●平成20(ワ)19874 特許権侵害差止等請求事件「医療用器具」

 本日は、『平成20(ワ)19874 特許権侵害差止等請求事件「医療用器具」平成23年06月10日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110706104543.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件でその請求が認容された事案です。


 本件では、まず、争点1(技術的範囲の属否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 大西勝滋、裁判官 石神有吾)は、


『1 争点1(技術的範囲の属否)について

 原告は,医師によって経皮内視鏡的胃瘻造設術に使用される際における被告製品の構成には,その使用態様1ないし5に応じて,?一体化機構による係止状態(使用態様1,3及び4),?指による重ね保持状態(使用態様3及び5),?使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態の各場合が考えられ,それぞれの構成がいずれも本件各発明の技術的範囲に属するものであるとの前提に立った上で,被告製品を製造,販売する被告らの行為は,本件専用実施権の間接侵害(特許法101条2号)を構成する旨主張する。そこで,以下においては,原告が主張する上記?ないし?の状態にある被告製品の構成が,それぞれ本件各発明の技術的範囲に属するものといえるか否かについて,充足性に争いのある本件各発明の構成要件(B,D,F,H及びI)ごとに検討することとする


 ・・・省略・・・

イ 均等侵害の成否について

(ア) 原告は,指による重ね保持状態にある被告製品における「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」の構成が構成要件Dの「固定部材」と相違し,構成要件Dを充足していないとしても,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する旨主張する。


 特許権侵害訴訟において,特許発明に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造,販売等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても,?当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,?当該部分を対象製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造,販売等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,その対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


 そうすると,指による重ね保持状態にある被告製品の構成が本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるためには,まず,指による重ね保持状態にある被告製品において置換されている構成要件Dの「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設ける構成が,本件各発明の本質的部分ではないことが必要となる。


(イ) そこで検討するに,本件発明1は,前記(1)ア(ア)b認定のとおり,内視鏡的胃瘻造設術などの際にカテーテルの挿入を容易にするために行われる前腹壁と胃体部前壁等の内臓壁との固定に使用される医療用器具に関するものであり,縫合糸挿入用穿刺針と,これと所定距離離間してほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針との基端部を固定部材により固定する構成(構成要件B及びD)を採用したことにより,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針をほぼ平行に同時穿刺する構造とするとともに,胃内などの内臓内に穿刺した縫合糸把持用穿刺針の先端より環状部材を突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が,環状部材の内部を貫通するような位置関係となるように,環状部材が縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる構成(構成要件F)を採用したことで,縫合糸が確実に環状部材の内部を貫通するようにし,これによって前腹壁と胃体部前壁等とを,容易かつ短時間に,安全かつ確実に固定することができ,この固定に伴う患者への侵襲も少なく,患者に与える負担も少なくする効果を奏するようにしたことに技術的意義がある。


 そうすると,本件発明1の構成のうち,構成要件Dに係る「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設ける構成は,本件発明1における課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分であることが明らかである。


(ウ) これに対し原告は,2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を維持するために,指を併用するか,部材自体の構成のみによるかは,本件発明1の目的・効果を実現する上で本質的な相違ではない旨を主張する。


 しかし,本件発明1においては,2本の穿刺針を穿刺した上での縫合による前腹壁と内臓壁との固定を,「容易,かつ短時間に,さらに安全かつ確実に」行うという目的・効果を実現するべく,2本の穿刺針の「ほぼ平行」な位置関係を実現する具体的な手段として,専ら術者の指による保持によって実現される固定などではなく,「固定部材」を用いた固定という,より容易で,安全かつ確実な構成を採用したものであると考えられるから,原告の上記主張は失当というべきである。


(エ) 以上によれば,構成要件Dの「固定部材」の構成は,本件発明1の本質的部分というべきであり,これを欠いている指による重ね保持状態にある被告製品は,本件発明1の構成と均等なものとはいえないから,均等侵害が成立する旨の原告の上記主張は理由がない。


ウ 小括

 以上によれば,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,本件発明1に係る構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められない。


 そうすると,指による重ね保持状態にある被告製品の構成は,「請求項1に記載の医療用器具」にも該当せず,本件発明2の構成要件Iを充足しない。


 したがって,指による重ね保持状態にある被告製品の構成(原告主張の使用態様3及び5)は,その余の点につき判断するまでもなく,本件各発明の技術的範囲にいずれも属しない。


(3) 使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の場合


ア 構成要件Dの充足性について

 原告は,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品について,イエロー針が体表ガイドのイエロー針挿入口に差し込まれ,ブルーウイングがホワイトウイングに重ね合わせられることにより,両ウイングに手を触れることなく,被告製品を軽く動かしてみても,イエロー針はホワイト針に対して動かない状態となるとした上で,このような状態にある被告製品においては,ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイドが,構成要件Dの「固定部材」に該当する旨を主張する。


 そこで,検乙1(被告製品2)に基づき,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の状況をみると,2本の穿刺針は,体表ガイドの二つの穴が2本の穿刺針の先端側をガイドすることの結果として,「ほぼ平行」な位置関係となり,被告製品を軽く動かす程度では,2本の穿刺針の位置関係がほとんど動かないことが認められるものの,ブルーウイングとホワイトウイングは,前者が後者に軽く乗った状態となるだけで,両者が固定されることは全くない。


 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,ホワイトウイングとブルーウイングが,2本の穿刺針の基端部を固定する役割を果たすものでないことは明らかであるから,これらの各ウイングをもって,構成要件Dの「固定部材」に当たるということはできない。また,被告製品の体表ガイドは,二つの穴が2本の穿刺針の先端側をガイドすることにより,2本の穿刺針の位置関係を「ほぼ平行」な状態に維持することに寄与する部材とはいえるものの,2本の穿刺針の「基端部」の固定に寄与するものでないことは明らかであるから,上記ホワイトウイングとブルーウイングに体表ガイドを加えたとしても,これらの部材が構成要件Dの「固定部材」に当たるものということはできない。


 以上のとおり,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品においては,原告が構成要件Dの「固定部材」に当たるものとして主張する「ブルーウイングとホワイトウイング及び体表ガイド」は,いずれもこれに当たるものとはいえず,また,そのほかに上記「固定部材」に当たる構成を認めることもできない。


 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品は,構成要件Dを充足しない。


イ 均等侵害の成否について

 原告は,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品について,構成要件Dを充足していないとしても,当該状態にある被告製品の構成は,本件各発明と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する旨主張する。


 しかしながら,構成要件Dの「固定部材」を設ける構成が本件発明1の本質的部分であって,均等侵害が成立する旨の原告の上記主張に理由がないことは,前記(2)イで述べたところと同様である。


ウ 小括

 以上によれば,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,本件発明1の構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められない。


 そうすると,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,「請求項1に記載の医療用器具」にも該当せず,本件発明2の構成要件Iを充足しない。


 したがって,使用態様2におけるイエロー針穿刺後の状態にある被告製品の構成は,その余の点につき判断するまでもなく,本件各発明の技術的範囲にいずれも属しない。


 これと同様に,原告主張の使用態様4の下における被告製品の構成についても,穿刺時に「固定部材」に当たるものが存在するとは認められないから,構成要件Dを充足せず,また,原告主張の均等侵害も認められないから,本件各発明の技術的範囲にいずれも属しない。


(4) まとめ

 以上のとおり,原告が主張する被告製品の使用態様に応じた前記?ないし?の構成のうち,使用態様1の下における一体化機構による係止状態にある被告製品の構成は,本件各発明の技術的範囲に属するものといえるが,その余の状態にある被告製品の構成は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属するものとはいえない。』


 と判示されました


 詳細は、本判決文を参照して下さい。