●平成22(行ウ)527 特許料納付書却下処分取消請求事件

本日は、『平成22(行ウ)527 特許料納付書却下処分取消請求事件 平成23年07月01日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110701144655.pdf)について取り上げます。

 本件は、特許料納付書却下処分取消請求事件でその請求が棄却された事案です。

 本件では、「その責めに帰することができない理由」についての判断が参考になるかと思います。 
 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 鈴木和典、裁判官 寺田利彦)は、

『1特許権の回復制度について

 特許権の設定の登録が行われた後の第4年以後の各年分の特許料については,これを前年以前に納付しなければならないが(特許法108条2項本文),この納付期限を経過した後であっても,6月間に限り,割増特許料を併せて納付することを条件として,その特許料を追納することが認められており(同法112条1項,2項),この追納期間内に納付すべきであった特許料及び割増特許料を納付しないときは,その特許権は,本来の納付期間の経過した時に遡って消滅したものとみなされる(同条4項)。


 他方,特許法112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は,その責めに帰することができない理由により同条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に同条4項に規定する特許料及び割増特許料を納付することができなかったときは,その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては2月)以内でその期間の経過後6月以内に限り,その特許料及び割増特許料を追納することができるとされている(同法112条の2第1項)。これは,パリ条約5条の2第2項で「同盟国は,料金の不納により効力を失った特許の回復について定めることができる。」と規定され,諸外国においてはこのパリ条約の規定に相当する制度が設けられていることから,我が国においても,特許料の不納により失効した特許権の回復を認める制度を設けることが適当であるとされ,平成6年法律第116号による特許法の改正により新設されたものである。


特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義について

 特許法112条の2は,上記1のとおり,追納期間が経過した後の特許料納付により特許権の回復を認めることとした規定であるが,同条は?拒絶査定不服審判(特許法121条2項)や再審の請求期間(同法173条2項)を徒過した場合の救済条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,?そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであり,?失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなることを踏まえて立法されたものであることに鑑みれば,同条第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当である。


 また,当事者から委託を受けた者に「その責めに帰することができない理由」があるといえない場合には,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。すなわち,特許権者は,特許料の納付について,特許権者自身が自ら又は雇用関係にある被用者に命じて行うほか,特許料の納付管理事務を第三者に委託して行うこともできるところ,特許権者は,いずれの形態を採用するか,また第三者に委託する場合にいかなる者を選定するかについて,自己の経営上の判断に基づき自由に選択することができるものであり,特許権者自らの判断に基づき第三者に委託して特許料の納付を行わせることとした以上,委託を受けた第三者にその責めに帰することができない理由があるとはいえない状況の下で追納期間を徒過した場合には,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるということはできないからである。


3本件における「その責めに帰することができない理由」の有無

 原告は,本件特許権に係る第11年分特許料を納付することができなかった事情として,A法律事務所(前権利者であるフラーレン社が本件特許権に係る特許料の支払を委託していた法律事務所)がB法律事務所(原告が本件特許権に係る特許料の支払を委託した法律事務所)からの再三の要求にもかかわらず,本件特許権に関する一件記録の送付に応じなかったことから,B法律事務所において適切に特許維持管理を行うことができなかったことが原因であり,原告及びB法律事務所には何ら責任がなく,「その責めに帰することができない理由」がある旨主張する。


 しかしながら,仮に,原告が本件特許権に係る第11年分特許料を納付することができなかった事情が原告の主張するとおりであったとしても,原告から本件特許権の管理を委託されたB法律事務所は,受託者として,善良な管理者としての注意義務を負うものであるから,A法律事務所に対し,本件特許権の特許番号,特許料の支払期限,支払状況等が記載された一件記録の送付を求めたというだけで,その注意義務を尽くしたことになるとは解されない。すなわち,B法律事務所が本件特許権を管理するに当たって必要な情報を入手するため,A法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を求めた措置に合理性は認められるものの,その後,相当期間が経過してもA法律事務所から一件記録が送付されなかった場合には,本件特許権に係る特許料の追納期限が到来する可能性についても当然に配慮し,特許権者である原告に対して本件特許権に係る詳細な情報の提供を求めるとか,あるいは自ら特許原簿を閲覧するなどして,本件特許権に係る特許料の納付状況を調査することが求められているというべきであり,このような調査を尽くすことは,本件特許権の管理を委託された者に通常期待される注意義務の範囲内のことというべきである。


 本件において,B法律事務所がA法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を最初に求めた時期は不明であるが,原告の主張を前提としても,B法律事務所は,少なくともA法律事務所から「B法律事務所が特許維持管理の責任を負うことの確認」を求めるレターを受領した平成20年6月5日頃には,A法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を求めていたことになる。本件特許権に係る第11年分特許料の追納期限は平成21年1月17日であり,B法律事務所がA法律事務所に対し本件特許権に係る一件記録の送付を要求してから少なくとも半年以上の期間が残存していたことを考慮すると,B法律事務所は,その間,A法律事務所からの一件記録の送付を漫然と待つにとどまらず,自ら本件特許権に係る特許料の納付状況を調査した上,本件特許権の維持に必要な処置を講じることが求められていたというべきである。したがって,このような調査を行わず,本件特許権に係る第11年分の特許料の追納期限(平成21年1月17日)を徒過させたB法律事務所は,本件特許権の管理者として通常期待される注意を尽くしたものということはできない。


 そして,B法律事務所は,本件特許権の管理について,特許権者である原告から委託を受けた者であり,B法律事務所に「その責めに帰することができない理由」が認められない以上,前示2のとおり,原告についても「その責めに帰することができない理由」があると認めることはできない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。