●平成22(ワ)4461商標権侵害差止等事件「Monchouchou/モンシュシュ」

本日は、『平成22(ワ)4461 商標権侵害差止等請求事件「Monchouchou/モンシュシュ平成23年06月30日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110706101915.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、争点1(被告各標章は,本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか)および争点2(被告標章1及び5ないし9は,本件商標に類似するか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 西田昌吾)は、

『1争点1(被告各標章は,本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか)について

(1)被告各標章が使用されているもの

 被告各標章について,原告は,商品である「洋菓子」に使用されていると主張し,被告は,役務である「洋菓子の小売」に使用されていると主張する。


 証拠(甲3〜9,乙208,213,220)及び弁論の全趣旨によると,被告は,ロールケーキなどの洋菓子を製造し,被告各店舗(後記8(1)ウのとおり,被告店舗3,8を除く。)で販売しているところ,同店舗で取り扱われる商品は,箱や紙袋等に包装されて販売されていたことが認められ(弁論の全趣旨),少なくとも,これらに使用された被告各標章については,商品である「洋菓子」に使用されていたということができる。


(2)商品「洋菓子」と役務「洋菓子の小売」の類似性

 また,商品と役務であっても,互いに類似することがあり(商標法2条6項),本件商標の指定商品「菓子,パン」に含まれる「洋菓子」(甲52)と,「洋菓子の小売」が類似するかについても検討する。商品と役務の類否については,両者に同一又は類似の商標を使用したときに,需要者において,商品又は役務について出所の混同を招くおそれがあるかどうかを基準にして判断するのが相当である。そして,この判断にあたっては,取引の実情において,商品の製造販売と役務の提供が同一事業者によって行われるのが一般的か,商品と役務の用途,商品の販売場所と役務の提供場所,需要者の範囲等が一致するかなどの事情を,総合的に考慮すべきである。

 これを,「洋菓子」と,「洋菓子の小売」についてみるに,洋菓子は,製造と販売が同一事業者によって行われるのが一般的であるし(争いがない。),その用途(飲食),商品の販売場所と小売役務の提供場所(店舗),需要者の範囲(一般消費者)は,いずれも一致するといえる。

 そして,上記事情からすれば,洋菓子という商品に使用される標章と同一又はこれに類似する標章を,洋菓子の小売という役務に使用した場合,一般には,商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え,出所の混同を招くおそれがあるといえることになる。

(3)出所混同のおそれを否定する事情の有無

アこれに対し,被告は,「モンシュシュ」は,被告の店舗名として知名度が高い一方,原告商品としての知名度は低いし,原告商品はチョコレートである一方,被告商品はケーキ類や焼き菓子であるから,需要者に出所の混同が生ずるおそれはないと主張する。

知名度について

 被告あるいは被告商品が,これまで多くのメディアで取り上げられてきたことについては,多数の証拠が提出されている。しかしながら,平成21年10月に甲南大学で開催された講演会において,同大学教授から,「堂島ロールという商品名が有名すぎて,モンシュシュというブランド・店名は陰に隠れがちである。」「今後の課題は企業ブランドをどう上げていくかである。」「堂島ロールのイメージが強すぎて,ブランドイメージが埋もれている。」といった指摘を受けている(乙96,97,101,104)。


 また,平成22年9月に実施したアンケートにおいて,週に1回以上スイーツ(洋菓子)を食べる(購入する)20代から50代の女性に対し,「モンシュシュ」という言葉からイメージするものはという質問をしたところ,回答は次のとおりであった(乙206)。すなわち,被告店舗が複数存在する京浜地区(東京・千葉・埼玉・神奈川)でも,「特になし・知らない・聞いたことがない」との回答が15.80%と最も多く,次いで,「堂島ロール」が14.40%,「ロールケーキ」が11.00%である。そして,大阪(被告店舗が複数存在する。)・京都・兵庫(神戸市除く)では,「堂島ロール」が26.20%,「ロールケーキ」が15.20%と,京浜地区よりは高いものの,「特になし・知らない・聞いたことがない」との回答も10.40%存在する。さらに,堂島ロールの認知度が,京浜地区で82.2%,大阪・京都・兵庫(神戸市除く)で96.0%と高いのに対し,その中で,「モンシュシュ」が堂島ロールを製造販売する会社であると認識できるのは,それぞれ,46.2%,56.7%と,半数程度である。

 したがって,「モンシュシュ」は,洋菓子に比較的関心が高いといえる需要者層においてすら,被告の店舗名として一律に被告を想起させるほどの知名度を有していないといえる。

ウ商品について

 チョコレートとケーキ類や焼き菓子は,同一の営業主体が販売することも多いし,需要者においても,同じ「洋菓子」のカテゴリにあるこれらの商品を区別して,その出所を判断しているとは認め難い。しかも,被告は,バレンタイン商戦時期にチョコレートを販売しており(争いがない。),必ずしも商品が異なるわけでもない。

エ以上のとおり,需要者に出所の混同が生ずるおそれがないとする被告の主張は採用できない。


(4)結論

 以上のとおりであるから,被告各標章は,洋菓子について使用される場合であっても,洋菓子の小売について使用される場合であっても,本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているといえる。


2争点2(被告標章1及び5ないし9は,本件商標に類似するか)について

(1)本件商標

ア外観

 本件商標の外観は,別紙本件商標目録記載のとおりであり,楷書体で,欧文字の「MONCHOUCHOU」を横一列に記載し,その下段に,片仮名の「モンシュシュ」を横書きで併記したものである。

イ称呼

 本件商標からは,「モンシュシュ」との称呼が生じる。


ウ観念

 「monchouchou」とは,フランス語で「私のお気に入り」との意味であり,本件商標からは,「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。

(2)被告標章1

ア要部

 被告標章1の外観は,別紙被告標章目録記載1のとおりであり,欧文字の「Monchouchou」を飾り文字で「Mon」と「chouchou」を上下2段に分けて横書きし,その左側に,バラと思われる花の図形を配置したものである。原告は,その主張において,被告標章1を欧文字部分のみからなるものとして論じている。たしかに,「M」の文字の左端をリボン状に延ばした部分の延長が,花の曲線状の茎と重なっており,花の図形自体が,「M」の文字の一部を構成するようにも見えるが,左端のリボン状は,先にいくに従って細くなっており,必ずしも「M」の文字の一部が花の図形であるとはいえず,被告標章1は欧文字と花の図形を組み合わせた結合商標と解される。

 ところで,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


 この点,被告標章1の図形部分は,花というオーソドックスなモチーフを使用したデザインであって,出所表示となるような特段の意味づけがされているとは認められないし,被告の使用する標章に一律に使用されているものでもない。したがって,被告標章1は,全体が1つのマークとして認識されるのではなく,図形部分は飾りであると認識されると考えられ,図形部分からは,出所識別標識としての称呼,観念は生じないと認められる。

 以上のとおりであるから,被告標章1の要部である「Monchouchou」の部分だけを抽出し,本件商標と比較して類否を判断すべきである。

イ外観

 被告標章1の要部の外観は,欧文字の「Monchouchou」を2段に分け,「Mon」を上段に,「chouchou」を下段に,いずれも筆記体で記載したものである。このうち「M」の文字は,文字の端がリボン状に延びた飾り文字になっている。

ウ称呼

 被告標章1の要部からは,「モンシュシュ」との称呼が生じる(明らかな争いはない。)。

エ観念

 被告標章1の要部からは,「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。


 ・・・省略・・・


(9)類否の検討

 前記(8)のとおり,本件においては,出所混同のおそれを否定するような取引の実情は存在しないので,以下,外観,称呼,観念の対比によって,類否判断を行う。

ア被告標章1,5ないし8

(ア)外観

 被告標章1の要部,被告標章5ないし7,被告標章8の要部は,いずれも,欧文字の「Monchouchou」を,飾り文字(被告標章7については,さらに赤色文字)を使用した筆記体で,2段に分けて(被告標章1の要部,被告標章6,被告標章8の要部),あるいは横一列(被告標章5,7)に記載したものであり,本件商標は,欧文字の「MONCHOUCHOU」を楷書体で横一列に記載し,その下段に,片仮名の「モンシュシュ」を横書きで併記したものであるから,その外観は本件商標の上段と類似し,その結果,被告標章1,5ないし8と本件商標は,外観において類似する。

(イ)称呼

 被告標章1の要部,被告標章5ないし7,被告標章8の要部,本件商標からは,いずれも「モンシュシュ」との称呼が生じるから(明らかな争いがない。),その称呼は同一である。なお,本件商標の上段の「MONCHOUCHOU」,被告標章1,8の要部,被告標章5ないし7の「Monchouchou」をフランス語で「モンシュシュ」と発音することを知る需要者がどの程度いるか必ずしも明らかとはいえず,また,フランス語以外の読みとして,いかなる称呼が生じるか,必ずしも明らかとはいえないが,本件商標上段の「MONCHOUCHOU」と当該被告各標章における「Monchouchou」は,同じスペルであることから,異なる称呼が生じることはないといえる。

(ウ)観念

 被告標章1の要部,被告標章5ないし7,被告標章8の要部,本件商標からは,いずれも「私のお気に入り」との観念が生じるから(明らかな争いがない。),その観念は同一である。

 なお,本件商標が,フランス語で「私のお気に入り」を意味することを理解できる需要者がどの程度いるか,必ずしも明らかとはいえないが,本件商標上段の「MONCHOUCHOU」と当該被告各標章における「Monchouchou」は,同じスペルであることから,異なる観念が生じることはないといえる。

(エ)結論

 以上のとおり,被告標章1の要部,被告標章5ないし7,被告標章8の要部は,いずれも,称呼・観念において,本件商標と同一であり,外観の違いも,本件商標をデザインし,文字装飾を施したと認識される程度のものといえるから,被告標章1,5ないし8は,本件商標と類似すると認められる。』

 と判示されました。