●平成21(ワ)16490 商標権侵害差止等請求事件「ポリマーガード」

本日は、『平成21(ワ)16490 商標権侵害差止等請求事件「ポリマーガード」平成23年07月21日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110729094006.pdf)について取り上げます。

 本件は、商標権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。

 本件では、次の争点についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判 西田昌吾)は、


『3争点3(本件登録商標2の商標登録は無効であるか)について

(1)法4条1項10号該当事由の存否

「需要者の間に広く認識されている商標」といえるためには,商標登録出願の時において,全国の主要商圏における同種商品取扱業者に相当程度認識されているか又は狭くとも1県の単位にとどまらず,その隣接数県の相当範囲の地域にわたって,その同種商品取扱業者の相当程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。

イ被告らは,被告標章1及び5が,本件登録商標2の出願当時において,被告らの業務に係る商品を表示するものとして,需要者である自動車ディーラー,修理工場,板金塗装店,洗車店及び最終的な需要者の間に広く認識されていたと主張するが,次の理由から,被告らの主張は理由がない。

(ア)被告らは,被告商品を販売した取引先からの陳述書等を提出しているものの,これらの証拠によっては市場において被告商品が占める割合や認知度を認定するまでには至らない。

(イ)被告らは,平成9年から平成12年にかけて,被告標章1を付した被告商品が岡山県及び広島県の一部において1万1600台に施工されたと主張する。

 しかしながら,これは施工された自動車に貼布するためのステッカー1万1600枚分を購入したことから推測したというものであるが,同一の自動車に繰り返し施工された可能性も否定できず,現実に1万1600台に施工されたとまでは認めるに足りない。

 また,被告らは,平成9年から平成12年の間における岡山県及び広島県における新車登録台数は1年当たり合計11万8000台,合計で約47万2000台であり,このうちポリマーコーティングを施工された自動車は1割程度にとどまるから,合計でも4万7200台であるとも主張する。しかしながら,この1割という数字は憶測であるし,新車以外に施工されていなかったというのも証拠がない。

(ウ)被告らは,平成15年度から平成17年度の間に,被告標章5を付した商品を合計5130本販売し,全国で延べ約2万5000台に施工されたとも主張する。

 しかしながら,これは,被告商品がすべて消費されたことを前提とするものであるところ,この前提を認めるに足りる証拠はない。しかも,延べ台数であるため,実際に何台に施工されたか明らかでないのは,上記(イ)と同様である。

 かえって,甲37及び38によれば,平成15年から17年までの新車販売台数は乗用車(普通・小型)合計で約992万台,登録車合計で約1200万台であり,平成17年時点における自動車保有台数は約5600万台にものぼることが認められる。

 そうすると,仮に被告らの主張を前提としても,本件登録商標2が登録された時点で,相当範囲の地域にわたって,少なくともその同種商品取扱業者の多くに認識されていたとまではいえない。

 また,乙49によると,平成22年時点において,被告商品と同種の自動車用ボディーコーティング剤について100を超えるブランドがあることが認められることに照らしても被告らの主張は採用しがたい。

(エ)なお,被告らは,インターネットで「ポリマーガード」の文字を検索すると,ほとんどすべてが被告会社の商品であったとも主張する。このことについては,単に原告と被告らの他に当該標章を使用するものがいないということ以上の意味は見いだせない。

ウこれらのことからすると,被告各標章が本件登録商標2の登録出願がされた当時,需要者の間に広く認識されていたとは認めるに足りないというべきである。

(2)法3条1項3号及び4条1項16号に該当する事由の存否通常の注意力をもってみれば,本件各登録商標は,「ポリマー」と「ガード」の2つの語からなる結合標章であることが容易に看取できると認められる。

このうち「ポリマー」の部分は,「重合体」を意味する英語の「polymer」の表音であること及び「ガード」の部分は,「守る。保護する。」などの意味を有する英語の「guard」の表音であることも容易に看取できる。

 他方において,これらの単語の組み合わせが熟語として用いられているとか,商品の品質,原材料,効能又は用途を表すものとして,普通に用いられていることを認めるに足りる証拠はない。

 英熟語としても,一義的に意味を特定することはできないものであって,一種の造語として認識されるものというべきである。したがって,ここから特定の意味合いを看取することはできないし,特定の商品の品質又は役務の質を直接かつ具体的に表示するものでもないとする原告の主張を排斥することはできない。

 したがって,この点に関する被告らの主張はいずれも採用することができないというべきである。

4争点4(被告会社は,被告各標章について法32条に基づく先使用権を有するか)について

 前記3で検討したところによると,本件登録商標1について出願がされた平成13年6月15日の際はもちろん,本件登録商標2について出願がされた平成17年12月27日の際にも,被告各標章が,法32条にいう「被告らの業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた」とまで認めることはできない。

 よって,この点に関する被告らの主張も採用することはできない。

5争点5(損害額)について

(1)法38条2項の適用の可否

 法38条2項は,「損害の額」を推定するものであって,「損害の発生」まで推定するものではない。したがって,損害の発生の立証がない場合には,適用されない。

 前提事実(3),(4)のとおり,これまで原告は,専ら建築用塗料を販売しており,被告商品であるポリマーを用いた自動車の塗装表面保護用コーティング剤を販売していないのであって,市場において全く競合していないことが認められる。

 そうすると,被告商品の存否が原告の売上げに影響を及ぼすこと,ひいては本件商標権侵害により原告に逸失利益に相当する損害が発生したことも認めるに足りない。

 したがって,本件では法38条2項の推定規定を適用することはできないというべきである。

(2)法38条3項の適用

 法38条3項によれば,商標権者は,損害の発生について主張立証する必要はなく,権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りる。これに対し,侵害者は,損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して,損害賠償の責めを免れることができる。

 まず,前記1ないし4によれば,被告各標章を付した被告商品の販売は本件商標権を侵害するものである。本件各登録商標に顧客吸引力が全くない場合には,損害の発生があり得ないとして,法38条3項の適用を否定することができるが,顧客吸引力がないことを認めるに足りる証拠はない。かえって,原告が本件各登録商標を付した商品を継続して販売してきたことについては被告らも積極的に争っていないから,本件各登録商標には一定の信用が化体しているものというべきである。

 他方において,上記(1)のとおり,原告の製造販売する商品と被告商品とは市場において全く競合していない。

 そうすると,本件各登録商標の被告商品の売上げに対する寄与度は非常に乏しいというべきであって,その他関連する事情を総合考慮すると,本件における実施料率はせいぜい被告らの主張する1%とするのが相当である。乙150によれば,平成17年1月から平成21年9月までの間における被告商品の累計売上高は4139万6190円であることが認められる。よって,原告は,これに1%を乗じた41万3961円の損害を被ったものと認めることができる。

(3)被告Pについてみると,被告らの主張及び被告会社代表者の陳述書(乙133)によれば,被告Pは平成16年から代理店としてインターネットを通じて被告商品を販売しているというのである。

 しかしながら,被告Pが販売した数量等については,主張立証がない。被告らの主張によれば,平成17年における「トップネットグループ」以外への販売数量は,全体の約10分の1以下であったというのであるから,その後も同様であったと一応推認するのが相当である。そうすると,被告Pが責任を負うのは,被告会社の売上げのうち多くとも10分の1にとどまると認めるのが相当であり,この認定に反する主張立証はない。

 よって,被告Pは,原告に対し,前記(2)の10分の1である4万1396円の限度でのみ連帯して責任を負うと解するのが相当である。

6争点6(差止請求の可否)について

 乙148及び149によれば,被告会社は,被告各標章を付したパンフレット,ステッカー,ラベル,シール,施工証明書等の在庫をすべて廃棄処分したことが認められる。また,乙122の?ないし乙126の?によれば,被告会社は,平成22年11月に,被告各標章を用いないパンフレット,取扱説明書,施工証明書及びシールを新たに作成したことも認められる。

 このように,すでに費用をかけて標章を変更した被告会社が,再度,費用と手間をかけて,被告各標章の使用を再開することは,にわかに想定しがたいというべきである。

 そうすると,今後,被告らによって侵害行為が行われる蓋然性があると認めるに足りないから,本件訴えのうち差止請求の部分は理由がない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。