●平成21(ワ)8390 特許権侵害差止等請求事件「伝送方法および通信装

 本日は、『平成21(ワ)8390 特許権侵害差止等請求事件「伝送方法および通信装置」 平成23年8月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110831094047.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法29条1項3号の無効理由(同法123条1項2号)に基づく特許法104条の3第1項の抗弁が認められた点で参考になる事案かと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 大西勝滋、裁判官 上田真史)は、

『ア 本件発明1との対比
??a 前記?Aイのとおり,乙15記載の伝送方法は,図1(別紙乙15記載の図面参照)に示すような「一般化されたMMSの構成」を採用したMMSの伝送方法であり,MMSはメッセージ信号であるから,乙15記載の伝送方法は,「メッセージ信号の伝送方法」(構成要件E)である。


 この「一般化されたMMSの構成」には,「SMS」にGSM型のSMSのデータ(テキストデータ),「MMC」(マルチメディアコンテナ)にFAX,スピーチメール,オーディオメール,イメージメール,ビデオメールなど異なるタイプのメディアのデータが含まれており(前記?Aイ?),これらのデータは,タイプの違いに対応してデータフォーマットも異なり,それぞれが他と識別されるデータフィールドに含まれていると理解されるから,乙15記載の伝送方法は,構成要件Aの「少なくとも2つのデータフィールドが含まれるメッセージ信号を伝送する伝送方法」に相当し,「少なくとも2つのデータフィールド」にデータフォーマットが異なるデータをそれぞれ含める工程(構成要件B)を有するものと認められる。


b 前記イ?のとおり,「一般化されたMMSの構成」中の「SMS」内に含まれる「MMCの内容のテーブル」には,ペイロードのメッセージタイプや長さなどに関する情報が含まれている。

 しかるところ,ペイロードとは,ヘッダー部分を除いたデータ本体をいい,データの大きさを「ペイロード長」ということ(甲14(IT用語辞典 e−Words))に照らすならば,上記の「ペイロードのメッセージタイプや長さなどに関する情報」にいうペイロードの「長さ」とは,データ本体の大きさを意味し,これは「データフィールドの大きさ」に相当するものと理解される。


 また,「MMCの内容のテーブル」を含む「SMS」が受信者側のターミナルに送られることにより,シンプルなターミナルタイプのユーザにおいても,MMSをダウンロード又はその一部をダウンロードするか否かを決めるのに必要なすべての情報が提供されること(前記イ?,?)に照らすならば,上記の「ペイロードのメッセージタイプや長さなどに関する情報」にいうペイロードの「メッセージタイプ」とは,ペイロードを構成する各データ本体のデータの種類を意味するものであり,このデータの種類は,テキスト,音声,画像などの内容で区分されるが,更に同一の区分のものも固有のフォーマット(「データフォーマット」)ごとに細分化されること(例えば,画像データは,jpeg,gifなどの固有のフォーマットごとに種類が分かれる。)からすれば,ペイロードの「メッセージタイプ」は,各データ本体のデータの種類(「データフォーマット」を含む。)をいうものと理解される。


 したがって,「MMCの内容のテーブル」は,MMCを構成する各データフィールドの「データフィールドの大きさ」や「データフォーマット」に関する情報(構成要件D)を含み,これらを識別する「識別子」に相当するものと認められる。


 ところで,この「MMCの内容のテーブル」は,「SMS」内に含まれているものであるが,「SMS」は,GSM型のSMSがMMSの一部を構成したものであるから,「SMS」を構成するデータフィールドの大きさやデータフォーマットは,GSMの規格のものであることは自明である。


 そうすると,「SMS」についてはそのデータフィールドの大きさやデータフォーマットを示さなくとも,「MMCの内容のテーブル」を示すことにより,MMSのメッセージ信号全体に含まれるデータフィールドの大きさやデータフォーマットを把握することができるというべきであるから,「MMCの内容のテーブル」は,「メッセージ信号全体の構成を表す第1の識別子」(構成要件C)に相当し,また,「MMCの内容のテーブル」を含む「SMS」のデータフィールドが「第1のデータフィールド」(構成要件B,C)に相当するものと認められる。


 さらに,「MMC」を構成するオーディオメール,イメージメール,ビデオメールなどのメディアの各データフィールドは,「SMS」のデータフィールドとは異なるデータフォーマットのデータを含むものであるから,そのいずれかが「第2のデータフィールド」(構成要件B)に相当するものと認められる。


 以上によれば,乙15には,乙15記載の伝送方法が,「第1のデータフィールドに第1のデータフォーマットのデータを含め,第2のデータフィールドに該第1のデータフォーマットとは異なる第2のデータフォーマットのデータを含める工程」(構成要件B),「前記第1のデータフィールド内に前記メッセージ信号全体の構成を表す第1の識別子を挿入する工程」(構成要件C),「前記第1の識別子に前記データフィールドの数,データフィールドの大きさ,又はデータフォーマットの少なくともいずれか1つに関する情報を含める工程」(構成要件D)を含むことが実質的に開示されているものと認められる。


 c 前記a及びbによれば,乙15記載の伝送方法は,構成要件AないしEの構成をすべて備えているものということができるから,本件発明1と実質的に同一であるものと認められる。


?~ これに対し原告は,?乙15の「SMS」は,ヘッダーであり,「メッセージ本体の内容,構成に関連したデータ」(あるいは「テキスト,音声又は画像等のメッセージ内容を構成するデータ」)は含まれていないから,「第1のデータフィールド」には当たらない,?乙15の「SMS」に含まれるMMCの内容のテーブルの「メッセージの長さ」の情報は,個々のデータフィールドの大きさに関する情報であるとはいえないし,また,マルチメディアに関し,オーディオ,イメージなど,情報の種類としての説明しかされていないことからすると,MMCの内容のテーブルの「メッセージタイプ」は,データ形式に関する情報でしかなく,データフォーマットに関する情報とはいえないことからすると,乙15記載の伝送方法は,「第1のデータフィールド」内に「識別子」を挿入する工程(構成要件C)及び識別子に「データフィールドの数,データフィールドの大きさ又はデータフォーマットの少なくともいずれか1つに関する情報」(構成要件D)を含める工程をいずれも有していないから,本件各発明は乙15記載の伝送方法と同一ではない旨主張する。


 しかしながら,乙15の「一般化されたMMSの構成」中の「SMS」は,GSM型のSMSがMMSの一部として「MMC」の前置部分を形成したものであること,GSM型のSMSがGSM方式によりテキストデータをメッセージデータとして送信するサービスを意味することは,前記?Aイのとおりであるところ,乙15中には,「SMSがMMCの前置部分を形成するような形でGSM型のSMSをMMSの一部としうる。MMSがSMSのみであればMMCは存在しない。そうでなければSMSはCAIから導出されるMMCの内容のテーブルを運ぶ。」(訳文2頁13行〜15行)との記載があり,この記載は,「SMS」には,テキストデータのメッセージ内容が含まれることを前提に,MMCが存在する場合には,「SMS」内に,テキストデータのメッセージ内容とともに,MMCの内容のテーブルを含めることを述べた趣旨のものと解されることに照らすならば,乙15の「SMS」には,テキストデータのメッセージ内容が含まれているといえるから,「SMS」がヘッダーであって「メッセージ本体の内容,構成に関連したデータ」を含まないとの原告の上記?の主張は,採用することができない(なお,原告は,乙15に「通知と内容情報をSMSに限定する」(訳文3頁2行)との記載があることを「SMS」が「メッセージ本体の内容,構成に関連したデータ」を含まないことの根拠の一つとして指摘するが,上記記載部分は,MMSのうち,まず「SMS」の部分のみが受信側のターミナルに送られることを説明したものにすぎず,上記?の主張の根拠となるものではない。)。


 また,「MMCの内容のテーブル」に含まれる「ペイロードのメッセージタイプや長さなどに関する情報」の意義は,前記??bで述べたとおりであり,これに反する原告の上記?の主張は,採用することができない。


 したがって,本件各発明は乙15記載の伝送方法と同一ではないとの原告の主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。


イ 本件発明2との対比

 乙15記載の通信装置は,乙15記載の伝送方法を用いたものであるところ,前記アのとおり,乙15記載の伝送方法が構成要件AないしEの構成をすべて備えていること,本件発明2の構成要件FないしJは,「伝送方法」を「通信装置」と,「工程」を「手段」としている点以外は,構成要件AないしEと同一の構成のものであることに照らすならば,乙15記載の通信装置は,構成要件FないしJをすべて備えているものということができるから,本件発明2と実質的に同一であるものと認められる。


?C まとめ

 以上によれば,本件各発明は,乙15記載の伝送方法及び通信装置と実質的に同一であって,新規性を欠くものというべきであるから,本件各発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。

 したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件各発明に係る本件特許権を行使することができない。

 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件各発明に係る本件特許権に基づく差止請求及び廃棄請求並びに本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。』

 と判示されました。