●平成22(ワ)10984 特許権侵害差止等請求反訴事件「地盤改良工法」

 本日は、『平成22(ワ)10984 特許権侵害差止等請求反訴事件「地盤改良工法」平成23年8月30日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110905092935.pdf)について取り上げます。

 本件は、特許権侵害差止等請求反訴事件で、その請求が棄却された事案です。

 本件では、争点1における均等侵害の成否についての判断が参考になるかと思います。

 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 達野ゆき、裁判官 網田圭亮)は、

『(2) 均等侵害の成否

ア 原告は,被告物件が構成要件Bを充足しないとしても,被告物件は,本件特許権1の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件発明1−1の技術的範囲に属すると解すべき旨を主張する。

特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,?当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,?当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?このように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないのであれば,対象製品は当該特許権の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり,当該特許発明の技術的範囲に属するということができる最高裁第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。

ウ そこで,構成要件Bが文言上充足しないとしても均等侵害といえるかについて,上記要件を踏まえて検討する。

(ア) 本件明細書1には,以下のとおりの記載がある。


 ・・・省略・・・


(イ) 上記各記載によれば,本件発明1−1の技術分野である地盤改良機については,改良地盤をブロック状に築造し,流動化した状態で地盤改良をするためにはバケットに撹拌翼と液状固化材を噴出する噴出ロッドを取付けるという従来技術(段落【0004】)があるが,その従来技術では,土中の目視が不可能であるため混練りの程度や改良範囲をオペレータが勘で判断することとなり,地盤改良に不充分な部分が生じていたという問題点(段落【0005】)があり,一方,地盤改良の効果を確認するためには電気比抵抗検出方法という従来技術があるが,その従来技術では,バケットで掘削攪拌している施工中に電気比抵抗を同時検出できないため施工管理に時間と手間がかかるという問題点(段落【0006】)があったものと認められる。

 そして,これらの問題点を克服して,地盤改良工事の施工管理をオペレータの勘に頼ることなく客観的かつ正確に行える地盤改良機を提供するという課題(段落【0008】)を解決するために,本件発明1−1は,解決手法として,土塊をバケットで粉砕し,かつ攪拌翼で攪拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出して土と固化材液とを混練りしながら,バケットの先端位置移動軌跡や改良地盤内の電気比抵抗をモニター上で把握ないし監視できる構成を採用したものであり,そして,このような解決手法を採用したことにより,バケットに固化材液吐出ノズルを取り付ける構成による施工効率を維持しつつ,さらに施工途中又は施工後の地盤検査を要しないため,効率よい地盤改良工事が行えるとともに,地盤改良工事の処理進捗状況が客観的に確認できるため,地盤改良を確実に遂行できるという作用効果を奏するものである(段落【0010】)と認められる。

(ウ) しかしながら,被告物件においては,固化材液はプラントから直接ホースで掘削溝に導入するものとされており,バケットに固化材液吐出ノズルが取り付けられていないため,土塊をバケットで粉砕し,かつ攪拌翼で攪拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出して土と固化材液とを混練りすると同時に,バケットの先端位置移動軌跡や改良地盤内の電気比抵抗をモニター上で把握ないし監視できるわけではないから,上記本件発明1−1と同一の作用効果を奏するものとは認められず,この点において被告物件は,均等侵害の第2要件(上記イ?)を充足するものとはいえない。

 また,土塊をバケットで粉砕し,かつ攪拌翼で攪拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出して土と固化材液とを混練りすると同時に,バケットの先端位置移動軌跡や改良地盤内の電気比抵抗をモニター上で把握ないし監視するという部分は,上記検討した本件発明1−1の解決すべき課題及びその解決手法によれば,本件発明1−1の本質的部分に係る特徴であるということができるから,この点についての相違点は,本件発明1−1の本質的部分に係る相違点というべきであって,均等侵害の第1要件(上記イ?)も充足するものとはいえない。

 したがって,以上のとおり,被告物件は,本件特許1の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとの原告の主張は採用できない。

エ 原告は,均等侵害の第2要件について,被告物件のホースは,固化材液吐出ノズルと同じく固化材液を導入する機能を有するものであるから,被告物件は,本件発明1−1と同一の作用効果を奏する旨主張する。

 しかしながら,固化材液導入ノズルの機能は固化材液を導入するにとどまらず,改良すべき地盤内の土塊をバケットで粉砕し,かつ攪拌翼で攪拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出することにより,土と固化材液を混練りするものであるから,被告物件のホースと同一の機能ということはできず,また,この相違点は土と固化材液とを混練りすることができる点や,モニター上での監視により隅々まで混練りができ,固化材液の過不足も生じないようにできる点といった施工効率(本件明細書1段落【0010】【発明の効果】)参照)に影響することは明らかであるから,本件発明1−1と同一の作用効果を奏するとは認められない。

 また,原告は,均等侵害の第1要件について,本件発明1−1の課題である地盤改良工事の施工管理をオペレータの勘に頼ることなく,客観的かつ正確に行うための解決手法は,上記解決手法にいうコントローラやモニターであって,バケットに固化材液吐出ノズルを取り付けることは,同課題の解決に関連するものではないため,その点に係る相違点は本件発明1−1の本質的部分に係るものでない旨主張する。

 しかしながら,上記(ア)fの本件明細書1の「【発明の効果】」欄の記載(段落【0010】)によれば,上記課題にいう地盤改良工事の施工管理を客観的かつ正確に行うという趣旨には,施工管理の効率を上げることが含まれていると解され,その作用効果を奏するについてはバケットに固化材液吐出ノズルを取り付けるという構成も寄与していると認められるから,バケットに固化材液吐出ノズルを取り付けることが,本件発明1−1の課題に関連しないということはできず,原告の主張には理由がない。

(3) 小括

ア 以上に検討したとおり,被告物件は,本件発明1−1の技術的範囲に属するとは認められない。

イ また,本件発明1−2は,本件発明1−1の構成を取る地盤改良機に構成要件Jを付加した発明であり,本件発明1−3は,本件発明1−1の構成を取る地盤改良機に構成要件Lを付加した発明であり,いずれもその発明の本質的部分は本件発明1−1と共通であるから,被告物件が本件発明1−2及び同1−3の技術的範囲に属すると認められないことは,被告物件による本件発明1−1の文言侵害及び均等侵害を検討したところと同じである。』

 と判示されました。