●平成22(ワ)10984 特許権侵害差止等請求反訴事件「地盤改良工法」

 本日も、『平成22(ワ)10984 特許権侵害差止等請求反訴事件「地盤改良工法」平成23年8月30日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110905092935.pdf)について取り上げます。

 本件では、争点2,3(被告方法は本件発明2−1,2−2の技術的範囲に属するか)についての判断も参考になるかと思います。

 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 網田圭亮)は、

『2 争点2,3(被告方法は本件発明2−1,2−2の技術的範囲に属するか)について

 被告方法(イ号方法,ロ号方法)については,その構成について争いがあるが,その点をさておき,まず被告方法(イ号方法,ロ号方法)が,本件発明2の構成要件Aを充足するか否かについて検討する。

(1) 特許請求の範囲の記載

 本件発明2の構成要件Aは,「建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積で且つ所定深さの空所(2)を形成し,」というものである。

 同構成要件の「空所」は,構成要件B1(B2も同じ)においては,「先に掘削・排土した土壌(S)とセメント等の固化材(C)と水(W)とをそれぞれ所定割合づつ投入する」対象として,また構成要件Cにおいては,構成要件B1(B2も同じ)において投入された材料が,「混合・攪拌して,…固化材・土壌混合スラリー(SC)を生成し,該固化材・土壌混合スラリー(SC)を固化させる」部位として記載されている。

(2) 本件明細書2の記載

 本件明細書2(甲2)には,以下の記載が認められる。

ア 段落【0010】(【課題を解決するための手段】)
「…例えば,空所の大きさとして,開口面積はかなりの広さまで自由であり深さは6m程度まで掘削することが可能であり,その容積内に十分な保持力の改良体を構築することができる。又,空所の深さが深い場合には,例えば0.5〜1mの深さづつ数回に分けて固化材・土壌混合スラリーの生成作業を行うことができる。」

イ 段落【0011】(【課題を解決するための手段】)
「又,本願発明では,空所内において固化材・土壌混合スラリーを生成する際に,まず空所内に固化材と水とを所定割合づつ投入して,それらの材料を該空所内で混合・撹拌して固化材混入スラリーを生成した後,該固化材混入スラリーの量に見合う量だけ空所内に土壌を投入し,空所内において土壌と固化材混入スラリーを混合・撹拌して固化材・土壌混合スラリーを生成するようにしてもよい。」

ウ 段落【0012】(【課題を解決するための手段】)
「又,本願発明では,空所内に注入する水の量を,投入される土壌中の含水量を勘案して調整することができる。即ち,投入される土壌中の含水量は,天候(例えば降雨の後)等の条件によって異なり,該土壌中の含水量分だけ追加する水の量を減少させるように調整するとよい。」

エ 段落【0020】(【発明の実施の形態】)

「空所形成作業では,図1に示すように,建造物の基礎が構築される位置の土壌を掘削機10を使用して掘削・排土し,その掘削した土壌Sを空所2の近くに盛土しておく。このように,予め空所2を形成すると,該空所底部の支持地盤の状態を目視あるいは接触等によって直接確認することができる。…」

(3) 検討

 以上に基づいて検討するに,構成要件Aの「空所」が,「建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して」形成されたものであることは,同構成要件の文言自体から明らかであるところ,加えて,構成要件B,Cの記載に照らせば,「該空所」は,掘削・排土した土壌,固化材,水を投入した上で,混合・撹拌し,生成された固化材・土壌混合スラリーを固化させる対象ないし部位であるというのであるから,「該空所」は,開口面積及び深さにおいて,地盤改良体の大きさに相当するものであると解される。

 なお,この点,本件明細書2では,「空所の深さが深い場合には,例えば0.5〜1mの深さづつ数回に分けて固化材・土壌混合スラリーの生成作業を行うことができる」(段落【0010】)とされているところ,このように空所内で固化材・土壌混合スラリーの生成作業を段階的に行う際には,空所内の底面から上方に向かって行う必要があるため,「空所」は支持層までの深さが確保されていることが前提となることが明らかである。また,同明細書では「予め空所2を形成すると,該空所底部の支持地盤の状態を目視あるいは接触等によって直接確認することができる」(段落【0020】)とされているところ,このように,空所形成により,支持地盤の状態を目視あるいは接触等によって直接確認することができるためには,当該支持地盤の深さまで掘削・排土されていることが前提となることも明らかである。

 したがって,構成要件Aの「空所」は,建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して形成されたもので,開口面積及び深さにおいて,地盤改良体の大きさに相当するものであると解するのが相当である。

(4) 被告方法との対比

ア イ号方法との対比

 イ号方法は,「建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定の開口面積でかつ一定深さの上部空所(11)を形成」(構成a)するが,その後,「該上部空所(11)にさらに支持層まで到達する所定深さの溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して支持層の確認を行」(構成a1)った上で,当該「溝あるいは縦穴(12)を埋め戻」(構成a2)し,さらに,「所定開口面積の領域内で,撹拌混合機のバケット(20)を用いて,排土することなく,掘削を行いつつ,前記所定開口面積内の領域内で,掘削した土壌と前記投入された固化材(M)と混練水(W)との撹拌を行い,スラリーを生成」(構成c)し,「前記スラリーを固化させると改良体が完成する」(構成c)というものである(甲5の2)。

 すなわち,イ号方法における「上部空所(11)」は,形成された後に,更なる掘削が予定されているため,支持層までの深さを有するものではなく(それゆえ「上部空所」と定義されているものと解される。),構成要件Aの「空所」には該当しない。また,イ号方法の地盤改良体の大きさに相当する部分をみても,当該部分のうち「上部空所」が形成された後に掘削された土壌については,そのまま固化材及び混練水との攪拌がされるのであって,一度も排土することが予定されていない。そうすると,当該土壌の部分について,構成要件Aの「空所」に該当するとはいえないことは明らかである。

 よって,イ号方法は,構成要件Aを充足するものとはいえない。

 なお,原告は,イ号方法では,上部空所(11)を形成する空所形成工程aと上部空所(11)の下方を掘削する攪拌工程cの両工程によって,地盤改良体の全体に相当する空所を形成しているから,構成要件Aを充足する旨主張する。

 しかしながら,構成要件Aにいう「空所」が,排土により,文字通り一度は空所を形成するものであることは上記(3)で検討したとおりであるところ,イ号方法においては,上部空所(11)の下方は,掘削はされるものの排土はされず,そのため,本件明細書2に記載されている固化材・土壌混合スラリーの生成作業を数回に分けて行うこと(段落【0010】参照)もできないのであるから,上部空所(11)及びその下方を含めて,構成要件Aの「空所」に該当するということはできず,原告の上記主張は採用できない。

イ ロ号方法との対比

 ロ号方法は,「改良範囲内をのり面を設けながら所定量の排土を行い,上部空所(11)を形成」(構成a)し,その後,「上部空所(11)に固化材料を投入後,掘削機のバケットで固化材料を攪拌し,固化材液を作製」(構成b)し,「ミキシングバケットにより,全体が均質になるまで改良体全体を上下前後に攪拌混合」(構成c)し,「前記スラリーを固化させると改良体が完成する」(構成c)というものである(甲5の2)。

 上記記載のうち,必ずのり面を設けるかについては争いがあるところであるが,いずれにせよ,ロ号方法における「上部空所(11)」についても,形成された後に更なる掘削が予定されていることは明らかであり,支持層までの深さを有するものではないから,上記アで検討したとおり,構成要件Aの「空所」に該当するものとはいえない。

 また,ロ号方法における地盤改良体の大きさに相当する部分をみても,当該部分のうち「上部空所」が形成された後に掘削された土壌については,そのまま固化材及び混練水との攪拌がされるのであって,一度も排土することが予定されていないから,この観点からも,当該土壌の部分について,構成要件Aの「空所」に該当するとはいえないことは明らかである。

 よって,ロ号方法も,構成要件Aを充足するものとはいえない。

 なお,原告は,ロ号方法についても,イ号方法同様,上部空所(11)を形成する空所形成工程aと上部空所(11)の下方を掘削する攪拌工程cの両工程によって,地盤改良体の全体に相当する空所を形成しているから,構成要件Aを充足する旨主張するが,この主張が採用できないことは上記のとおりである。


(5) 小括

 以上に検討したとおり,被告方法(イ号方法,ロ号方法)は,いずれも本件発明2の技術的範囲に属するとはいえない。』

 と判示されました。