ぶということはできない。


(2) 本件に関する経緯

ア 第1次判決

(ア) 第1次判決は,第1次訂正前の請求項1(別紙1のとおり)に係る特許無効審判請求が成り立たないとした第1次審決を取り消したものである。

(イ) 同判決において,上記訂正前の発明と引用発明との相違点は,以下のとおり認定された。

 相違点1’:第1次訂正前の発明は,ストローク量に応じて加工量が変更可能な成形金型を有するパンチプレス機により成形加工を行うものであるが,引用発明は,工具を有する穴明機により穴明加工を行うものである点

相違点2’:第1次訂正前の発明では,加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部,加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部,各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,及び各プレスモーンョン番号毎に被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを記憶する変更データメモリ部を備え,加工プログラムによる加工時に,金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに,前記変更データメモリ部から被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを生成し,これらの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成しているのに対し,引用発明では,材質メモリ部および板厚メモリ部を備えているか否かは不明であり,金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部を備えておらず,加工条件データとして,共通データと変更データとに分けて記憶し,加工時に両データから駆動データを生成するようにはしていない点


(ウ) 第1次判決は,?引用発明に基づいて,相違点2’に係る「金型情報メモリ部」を備えるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことであり,?相違点2’のうち,「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」構成とすることは,当業者が容易に想到し得るところであり,?相違点1’についても,格別の困難性があるとはいえないと判断した。

イ 本件訂正

 本件特許を無効にすべき旨の第2次審決の取消しを求めた訴訟の係属中に,特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正審決が確定し,第2次審決を取り消す旨の第2次判決が言い渡された。

 本件訂正審決により,第1次判決が対象とした第1次訂正前の発明は,前記第2の2記載のとおり訂正されたところ,その訂正部分は,別紙2の下線部のとおりである。これにより,発明の要旨が変更され,本件発明と引用発明との相違点は,前記第2の3の相違点1及び相違点2のとおりとなったのである。したがって,当該訂正によっても影響を受けない範囲における認定判断については格別という余地があるとしても,第1次訂正前の特許請求の範囲に基づく発明の要旨を前提にした第1次判決の拘束力は遮断され,再度の審決に当然に及ぶということはできない。このことは,第2次判決においても,明言されているところである。

(3) 被告の主張について

ア 被告は,訂正前の相違点と訂正後の相違点とが同一であるか否かは,形式的に判断するのではなく,実質的に判断されるべきであるとして,?相違点2’のうち「金型情報メモリ部」の部分,?相違点2’のうち「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」という部分及び?相違点1’に関する第1次判決の認定判断には,拘束力又は拘束力に準ずる効力があり,又は紛争の一回的解決に資するために決着済みとするべきであると主張する。

イ しかし,そもそも,発明がいくつかの構成要件が有機的かつ不可分に結合して構成されるものであることに照らすと,相違点のうちのさらに細かい要素ごとに検討することが相当であるとはいえない。

 また,上記?の点については,本件訂正審決により,「パンチおよびダイのいずれかの成形位置」を変更,補正するという,本件発明がパンチとダイという複数の成形金型を制御の対象とし,パンチのみならずダイの成形位置を変更,補正し,パンチとダイとの相対的な制御タイミングを制御パラメータとして規定することを明らかにする訂正がされ,実質的にも形式的にも発明の要旨が変更されているのである。

 さらに,上記?の点についても,上記?と同様,本件訂正審決により,パンチ及びダイを備えるパンチプレス機の制御を行うことを明示する訂正がされ,実質的にも形式的にも発明の要旨が変更されているのである。

ウ したがって,第1次訂正前の発明を対象とした第1次判決の拘束力ないしこれに準ずる効力が,本件審決に及ぶことはない。』

 と判示されました。