●平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権「餅」

 本日も、『平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「餅」平成23年09月07日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110908113622.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点2(本件発明に無効理由があるか否か)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


『2 争点2(本件発明に無効理由があるか否か)について

 被告は,本件発明の無効理由として,?特許法36条6項2号違反(構成要件D),?特許法36条6項1号違反(構成要件D),?特許法36条4項1号違反(構成要件B,C),?特許法36条4項1号違反(構成要件D),?新規性なし,?容易想到を主張するが,いずれも採用することができない。その理由は,以下のとおりであるが,事案にかんがみ,まず,無効理由?,?について検討し,その後,無効理由?ないし?について,判断する。

(1) 無効理由?(新規性なし)及び無効理由?(容易想到性)について当裁判所は,東京法務局所属A公証人(以下「A公証人」という。)が,平成21年6月30日に作成した,事実実験公正証書(乙1。以下「本件公正証書という。)において事実実験の対象とされた切餅(以下「本件餅」という。)は,本件特許出願前に販売された「こんがりうまカット」と同一のものではなく,本件発明は,本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明とはいえず,また,容易に想到できたともいえないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

ア 認定事実

(ア) 本件公正証書の記載等

 本件公正証書は,A公証人が,平成21年6月30日に作成した,事実実験公正証書である。本件公正証書には,写真30枚,図面1枚が添付されており,その記載内容,写真及び図面に照らすと,以下の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


イ 判断

(ア) A公証人に提出された本件餅と本件こんがりうまカットの同一性上記認定事実によれば,被告からA公証人に提出された本件餅には,上面及び下面(直方体における最も広い面で上側ないし下側に位置する面)に十文字の切り込みが施されているほか,上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部の上下方向のほぼ中央あたりに,長辺部の全長にわたり切り込みが施されていたこと,本件餅20個はすべて個包装され,更に4辺がシールされた外袋に封入されていたこと,外袋裏側下端のシール部のほぼ中央部には,「賞味期限2003.10.17」と印刷されていたこと,が認められる。そして,被告は,本件餅は,平成14年10月18日に製造され,同月21日以降,イトーヨーカ堂において販売されたものであると主張し,当時被告広域流通部広域量販課係長(現・被告営業本部名古屋支店営業課勤務)であった証人F(以下「F」という。)が,これに沿う陳述(乙2の1)及び証言をしている(以下,これらを併せて「F証言等」という。)。すなわち,F証言等は,本件餅が保管されていた状況について,?本件餅は,被告開発部のG(以下「G」という。)が,平成14年10月21日,イトーヨーカ堂新潟木戸店において購入したものと聞いている,?被告では,後々のクレーム対応のため,製品を一定期間(「半年なり,1年,2年」)保管している,?しかし,本件餅は,上記クレーム対応のためでなく,営業と開発部が共同するという新たな開発スタイルであったという,被告の歴史という部分を踏まえて長期間保管していた,などと述べる。

 これに対し,平成14年当時,イトーヨーカ堂食品事業部加工食品担当バイヤーであった証人B(以下「B」という。)は,平成14年にイトーヨーカ堂において販売した「こんがりうまカット」は,上面及び下面にのみ切り込みがあり,側面には切り込みがなかった,平成15年に被告から「こんがりうまカット」の特徴である切餅の上下面に十字の切り込みを入れることに加え,側面にも切り込みを入れた「パリッとスリット」の販売を他社店舗で始めたいとの申出を受けたなどと,F証言等と相反する陳述(甲32,33)及び証言をしている(以下,これらを併せて「B証言等」という。)。

 この点,上記F証言等は,Gが購入したとされる餅(乙8)と本件餅との同一性について裏付けとなる証拠は一切なく(むしろ,乙8には,「試食サンプル商品購入代金」と記載されており,F証言等において説明されている購入の目的とは齟齬がある。),被告における製品等の保管状況も判然としない。また,本件餅を長期保存していたという目的自体,「被告の歴史という部分を踏まえ」などという,極めて不自然なものである。

 さらに,上記認定事実によれば,本件餅は,上面及び下面(直方体における最も広い面で上側ないし下側に位置する面)に十文字の切り込みが施されているほか,上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部の上下方向のほぼ中央あたりに,長辺部の全長にわたり切り込みが施されているのに対し,外袋の写真及び個包装の図においては,切餅の上面に十文字の切り込みがされているものの(個包装の図によれば,下面にも十文字の切り込みがあることが合理的に推測される。),上記側周表面の切り込みが記載されておらず,包装等に表示されている図柄と内容物が齟齬している。

 この点に関するF証言等は,平成14年7月ころ,「こんがりうまカット」の上下面に十字状の切り込みを設けることは決まっていたが,側面に切り込みを入れることは決まっていなかったため,外袋及び個包装は,上下面に十字状の切り込みのみを入れる仕様で発注し,同年9月ころデザインを確定した,同年10月ころ,側面にも切り込みを入れることになったが,上記外袋及び個包装はそのまま使用した,時期は判然としないが,側面にも切り込みを入れることについて,口頭でBの了解をもらったが,外袋及び個包装と齟齬することについては伝えていない,その後,側面の切り込みについて,工場から安全面,衛生面で問題が発生する可能性があるとの連絡を受け,同年11月23日からは,側面の切り込みがない「こんがりうまカット」を製造,販売するようになった,この点についても,口頭でBの了解をもらった,などというものである。

 しかし,上記F証言等は,以下のとおりの理由から,到底採用することはできない。すなわち,?Bは,上記2回にわたる口頭での了解について強く否定していること,?食品業界大手である被告が,外袋及び個包装に示された商品の図柄と商品の形状とが齟齬する点について,全く配慮を欠いたまま,市場に置いているのは不自然であること,?側面に切り込みを入れるか否かという,切餅としての重要な特徴的構成を突然変更したにもかかわらず,いずれもBとの間の口頭でのやりとりのみで処理することも,不自然であること,?一度,販売を開始した商品について,安全面,衛生面で問題が発生する可能性があるという事情によって,その特徴的な構成を変更したにもかかわらず,その経緯を示す記録が何ら残されておらず,公表もしていないのは不自然であること,?特徴的な構成である側面の切り込みを短期間で変更せざるを得ない,他の合理的な理由及び説明は何らされていないことなどの諸事情を総合すると,上記F証言等の内容は,到底採用することはできない。以上のとおりの経緯に照らすと,本件餅が平成14年10月18日に製造され,同月21日以降,イトーヨーカ堂において販売された「こんがりうまカット」であるとの事実を認めることはできない。

(イ) 被告特許の出願経緯等

 上記認定事実によれば,被告は,平成14年9月6日,切餅及び丸餅の「上下面から切り込みを入れたこと」との構成が特許請求の範囲に記載された特許出願(被告特許?)をして,次いで同年10月21日,こんがりうまカットを販売したこと,また,その翌年である平成15年7月17日,「上面,下面,及び側面に切り込みを入れたことを特徴とする切り餅」との構成が特許請求の範囲に記載された特許出願(被告特許?)をして,次いで,同年9月1日,切餅の上下面及び側面の長辺部に2本の切り込みをいれた「パリッとスリット」を販売したことが認められる。しかるに,被告特許?に係る明細書(甲20)においては,切餅の側面の切り込みについては,何らの説明もない。仮に,平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」に,上下面のみならず側面にも切り込みが施されていたならば,被告は,被告特許?に係る発明について,特許出願前に自ら公然実施をしていながら,その事実を秘匿して特許出願に至ったということになる。むしろ,上記出願に係る事実経緯を総合するならば,平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」には,上下面に切り込みが施されていたものの,側面には切り込みが施されていなかったと推認される。

(ウ) 新聞記事等

 上記認定事実によれば,被告が平成15年9月1日に発売した「パリッとスリット」について,複数の新聞記事等が掲載されている。これらの新聞記事等は,被告のD代表取締役やE常務取締役(現・被告代表取締役)の発言とともに「パリッとスリット」が紹介されているが,同記事等は,被告に対する取材を基にした記事と考えられる。この中で,再三,「パリッとスリット」の特徴として,前年に販売した「こんがりうまカット」と対比して,切餅の側面にも2本の切り込みを入れたことが強調されている。この点に関し,Fは,D代表取締役が,平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」の側面に切り込みが入っていることを,発売当時から認識していたと証言するが(証人F【19頁】),同証言は,上記新聞記事等からうかがえる被告代表者らの認識と齟齬することとなる。むしろ,上記新聞記事等に照らすならば,平成14年10月21日に発売された本件こんがりうまカットは,上下面に切り込みが施され,側面には切り込みが施されていない商品であったと認めるのが相当である。


(エ) 上記のとおり,本件餅の保管目的,保管状況等一切の事情が判然としない上,本件餅の外袋の写真及び個包装の図と内容物が齟齬すること,被告が自らの主張と整合しない特許出願を行っていること,「パリッとスリット」において初めて切餅の側面に切り込みが入ったとの新聞報道がされていること,などに照らすと,平成14年10月21日に発売された本件こんがりうまカットは,上下面に切り込みが施されていたものの,側面には切り込みが施されていない商品であったと認めるのが合理的である。これに反するF証言等は,不自然な点が多く,B証言等とも相反しており,採用することができない。

 なお,被告は,平成14年7月ころ,株式会社山由製作所に対し,「サイドスリットカッター」との名称の付された装置を10台発注し,同年9月30日に納品されたとする取引書類等(乙17ないし20)を提出する。しかし,これらの装置がいつ如何なる用途に使用されたものかは判然としない上,このような取引書類等から直ちに,平成14年10月21日に発売された本件こんがりうまカットの側面に切り込みが施されていたと認めることはできない。また,乙21,27は社内資料にすぎず,その作成及び保管の状況も判然としないから,これをもって,平成14年10月21日に発売された本件こんがりうまカットには,上下面のみならず,側面にも切り込みが施されていたと認めることは困難である。その他,本件全証拠によるも,上記推認を覆すに足りる証拠は存在しない。

ウ 小括

 以上によれば,平成14年10月21日に発売された本件こんがりうまカットに,上下面のみならず側面にも切り込みが施されていたと認めるに足りる証拠はなく,本件餅は,本件こんがりうまカットと同一のものとは認められない。また,本件餅自体,本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明と認めるに足りる証拠は存在しない。

 そうだとすると,本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明と認められるのは,被告が平成14年10月21日以降,イトーヨーカ堂各店舗において発売した本件こんがりうまカット,すなわち切餅の載置底面又は平坦上面に十文字の切り込みが施された発明であって,本件発明の構成要件Aにおいて,本件発明と一致するが,切餅の側周表面に,周方向に一周連続させて角環状とした若しくは対向二側面に切り込み等を設け,焼き上げるに際して上記切り込み部等の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅との点,すなわち,構成要件BないしEにおいて,本件発明と相違する。

 したがって,本件発明は,本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明とはいえず,また,上記本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明(本件こんがりうまカット)に基づき容易に想到できたともいえない。

(2) 無効理由?(特許法36条6項2号違反−構成要件D)について

 被告は,本件明細書には,構成要件AないしCを充足する切餅を焼き上げると,焼き上がりは自動的に,?「最中やサンドウイッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態」の焼き上がり形状,あるいは,?「焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような」焼き上がり形状となる旨記載されているから,構成要件Dにおいて,これらの形状を区別する基準及び上記?の形状となる構成が明らかにされなければならないにもかかわらず,これが明らかにされていないので,本件発明の特許請求の範囲の記載は明確性を欠く,と主張する。


 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。

 まず,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の構成要件Dの記載部分中に,当業者が,本件発明の技術的範囲を理解することができないような不明確な点はない。

 のみならず,以下の経緯に照らしても,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の構成要件Dの記載部分中に,不明確な点はなく,被告の主張は,理由がない。すなわち,当初明細書(甲6の2)の特許請求の範囲には,「【請求項1】 角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の載置底面ではなく上側表面部に,周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする餅。」と記載されており,当初図面3,5(甲6の3。順に別紙図4,2のとおり)には,丸餅や切餅の切り込み部の上側がやや片持ち状態に持ち上がった図が示されている。また,本件明細書の段落【0027】には,「即ち,立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで,図2に示すように,この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,前述のように最中やサンドウイッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となり,自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。」との記載がある。当初明細書においては,特許請求の範囲に,角形の切餅と丸形の丸餅が共に記載されていたこともあり,発明の詳細な説明において,焼き上げるに際して膨化した状態を表現するため,焼きはまぐり,サンドウイッチ又は最中との語を用いて説明していた。このような経緯を考慮すると,本件発明の特許請求の範囲の請求項1の構成要件Dの記載部分は,角形の切餅に関し,焼き上げるに際して,均等膨化したもの,及び,不均一に膨化したものの両者を含むものとして特定しているものと理解することができ,この点について,不明確な点はないといえる。また,構成要件B,Cにおいて,切り込み部等の場所は,明確に特定されている。

 したがって,構成要件Dを含む本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は明確であって,被告の上記主張は採用することができない。


(3) 無効理由?(特許法36条6項1号違反−構成要件D)について

 被告は,構成要件Dは,焼き餅をほぼ均一に焼き上げることが可能となるように,上記?の形状ではなく,上記?の形状に膨化変形することを構成要件としたものであるが,上記?の形状に膨化変形するための具体的方法,手段は,発明の詳細な説明に記載されておらず,このような構成が自明なことともいえず,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されていない発明について,特許請求の範囲(請求項1)に記載して特許発明としたものである,と主張する。

 しかし,上記(2)のとおり,構成要件Dには,角形の切餅に関して,焼き上げるに際して,均等膨化したもののほか,不均一に膨化したものも含んだものとして特定しているものと理解することができ,均等膨化のためには,切り込み部を長く形成することや均等に形成することが有利であることは,技術常識といえる。

 したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されていない発明について,特許請求の範囲(請求項1)に記載したものとはいえず,被告の上記主張は採用することができない。


(4) 無効理由?(特許法36条4項1号違反−構成要件B,C)について

 被告は,発明の詳細な説明には,構成要件B,Cに関連して,「側周表面の対向二側面に形成した,周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部(溝部)」について,その周方向の長さ及び切り込みの深さが明らかにされていないから,当業者は,「最中やサンドウイッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形する」構成を実施することができない,と主張する。

 しかし,本件明細書の記載によれば,本件発明の解決課題及び課題解決方法は,立直側面に切り込み等を設けることにより,焼き上げるに際して,上側が下側に対して持ち上がり,膨化による外部への噴き出しを抑制できる点にあるものと認められる。そして,本件明細書には,「即ち,立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで,図2に示すように,この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり,前述のように最中やサンドウイッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となり,自動的に従来にない非常に食べ易く,また食欲をそそり,また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。」(段落【0027】),「従って,例えば図3に示すように対向二側面の側周表面2Aに刃板5によって切り込み3を形成することで,(前後に切り込み3を殆ど形成せず環状に切り込み3を形成しないが)四面に全てに連続させて形成して四角環状とする場合に比して十分ではないが持ち上がり現象は生じ,前記作用・効果は十分に発揮される。」(段落【0028】),「即ち,刃板5に対して小片餅体1を相対移動するだけで小片餅体1の両側の側周表面2Aに周方向に十分な長さを有する切り込み3を簡単に形成でき,前記作用・効果が十分に発揮されると共に,量産性に一層秀れる。」(段落【0029】)と記載されている。上記記載に照らすと,本件発明における最中やサンドウイッチのような状態とは,やや片持ち状態を含むものであり,部分的に切り込みを入れる態様でも持ち上がりは生じ,上記作用・効果は十分に発揮されるとともに,量産性に優れた切り込み形成が可能となることが開示されている。また,上記のとおり,本件発明は,切餅について,均等膨化のみならず,不均一に膨化したものも含んだものとして特定されており,完全な均等膨化を実施するための記載を要するものとは解されない。さらに,切り込み等が均等に設けられ,その周方向の長さが長いほど,切り込み等を全周に設けたものに近づくことも明らかであるから,片持ちの程度を抑えるように切り込み等を調整することも,当業者であれば容易といえる。

 したがって,発明の詳細な説明の記載には,当業者において,構成要件B,Cに関連する事項を理解して,本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているといえ,被告の上記主張は採用することができない。


(5) 無効理由?(特許法36条4項1号違反−構成要件D)について

 被告は,発明の詳細な説明には,構成要件Dに関連して,「焼きはまぐりができあがったような状態」ではなく,「最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態」に膨化変形するための具体的方法,手段が記載されていないから,本件発明は,当業者が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない,と主張する。

 しかし,上記のとおり,構成要件Dにおける,最中やサンドウイッチのような状態とは,やや片持ち状態を含むものであり,完全な均等膨化が要件とされているわけではないから,この点の被告の主張は,採用の限りでない。

 したがって,発明の詳細な説明の記載には,当業者において,構成要件Dに関連する事項を理解して,本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされているといえ,被告の上記主張は採用することができない。

(6) 小括

 以上のとおり,本件特許には,被告の主張する無効理由は存しない。』


 と判示されました。