●平成22(行ケ)10372 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラス

 本日は、『平成22(行ケ)10372 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラスチック中空標示器」平成23年07月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110802085049.pdf)について取り上げます。

 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件出願における特許請求の範囲の記載が平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項に違反するかについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、

『1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。


2本件出願における特許請求の範囲の記載が平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項に違反するか

 前記のとおり,上記改正前の法36条5項1号は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」,2号は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(中略)に区分してあること」というものであるところ,審決は,本件発明1は法36条5項1号及び2号のいずれの要件も満たしているとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

 ・・・省略・・・

(イ)原告の主張に対する判断

 原告は,本件特許の請求項1には,発明の課題解決のために採用した手段である「中空に一体成形されたプラスチック板体1に流動体Wを給入および排出可能な給排口2を内空部に連通して形成する」という記載が存在せず,標示器の安定設置という発明の目的及び効果を達成することができないから,本件発明1は「発明の詳細な説明に記載したもの」とはいえない旨主張する。

 しかし,法36条5項1号の規定は,特許を受けようとする発明が明細書の発明の詳細な説明に記載した発明を超えた部分について記載するものであってはならないという趣旨であって,発明の詳細な説明に記載された全ての目的及び効果について記載しなければならないと規定したものではなく,発明の詳細な説明に記載した発明の一部のみを特許請求の範囲に記載した場合であっても,その請求項の記載が発明として完結している限り,同号違反になるものではないと解するのが相当である。

 そして,前記(1)イのとおり,本件特許の請求項1には,本件特許の技術的課題のうち?及び?の課題を解決する構成が記載されていて,それによって,「極めて軽量になり,運搬時および設置時における現場作業者の負担が大幅に軽減される」こと,及び「保管スペースなどを大幅に削減することができ,その結果経済的負担が低減される」という段落【0016】に記載された効果を奏することができるのであって,本件特許の請求項1の記載は発明として完結しているものと認められるから,同号違反になるものではなく,この点に関する原告の上記主張は採用することができない。

ウ本件発明1に係る特許出願の法36条5項2号該当性について

(ア)前記イ(イ)のとおり,本件特許の請求項1には,本件特許の技術的課題のうち?及び?の課題を解決する構成が記載され,それによって,段落【0016】に記載された効果を奏することができるものである。そうすると,本件特許の請求項1には発明の詳細な説明に記載された?及び?の課題を解決するための構成に欠くことのできない事項が記載されているといえるから,同請求項1の記載は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した請求項」に該当すると認められる。

(イ)原告の主張に対する判断

 原告は,法36条5項2号に基づけば,本来,特許請求の範囲には特許を受けるべき発明の構成に欠くことができない事項のすべてを記載すべきであるところ,本件発明1においては「中空に一体成形されたプラスチック板体1に流動体Wを給入および排出可能な給排口2を内空部に連通して形成する」ことが特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項であることが明らかであるのに,本件特許の請求項1には,発明の詳細な説明に繰り返し記載されている「流動体Wを給入および排出可能な給排口2」という最も重要な構成要件が欠けているから,法36条5項2号の要件を満たしていない旨主張する。

 しかし,本件明細書の全体の記載を考慮すれば,本件特許における技術的課題である前記?ないし?の各課題は,それらの課題が発明の完成のために全て必須であるというものではなく,?ないし?の課題それぞれに対応した課題解決のための手段が記載され,それぞれの手段に対応した発明の効果が別個に記載されているから,そのうちの前記?の課題解決のための手段が記載されていないとしても,請求項の記載が他の課題を解決する手段とそれに対応する効果を奏するような構成になっている限り,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。